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第五十七話 会社が上司の娘と僕の関係を誤解しているんだが-2

 僕たちの話は会社の人たちのいないところじゃないとならなかった。

 二人が一緒にいるところが見られたら、噂がもっと尾ひれをつけて広がるだろう。それで、僕は迷いに迷った挙句、『かわます亭』で珠々さんと話をすることにした。

 なかなか荒くれ者の多い地区だから、駅からは僕が一緒に行くことにした。


 それにしても、どうして僕のあのアイディアが採用されるなんてとんでもないことが起きたのだろう。

 珠々(すず)さんの親切心だとしたら、それは断らなくてはならなかった。どう考えても僕が悪かったのだ。『ドームの夢』なんてこじつけを使ったのだから……。

 

 駅で落ち合ったとき、珠々さんはそれはそれは上品な格好をしていた。『火星世代』の金属紗の中でも一番織目の細かい糸でできた柔らかな藤いろのコートに、肩までの髪は邪魔にならないようにピンで後ろにとめられていた。

 とにかく、『火星世代』のまちにいたって目立つほどの上流ファッションだ。

 僕はこの目立ち過ぎる珠々さんを『開拓団』の好奇の目からどうかくそう、と悩んだ。けれど、珠々さんは『開拓団』の好奇の目に持ち前の育ちの良さで笑顔を返した。すると、『開拓団』の人々は急に恥ずかしくなって目をそらしてしまうのだ。

 僕は珠々さんをなんとか『かわます亭』まで案内すると、店の奥の腰かける椅子のあるテーブルへと連れて行った(僕が占いをさせられたところだね)。


 この見慣れない女性に驚いたのが『かわます亭』の面々で、しきりに僕たちに近づいて話しかけようとした。八割がたが僕を知ってる常連だったから、僕はマスターにお願いしてなんとか口実をつけて僕に話しかけようという連中を遠ざけてもらうしかなかった。


「こういうところは慣れないでしょう。でもどうしても会社の人間のいないところが良かったので」


 僕が珠々さんに言うと、珠々さんは首をふって言った。


「いいえ、いつも山風さんだってこういうところで『開拓団』の方たちとお話なさってるんでしょう? みなさん山風さんのこと知ってらっしゃるみたいだもの。……で、お話って?」


 僕はどう話はじめればいいか迷った。珠々さんには自分と僕のような平社員が噂になっているなどとは想像もつかないだろう。


「それが……僕が本当にいけなかったんですが……。どうも、僕がフェライトコアの提案をするのと同時に、『ドームの夢』の話をしてしまったので、同僚に誤解をさせてしまったみたいなんです。でも、まだ企画書もまとまらない段階でどうして『センター』に話が通ってしまっているのかがよくわからない状況で……」


 珠々さんは少し戸惑ってこう言った。


「誤解って……?」


フェライトは磁石からノイズカットまで原始的かつ重要な技術

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