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第五十五話 宴のあと

僕:亘平こうへい 火星の平凡なサラリーマン。惚れた女性のことで悩んで悩んで借りたバイクで走りだした。そして壊した。しかも迷子になった。

ジーナ:僕が『センター』に秘密で飼っている猫

はるかさん:開拓団のエンジニア。バイクの持ち主。

鳴子なるこさん:遥さんの妹。開拓団の占い師。

「バイクが生きてりゃシステムを脱出させるけど、さてエンジンを切っちまったからどうかな」


 僕は自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。そもそも、地球の重力ならたぶん即死するような事故だ。打ち付けた背中は十分に痛かった。


 基本的には放り出される人間の近くに行くように設計はされているはずだから……、と僕は自分の打ち付けられた岩と谷のあいだを丹念に探した。

 はたしてナビゲーションシステムはそう遠くない場所に転がっていた……。

 運命にいきなり負けたわけじゃないらしかった。


***


「……それで、あたしのバイクはいま谷底ってわけかい。さすがあのバカ息子の友達だよおまえは。亘平こうへい。わかってんのかい、バイクだけの話じゃないだろう! ナビがバイクと一緒に落ちてりゃいまごろ砂漠でお陀仏だよ! まったくどいつもこいつも!」


 はるかさんの怒りは冷めやらなかった。遥さんは鳴子なるこさんにまで言った。


「鳴子! お前の占いってのはほんとにこいつがモノになるって出てるのかい! いったい何のモノになるんだ、人が親切にジーナを預かってやりゃ、人のバイクを谷底にぶち込んで帰ってくる御仁だよ!」


鳴子さんはまあまあ、と言いながらシガレットに火をつけると遥さんに渡した。


「まあちょっとネコカインで一服おしよ。……亘平、お前に何があったか知らないけど、やけっぱちになったってしょうがないだろう……え? それでいったいどうやって帰ってきたんだい……」


僕は情けない気持ちで正直に答えた。


「第一駅から北の方へ向かって、嵐に会ってすっころんだんだけど、ナビが示した帰りが第二地上エルデ駅だったから、そっちへ向かったら一時間ぐらいで歩きついて……」


 それを聞いて鳴子さんは顔を覆い、遥さんは怒りのあまり鼻から大量の煙を吐いていた。


「ああ、ああ、これだよ。こいつは。第二の北は夜の迷宮だ。バイクもすぐに砂丘に埋もれちまうさ。だいたい第二駅の近くで迷子で死にかけたなんて間抜けな話、あたしは生まれてこのかた聞いたことがないよ!」


「命があって戻ってきたんだよ、よかったじゃないか。それで……第二駅からコミューターに乗って戻ってきたのかい。そのぼろぼろの服で」


 鳴子さんはあきれたような、憐れむような顔で僕を見た。僕はそう聞かれればうなずくしかなかったけれど、考えてみれば確かに間抜けな話だった。


「あたしゃあきれてものが言えないよ。亘平の顔を見てりゃ腹が立つからしばらくヤードにこもるからね。鳴子、あとはあんたが何とかしな」


 遥さんはそういうと、本当に部屋を出て行ってしまった。


「バイクは弁償します……」


 僕がおそるおそるそういうと、鳴子さんは僕の肩をポンと叩いた。


「なんの、遥には怒る事情があるのさ。おまえさんが心配で怒ってるんだよ。それと、ジーナのことを考えずに向こう見ずなことをしたってことにね」


 そして鳴子さんは僕の顔をしばらくじっと見て、とつぜんニヤリと笑うとこう言った。


「お前さん、何があったか知らないがいい顔になったよ。男の顔だ。それとバイクは弁償しな」


高尾駅で降りた23区民よ。高尾山口が正しい駅じゃ。

新宿駅で迷った多摩民よ。西武新宿駅は別の駅じゃ。


そして火星でも、物破壊ダンスィは健在。

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