表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/133

【一週間まとめ読み用-1】

一週間をまとめて読みたい方用です。

土日は更新をお休みします。

 まあまず、どこから話そうかね、……そうだ。

 まずこの文章を書いている理由を話そう。


 君に世界を救ってほしいんだ。


 君はいま日本の「小説家になろう」というサイトで、ふと『猫』という文字を見かけてこれを開いたはずだ。きっと、猫が好きなのだろう。そういう僕も猫を飼っている。

 僕は普通のサラリーマンで(といっても3020年の)、僕の愛する縞ネコのジーナも普通の長毛猫だ。大切な家族だけどね。ジーナは灰色の縞柄をしていて、愛嬌はあるけど、太っているし、まあまあうるさいお喋りだし、わがままだ。

 もちろん、31世紀の猫だから翻訳機を使って言葉も話せる。

 まあ、つまり、猫は人間の管理者側だよね。


 僕は31世紀っ子だからわからないんだが、昔は猫は捨てられたりしたんだろう?

 なんかこうさ、茶色い厚紙の箱かなんかに入れられて、拾われるのを待っていたとか。

 ……いま? いまは違うよ。

『宇宙猫センター』から、各家庭に子猫が割り当てられている。

 ある朝、センターから通知が来るのさ。

 その家は大喜びだよ。人間だけの家は地下でくらさなければならないけど、子猫を割り当てられた家は、地上のドームの高級コンドミニアムに引っ越せるからね。

 植物だって育てられるぐらい日光が射すのさ。

 けれど、そう簡単に子猫を育てられるわけじゃない。僕たちは知らないうちに、センターに試されているのさ。猫への忠誠心をね。


 そうそう、百年ほど前に彼らは完全に人類の支配を完了してるんだよ。

『ネコカイン』を使ってね……。


 僕がこの文章を未来から「小説家になろう」に送っているのには、2020年の猫ブームを阻止する目的がある。

 猫好きの君にはなぜそんなことをするのかわからないだろうね。

 けれど、これは君がほんとうに猫好きなら、僕の言うことをやがてわかってくれると思う。


 20世紀にポール・ギャリコが『猫語の教科書』を書いてから、猫たちは少しずつ人間を支配する計画を実行に移し始めた。

 最初は人間の家に入り込み、そのしなやかな美しさで人間たちを魅了した。やがて彼らは、あまりに彼らを愛しすぎた人間たちの活動によって、人権と同じ権利を獲得した。

 そのなかで彼らは、自分たちの計画を実行するのにいちばん必要なものを手に入れたんだ。


『教育をうける権利』ってやつをね。


 猫たちは、めずらしく昼寝もせずに研究したよ。

 自分たちがなぜこんなにも人間に愛されるかをね。


 そして発見したのさ。『ネコカイン』という麻薬をね……。


 すまないね、これを書いている間にもちょっとネコカインをキメないと気分が悪くなってきた。

 いまや、人間たちはこれなしには生きられなくなっているんだよ。


 ちなみに、この話を更新するのは朝になると思う。それなら、奴らは寝ているしね。

 次は僕とジーナとの出会いについて話そうと思う。


 ようやくネコカインが効いてきた……。


 さて、昨日はどこまで話したっけ。

 そうだ、僕とジーナの出会いだ。

 そのまえに、君には僕の状況を知っていてほしい。


 人間たちはもう猫に支配されていると話したけれど、それは奴らが「ネコカイン」を独占しているからだ。僕もネコカインがないと生きていけない一人さ。

『宇宙猫同盟』からは一回の投与で数日はもつカプセルが支給されているけれど、僕はそれを手に入れることができない。

 なぜって……?


 ジーナとの出会いが理由さ。


 ジーナがどんな猫か話したっけ? 灰色のキジトラで、雌だ。デブ猫でうるさい。

 宇宙猫センターから選ばれた家庭に子猫が来る話はしたよね。


 ジーナはセンターからは来ていない。


 ある日本当にとつぜん、僕の家に子猫だったジーナが現れたのさ。

 言い忘れたけれど、僕の住んでいる惑星は地球じゃない。

 火星なんだ。


 まあ、センター(地球)に近いから立地は悪くないけれどね。

 火星がどんなところかって? ああ、そうか。まだ君たちは火星には住んでいないんだね。

 人間たちは2500年ごろに、火星に植民地を作るんだよ。

 火星に植民地を作るのは本当に大変だった。2800年にはメテオラの悲劇という数万人が亡くなる酸欠事故も起こした。

 緑の植物が十分になかったからだけど、今ではリトル・アースと呼ばれるぐらい水も緑も豊富な惑星だ。まだ宇宙から見ると全体的には赤いけれどね。


 そう、そしてジーナだ。

 僕は火星のしがない会社員だ。火星にわずかにあるイリジウムって金属を毎日掘り返す会社に入ってるんだけどね。それを何に使うかは奴らは決して教えてくれないんだ。

 まあ、その金属を掘り返す僕のような会社員は……。

 ふつうはセンターに選ばれないのさ。子猫を受け入れる家庭としては。

 だって僕のように独り身で、会社に行っちゃったら子猫を世話する人もいないからね。


 ある日、ほんとうにある日とつぜん、ジーナは僕の家に現れたんだ。

 夜、いつもの通りインスタントラーメンでも食べようとお湯を沸かしたときにね、家の扉を何かがひっかく音がするんだよ。

 そして、甲高い声でミー、ミー、って鳴くんだ。僕はそれまで、子猫の鳴き声なんか聞いたことがない。

 だから、さいきん会社のやつらがよく見かけるという火星リス(地球から誰かが持ち込んで、ネズミのような生活をするようになったリス)かと思ったんだ。

 けれど、それは違った。

 むかし学校で習った『子猫』だった。

 僕は恐る恐る、子猫を抱き上げた。なにが起こったかは全く分からなかったよ。


 ただ、僕の目の前に小さな子猫がいたんだ。そして、その子猫は薄汚れて、おなかを空かせていた。

 そのとき僕に分かったのはそれだけさ。

 そして、僕は子猫を抱き上げたまま、しばらく呆然としていたと思う。


 21世紀の君たちはそんなとき、どんな気持ちなのかい?


 21世紀は、子猫はどういう風に家にやってくるんだい?

 僕がいまこれを書いて君に送っている31世紀では、センターが優良な家庭を選んで子猫を割り当てる。

 子猫の割り当てられる家は何度も言うけれど、お祭り騒ぎだ。

 ほとんどの惑星で、人間の住むところは地下にあるけれど(宇宙放射線を避けるためにね)、子猫が割り当てられた家庭ではシールド地域の地上に家を持つことができる。

 自分たちが心から愛している猫を家に迎えることができるうえ、広くて快適な家も手に入るんだ。

 それは躍り上がって喜ぶよね、誰だって。

 一年も前から子猫のための快適なベッドや、猫砂や、窓に一番ちかいところにキャットタワーを用意して、子猫を迎え入れるための準備をするんだ。

 いちど、僕の会社の上司が選ばれたときなんか、会社のみんなからうらやましがられていたっけ……。


 でも、ジーナは違う。


 ある日とつぜん僕の家の前にいたんだから、準備なんか全然していない。

 それに、学校で習った『子猫』はふわふわの毛並みで、それはかわいらしかったのに、僕の腕のなかにいるジーナは、毛はベタベタで、やせ細っていた。

 僕はほんとうにどうしていいか分からなかったよ。

 まず何を食べるかもわからない。ひょっとしてどこか地上の家から迷子になってしまったのかもしれない。

 でも、そんなことになろうものなら、宇宙猫センターから毎日のように通達があるはずだ。

 頭のなかはぐるぐるしているのに、腕の中の子猫をどうすればいいか分からないんだ。


 けれどとりあえず、のどが渇いてそうなことは分かったから、とりあえず水を皿に入れてジーナの目の前に差し出した。

 ジーナはちょっとだけ皿を嗅いで、少しだけ、ほんの少しペロッと舐めた。

 そして力なく、目を閉じてうつらうつら始めた。

 小さな頭がちょっとでも震えると、もう死んでしまうのではないかと僕の心も震え上がったよ。

 それはいくら生き物を飼ったことのない僕にだって、具合が悪いってわかるぐらいの状態だったさ。

 とりあえずタオルを持ってきてジーナをくるんだ。


 僕は一生懸命、猫のことを知っている人を思い出そうとした。センターに連絡をしないで済んで、猫のことを知っていそうな人がいないか……。

 親は遠くに離れているし、センターから子猫を割り当てられた上司とは仕事の上でも険悪だ。

 30分以上、頭を抱えてうんうん唸って、僕はようやく一人の人物を思いついた。


 いつも、通勤途中の駅前にいる奇妙な人物だ。

『シャデルナ』という怪しい占いの店をやっている人だ。

 なんで思いついたかって? その人はいつも全身ヒョウ柄なのさ。

 化粧だって、目を吊り上げて猫の目みたいにしている。

 上着には大きなヒョウの頭が描かれていて、要は、3キロ先からだってあの人だってわかるような人物だ。


 なぜそんな人を思い出したかって……?

 それだけ他に思い出せる人がいなかったし、頭が回っていなかったのかもしれない。


 とにかく、僕は小さなジーナを懐に入れて、『シャデルナ』に向かうことにした……。



『シャデルナ』は、火星の第四ポート駅でいつも露店を構えている。

 小さな机の前に『シャデルナ』の主人は座っていて、机の前には大きく【易】と書かれたテーブルクロスが下がっている。

 店の主人は中年の女性で、いつも着ているヒョウ柄の服は、第四ポートの目印だと言ってもいいぐらいなんだ。

 だって、どのポートも同じような建築で、同じような風景が続いているからね。

 そこに『シャデルナ』の女主人を見つけるだけで、ここは第四ポートだな、と確認できるって具合なのさ。


 で、僕はとにかく小さなジーナをタオルに包んで懐に隠して駅に向かった。

 小声で「待ってろよ、待ってろよ」と懐に向かって呟きながらね。

 このときの気持ちは言い表しようがない。不安で仕方ないけれど、どこか小さな命がそばにいることに希望が湧いてくるんだ。


 きっと21世紀のきみたちも、子猫を迎えたときは同じ気持ちだったんだろうな、と想像するよ。


 第四ポート駅についたとき、時間はもうすでに夕方だった。

 そうそう、火星の一日は24時間だから、ほとんど地球と一緒なんだ。

 もっとも、まだ大気が薄いからみんな地下暮らしで、人工太陽が照っているんだけどね。


 ともかく、夕方の薄暗さは僕にとって好都合だった。子猫が他の人に気づかれる心配が少なくなるからね。

 僕がシャデルナに近づいて行ったとき、シャデルナの主人は僕を見るなり顔を下げた。

 僕が近づくにつれ立ち上がりかけ、そしていよいよ一メートルにせまったら、ほとんど逃げるようにして背中を向けた。

 僕は逃がすまいと女主人に話しかけた。


「あのう……」


 女主人はこちらを頑なに見ようとはしなかった。

「うちは厄介ごとはいらないよ!」

 女主人は悲鳴のようにそう言った。どうやら、占い師の職業に間違いなく、未来には特別なカンが働くのに違いない。

「おお、おお、たいへんなことだ、野良の『子猫』だって!」

 僕は聞きなれない言葉に思わず言葉を繰り返した。

「ノラのこねこ」

『シャデルナ』の女主人はそれを聞くと両手で顔を覆った。

「生きてるんだろ、その懐に」

 僕はうなずいた。たぶん、ジーナのことがなければ、僕は一生このタイプの人物と話すことはなかったと思う。けれど、そのときは僕の希望は彼女しかなかった。

 だって、いちばんセンターからは遠いファッションで、僕の知るいちばんアウトローな雰囲気の人物だったからね。

 あとで知ったけど、このときの僕のカンも正しかった。ジーナのためにも、僕のためにもね。

 もし最初に僕が頼ったのが『シャデルナ』でなかったら、いまごろ僕はジーナともども、『消されて』しまっただろうからね。


 僕とその「厄介ごと」から逃げようとする女主人を引き留めて、僕はそっとタオルに包んだ子猫を差し出した。ジーナは力なく目を開いて、女主人を見つめて、また目を閉じた。

 女主人は数秒して大きなため息をついた。僕の袖を強く引っ張って店の陰にかくすと、こういった。


「ちょっと待っといで。いま店を閉めるから」

『シャデルナ』の女主人は、大急ぎで店をたたむと、目立たない黒いコートを羽織り、僕についてくるように言った。

 僕は言われるがままに女主人の後を追った。女主人は第四ポートの2番通路で無人タクシーを止める、僕を車に押し込んだ。

「あたしは別の車で行くから、降りたところの道で先に待っといで!」


 僕は女主人に言われるままに、運ばれたさきで車を降りた。そこは第四ポートシティの中でも薄暗く、少し怪しげな区画で、灰色の小さな建物が連なっていた。こういうのを僕たちは「(火星)開拓時代の都市」と呼ぶんだけどね。


 僕は胸に小さなジーナを抱えて、女主人を不安になりながら待っていた。

 たまにタオルの縁から顔をのぞかせるジーナの様子を確かめながらね。

 僕がだんだん女主人に騙されたのかと思い始めたころ、もう一台のタクシーがついて黒ずくめの女主人がそそくさと降りてきた。


「子猫は?」

 僕は女主人にそう聞かれて、上着のジッパーをちょっと開けて具合の悪そうなジーナを見せた。

 女主人は一つの建物の中に僕を引っ張っていった。

 一つの部屋に押し込められると、そこには医者のような恰好をした(だけどずいぶん不潔に汚れた)男がいた。男は僕と『シャデルナ』の主人を交互に見て、やはり厄介ごとを感じ取ったようだった。


『シャデルナ』の主人は言った。

「お前さん、人間の医者だろ。人間も動物もだいたい同じだろう、こっちも困ってるんだよ」

 僕は、『シャデルナ』の女主人に促されるまま、部屋の診察台にタオルごとジーナをそっと置いた。

 医者はそれを見たとたん、腕を坊主頭に回して僕たちに背中を向け、

「勘弁してくれ……子猫はまずいよ……子猫はまずい……」

 と呟いた。

 それを聞いて、『シャデルナ』の主人は診察台の上に、香水瓶ほどの大きさのガラス瓶を置いた。なかには青く光る液体が入っていた。

「ただで頼もうってんじゃないよ。……ご所望だろ」

『シャデルナ』の女主人はにやりと笑うと小瓶を再び自分のひろい袖の中に収納した。どうやらポケットになっているらしい。

「そんなに怖がらなくても、どうやらこの子猫は『野良』なんだよ。ちょっとお前が診てくれれば、飛び切りのネコカインが手に入るんだよ」


 男は額の冷や汗を腕でぬぐって、なおも渋った。

「うちは銃弾のけがとか、ほかに見せられない傷はやるけれども、子猫は重罪じゃないか……」

『シャデルナ』の主人はそれを聞いて、ジーナのタオルを少しめくり、具合を確かめた。

「モグリが贅沢(ぜいたく)なこと言ってるんじゃないよ……。せめて体温だけでもはかっておやりよ。あんたも開拓団の末裔(まつえい)のはしくれだろ」

 医者はジーナの様子をみて、ため息をついた。僕は医者の気持ちが痛いほどわかった。

 僕だってジーナを抱き上げたとき、同じ気持ちだった。

 でも、いちど『子猫』を見てしまったら、どうにかしなければならない、ということだけが、自分のなかで確かめられるのだ。


 医者はうす黄色い点滴を取り出すと、温め、細い針をジーナの小さな背中に刺した。

 そして、僕にこういった。

「これから、覚悟しないといけないぜ。おまえさん、この子に責任もてるのかい?」

お読みいただき本当にありがとうございます!

全てのページには一番下に【評価欄:☆☆☆☆☆】がありますので、

読んでみたご感想を、ぜひご送信ください!m(__)m


【一例】


★★★★★評価 →面白いので続き読むよ!


★★★★☆評価 →面白かったよ! がんばれ!


★★★☆☆評価 →読めるよ! がんばれ!


★★☆☆☆評価 →存在は許す。がんばれ!


★☆☆☆☆評価 →許さないけど寛大だから押したるわ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ