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第四十九話 隔たり-4

 午後、僕はまた資料室に出向き、そこにはいつものように槙田まきたさんが受付をしていた。僕が受付で資料室へのアクセスの手続きを取っていると、資料室から先客が出てきた……冠城かぶらぎ 珠々(すず)さんだ。

 珠々さんは僕が受付にいるのにあからさまにびっくりして、僕はなんだか理由もなく申し訳なくなった。


山風やまかぜさん……」


「すみません……まだ例の件で調べ物をしていて……」


「いえ、ちょうどオテロウに言われて資料をチェックしに来たものですから。もう出ますからお邪魔にはなりませんわ!」


 珠々さんは笑顔でそう言ったけれど、なぜか少し緊張した様子だった。槙田さんが僕のトークンを持ってくると、珠々さんは少しほっとした表情になった。

 僕はトークンを受け取りながら言った。


「邪魔だなんて……そういえば、朝、入り口で会いましたね。『センター』付きの人がまさか博物館で受付してるとは想像しなかった」


 槙田さんはそれを聞いてこう言った。


「資料室にきた冠城さんにお願いしたのは私なんですよ……。そのときは本当に急ぎで、私のミスでしたから断って当然だったと思いますが、彼女は人ができている」


 まあ、普通に考えて『センター』付きの人が快く雑用を引き受けてくれるというのは驚きだった。少なくとも僕は『センター』付きの人の態度については、あまりいいイメージがない。

 それを聞いて、珠々さんははにかんだ笑顔を浮かべた。


「いえ、私なんかまだ下っ端ですもの……それより、山風さんが新しい製品のために資料を熱心にあたられてるって、槙田さんがほめてらっしゃいましたわ!」


 珠々さんはもともと潤みを帯びた大きなをしているうえ、いまはその目を明るく見開いていた。その素直な尊敬のまなざしは今の僕にはとても居心地が悪かった。

 だって『はじめの人たち』について調べているなんて知られたら懲戒ものだからね。


「いえ、僕は……調べ物が趣味みたいなもんで……。いや、違うんです。新製品て言ったって、僕もさすがに『ドームの夢』がみたいかな、って……。まあそんな下心ですよ。褒められたもんじゃない」


 僕がしどろもどろでそういうと、珠々さんはあっ、と言ったっきり少しうつむいた。

 彼女の表情は、肩までの髪のかげに隠れてよく見えなかったけれど、すぐに顔を上げたときはいつもの通りの笑顔だった。


「あら、そういうことでしたら熱心にもなりますわね!」


槙田さんも少し驚いたように僕にこう言った。


「それは……意外と言ったら失礼ですが、そういうことですか。手伝えることはありますか? といっても大して権限があるわけじゃないが。そんなに熱心になれるのが素晴らしい。おめでとうございます」


「ほんとう、お相手の方がそれほど素敵なかたですのね」


 そうだ。考えてみれば何ごとにも冷めている『火星世代』が家庭を持つために熱心に取り組むというのはそれなりにインパクトのある話だった。お相手と聞いて頭にぱっとときの顔が浮かんだけれど、怜に怒られそうですぐに妄想を打ち消した。


「いや、お相手と言ったってまだ……いやまだそっとしておいてください……」


 視界の端に槙田さんと珠々さんが顔を見合わせているのがわかった。

 僕はもう二人と目を合わせることもなく、早々に話を切り上げて資料室へと逃げ込んだわけさ。


明日は『はじめの人たち』へのデータアクセス

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