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第四十八話 隔たり-3

 その日の午前中はつまり視察の日だったので僕は資料室には行けなかった。そして僕は全員が呼ばれた会社の大会議室で、珠々(すず)さんをまた見かけた。

 その会議室はほとんど大講堂と言っていいほどの大きさで、『センター』の猫専用の演壇がそなわっている。演壇には赤いびろうどのクッションが置かれ、そこにスポットライトがあたるようになっている。

 今日、視察にやってきた猫はオテロウという名で、『センター』でもかなり高位の猫らしかった。

 演壇に座ったオテロウという猫は全身がつやつやした灰色で、大きく美しかった。

 ジーナは『センター』の猫とは違って毛が長めだったので体重より大きく見える。でも、今日やってきた猫は毛が短いのにもかかわらず、今まで僕がみたどの『センター』の猫より大きかった。

 そして、その猫は翻訳機を通して言った。


「われわれ『センター』の希望するイリジウムは今のところ満たされている。しかし、今後、一火星年(24か月)のあいだにわれわれは二倍を必要とする予定である。ついては、ますますの忠誠と勤勉とによって目標を達成してくれるように、我々は希望する」


 そして美しい翡翠ひすい色の目で、僕たちを見渡した。

 

 それにしてもどうだろう、この話し方、あまりにジーナとはかけ離れているじゃないか。僕は思わず子猫時代のオテロウがジーナのように甘えるさまを想像しようとしたが無理だった。

 オテロウはあまりに堂々としていて、生まれたときから人間に命令していたようにしか見えなかった。


 『センター』は子猫を人間の家庭にくばり、『子猫』はそこで育ったあと、七歳になると『センター』に戻って人間を支配する側になる。

 けれど、ほとんどの人間は『センター』がなんであるのかは分かっていない。『センター』に上がった猫たちが、どんな風に暮らしているかさえ秘密だ。


 そもそも、猫を愛し、忠誠を誓い、猫の知性を信じるなら、『センター』について疑問をいだく必要などない。僕たちは『センター』のことを考えた瞬間に他のことに意識を移すように訓練されている。

 それで、僕は自分の中の違和感を無意識に打ち消した。


 そしてオテロウは僕たちがきわめて熱心に『センター』の話に集中しているのを見て、満足だと示すために喉を鳴らした。


 そして僕たちを見渡すそのオテロウの横に珠々さんは控えていた。つまり、彼女の本来の部署は会社の中枢部だったというわけだ。

 会議室からもどってビジネスリングのデータを確認したら、確かに『センター秘書室』になっていた。そのうえ自分の先入観を恥じたけど、若いと言っても僕と年齢は二つしか違わなかったし、なんなら僕と比べてはるかに華々しい経歴だとも言えた。


違和感とは日常では打ち消されるためにある

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