第四十七話 隔たり-2
「仕事場で何回かああいう傷を見たことがありますからね。でも仕事での傷はすぐに痛みはとるし、あんなにつらい思いはしないですから」
もっと言うなら、本当にひどいけがには自動救護ポッドが駆けつけて、冬眠状態にして病院まで運んでくれる。
そして、会社には社員のiPS組織ストックが義務付けられていて、すみやかに組織は培養されて、再生される。
会社にもどってくるまでにはだいたい一週間ぐらいだ。(臓器を大部分損傷すると、臓器を作る必要があるから、もうちょっと時間はかかるけどね)
僕がそういう話をすると、男は
「それじゃまるで部品をとっかえて働かされるロボットじゃねえか」
と首を振った。
僕は反論しようとして自分のろれつが回りにくくなっていることに気が付き、飲みすぎたな、と思った。
「でもまあ、いい給料もらえてケガの手当ても早いんだったら、それは俺だってロボットになりたいよ、なあ若いの」
となぐさめるように肩を叩かれたのが、その日僕が最後に覚えている情景だった。
次のあさ目が覚めたときに、僕が最初に見たのはジーナの湿った黒い鼻の先だった。ジーナはどうやら床で寝てしまった僕をずっと覗き込んでいたようだった。
「ジーナ……僕、ごはんあげたかな……」
僕は体を起こしながらそう言った(ちなみに、3020年にアルコールはもう飲むものではないよ。もっと体には優しい『色んな』成分が入ったトニックが主流だ。たまに昔の小説に二日酔いというのが出てくるけど、僕は体験したことがない)。
「ジーナ、ごはんは食べたにゃ。ぱっぱお水飲むにゃ」
ジーナは心配するように僕の背中にまとわりつき、僕はジーナを抱きあげると思わずほおずりした。
ああ、そうだ、会社から配られるネコカインなんかよりこっちの方がずっと幸せな気分になる。
けれどジーナは僕の顔に向けて前足をつっぱると、瞳孔を針のように細くして僕を見つめ、耳を寝かせた。
「はいはい、水を飲むよ。そう怒るなよ」
そして僕は水を飲んだあと、いつものように朝の支度をして会社に向かった。
いつものようにコミューターから降り、会社の入り口でIDチェックを受けると、入り口に会社のお偉いさんたちが集まっていることに気が付いた。
それで思い出したんだ、その日が『センター』からの視察の日だとね。
僕がお偉いさんたちをすり抜けていこうとすると、列の中ごろから僕に会釈する人がいる。
よく見ると、あの冠城珠々(すず)さんだった。
僕が会釈を返すと、彼女はにっこり微笑んだ。
3020年にも大名行列は健在






