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第四十六話 隔たり-1

僕:亘平こうへい 『センターに秘密で猫のジーナを飼っている。平凡な火星のサラリーマン。鉱物採掘会社で働いている。

じんさん:『開拓団』のモグリの医者。亘平の友人

とき:地上で出会った謎の美女。

 仁さんはそれきり口をつぐんだ。

 僕もそれから何も言わなかった。

 しばらくしてケガ人のおかみさんが文句をぶつぶつ言いながらケガ人を迎えに来て、僕はそれをいいきっかけに逃げるようにして診療所を後にした。


 『開拓団』と『火星世代』。

 いくら仲が良くなったって、そこには言葉にならない壁があった。

 仁さんはそれを言おうとしていたのだと思う。例えば職業だってそうだ。

 『火星世代』は事務仕事で、『開拓団』は力仕事が多いって話は前にしたよね……。

 でも本当のところ、もっと誰も表ではっきりとは話さない違いがある。それは、『開拓団』は『生命いのち』にかかわる仕事を受け持って、『火星世代』は『生命』にはかかわらないってことだ。

 

 例えば仁さんの仕事だってそうだ。

 仁さんは違法なクスリも扱うモグリだけど、モグリじゃなくても医者ってのは『開拓団』の仕事だ。

 それから、iPSパテ(火星で作られている人工肉)だってそうだ。

 細胞の培養からたべる形になるまで、ほとんど『開拓団』地域で作られている。

 人の葬式を取り仕切るのも『開拓団』だ。

 『開拓団』と『火星世代』でさえ、これほどまでに言葉にならない隔たりがある。

 僕はそれをまざまざと思い知った。


 それでいて、その日から余計にときに会いたくなった。

 彼女が『はじめの人たち』かどうかなんて関係ない。

 理由なんかわからないし、もう理由を探す気もなかった。

 

 ただ僕は怜に会いたかったんだ。

 

 僕はそれから、よく独りで『かわます亭』で飲むようになった。

 仁さんたちも僕を避けているのか酒場には来ない。

 もちろん、怜もいない。


「命ってのは奇妙なもんさ、だってぽっとそこに命の火がともった瞬間から、消えることが運命づけられてんだから。それを忘れずに生きるんだ。あんたわかるかい、若いの、それが『開拓団』の心意気だよ」


 いまはひとりの酔っ払いが、僕のひとりごとに話を合わせてくれる。

 たぶん、あのときケガ人を連れてきた一人かもしれないと思うけど、向こうは僕を知っている風で、僕は誰だか思い出せない。

 この人の言う『開拓団』の心意気と、『火星世代』は違う。僕たちはなんだかずっと生きることを前提にいろんなことを考えてしまう。

 まるでそこに終わりなんかないように。


「でも、あんたたちを見直したぜ。あんたあんな傷をみてあわてたりしないんだからな。俺は『火星世代』ってのはもとヤワかと思ってたぜ」


つまり、男はやはりあの時の一人だったわけだ。僕も他に飲む相手がいないから適当に話を合わせた。


とつぜん亘平の中で流れる山崎まさよしのワンモアタイム

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