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第四十一話 サラリーマン亘平のひみつ-2

僕:亘平こうへい センターに秘密で野良の子猫を飼っている男

地上で会った謎の美女の正体をしるために、会社の資料室に潜り込みたい

 とにかく僕はその日、会社から少し離れたところにある資料室に向かうことにした。

 必要なのは、毎日そこに入り浸るそれらしい理由と、それから資料室のデータが見られるアクセス権だ。

 それで、上司にこう言った。


「部長、廃棄物の再利用の件で、ちょっとアイディアがあるのですが……」


 僕は会社の中ではとにかく平凡を極める社員だったので、自分からアイディアをもっていったことなどほぼなかった。

 それで、部長はしばらく視線をさまよわせ、ようやく思い出したようにこう言った。


「うん、君は……。生産管理課の……ね。うん、なんだろうか?」


 僕は思いつくかぎりの『出来そうな男の顔』をして、生産データの表を部長に渡して言った。


「これ、生成過程でマンガンと鉄が余ってるので、フェライトコアを作って売ることを提案したいと思いまして」


 だけど、部長は僕の顔をもう見ようとはしなかった。


「マンガンは関連会社におろしてるだろ」


 部長が興味なさそうにそういうので、僕はさらに熱心な社員を演じざるを得なくなった。


「いえ、実は僕もいろいろ市場調査をしていて……開拓団地域で電力がたりないので、フェライトコアの需要があるらしいんです。それで、しばらく開拓団のひとたちに話を聞いたら、たしかに古い機械なんかもうたくさん寿命がきてるみたいで。発電以外にもコアなら使い道がたくさんあります。それで、うちの会社が自前で作った場合……」


 部長は自分の角ばったあごを両手でマッサージするようにさすった。

『火星世代』にとって新しいことはとにかく面倒なのだ。

 僕もそうだったから責めることはできない。

 しょうがないので、僕は『火星世代』の切り札を出した。


「僕もそろそろ……ドームの夢が見たいので」


 そこでようやく、部長は顔を上げてもういちど僕の顔を見た!

 地上にあるドームには『センター』が子猫を与えた家庭しか住むことができない。

 つまり、ドームの夢とは、『火星世代』が家庭を持ちたいときに使う言葉だ。


 僕のもくろみはうまくいった。

 つまり前も話したけど、部長の家はむかし『センター』からの子猫を育てたことがある。

 部長にとっては僕の夢は説得力があったらしい。


「うん……そうか、そういうことか、そりゃそうか」


 部長はそのほかの詳しいことを聞かなかった。

 そして僕には資料室に自由に近づく権利が与えられたというわけさ。



 僕はさっそく資料室へのトークンをもらってコミューター(この場合は僕の会社のもってる少人数モノレールみたいなやつだ)に乗り込んだ。

 会社から資料室まではコミューターが通っている。

 このラインは会社の見学者のために特別に屋根が透明で、トンネルにも明るい照明が取り付けられているんだけど、そのおかげで赤い縞もようの地層のなかを走っているのがわかるんだ。

次回、もうひとりの美女あらわる

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