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第三十八話 日曜日にはネズミを殺せ-3

「ジーナ!!」


 僕がそう叫ぶと、影は一瞬とまって、でもすぐにランダムに方向を変えるネズミを追いかけ続けた。

 僕は手に持っていたライトをズボンの腰に固定すると、気配の方向へ走った。

 ときはさけんだ。


「亘平! スイッチを鳴子さんのいる通風路に置くわ!」


 そして怜も気配のする方向へ先回りするように走った。

 懐中電灯の明かりでは、何もはっきりとは見えなかった。

 ただネズミの走る音、追いかける黒い気配、そして走り回る二人に取り付けられた、やみくもに乱れ飛ぶ二本の光の筋。


「ジーナ、聞いてくれ。僕が何をしたかわからないけど、本当にごめん。ジーナ、おいで。家に帰ろう」


 僕は必死で話しかけた。でも黒い影はまったく止まらなかった。

 ほんとうにジーナなんだろうか? 

 僕が息を切らして一瞬立ち止まったとき、怜がうまい具合に帰ってきた八個目のネズミを見つけて、何か細工をほどこして僕に手渡した。


 僕は気配のする方向にそのネズミを走らせた。

 ネズミは途中から円を描く様に走りはじめ、影はしばらくそのネズミを追いかけたあと、ついに狙いを定めて飛びかかった!


「いまよ! 捕まえて!」


 怜がそう叫ぶのと同時に僕はネズミをくわえた影を両腕で抱きかかえた。

 それはちょうど一抱えあるくらいで、そしてあらん限りの力で爪を僕の腕に食い込ませていた。

 おそるおそる腕の中を見ると、その生き物はネズミを歯をむき出しにしてくわえながら、フーフー唸っている。


 僕にはジーナかどうかとっさにはわからなかった。

 けれど、その首には確かに翻訳機のようなものが付いていたのだ!


 僕はジーナ、ジーナ、と優しく呼びかけた。

 最初は何の反応もなかったけれど、僕が爪の痛みに耐えてジーナの足を支えるように持ち上げると、逆立った毛が少しずつ落ち着いて、やがてただの猫にもどった。


「……ぱっぱにゅ」


 翻訳機からジーナの声がした。


「ジーナ、もう大丈夫だよ。家に帰ろう」


 僕はジーナの肩に顔をうずめた。

 ジーナのにおいがした。そしてなんて……埃っぽかったことだろう。

 涙が出そうになるのをこらえて、僕は怜のほうに向きなおった。


 そしてそれはとつぜん視界に入ってきた。

 怜の豊かな胸とあでやかな肢体の幻影だ。

 そう、怜は走り回るためにとっかかりのない金属紗のコートの中、あろうことか胸元にライトを固定していた。

『火星世代』なら普段はコートが内側から透けないように気を付けるけれど、暗闇の中ではどうなるか、怜はたぶん知らなかったのだ。


「怜さん、怜さん、ライト!!!」


 僕は思わず叫び、怜は機嫌よくこちらに近づき、ジーナはなぜかまた毛を逆立てて僕の顔面によじ登った。


「怜でいいわよ。ジーナが見つかってよかったわね……でもご機嫌斜め……」


 僕は怜の笑い声を少し憎たらしく思った。


「……怜、ライトの位置がまずいんじゃないかな」


 顔に張り付いたジーナのお腹の向こうから、小さな悲鳴が聞こえた。

 そして僕は何も悪いことをしていないにもかかわらず怜の信頼を失い、通路を出るときも後ろからせっつかれた。


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