第三十六話 日曜日にはネズミを殺せ-1
ジーナ 僕の飼っているねこ(家出中)
怜 地上で出会った謎の美人
鳴子さん 何かと頼れる開拓団の占い師
遥さん 鳴子さんの姉 エンジニア
仁さん 遥さんの息子 モグリの医者
鳴子さんたち全員が僕の家に入ると、さすがに僕の家はせまく感じた。
僕は全員にとりあえず飲み物を出そうと思ったが、開拓団では他人のテリトリーにあまり気を使わないらしく、てんで勝手にキッチンを探索してお茶を入れて飲み始めた。
「それで、あんたどうやってジーナを探すつもりだい」
遥さんは怜にマグカップを渡しながら聞いた。
怜は真鍮色のビジネスリング(いつも身に着けているやつだ)を机の上に置くと、ボタンを押して地図を表示した。
地図は沢山の点が繋がっていて、そこから枝が伸びているような……たとえはよくないけど、まるでカビの菌糸みたいに見えた。
「通気口の地図よ。この点が地上の大気調整池まで伸びているダクト。枝は各ポートに伸びている末梢通風孔。ジーナの毛がみつかったのはこの赤く塗ったところね。で、これだけど」
そういうと、怜はポケットから小さな鼠色のものを取り出した。
そしてそれは実際、ネズミのおもちゃだった。
「これ、むかし地球で大量に作られたおもちゃなのだけど、ネコはこれを見ると耐えられないのよ!」
鳴子さんは腕を組みながら言った。
「こんなおもちゃが何の役に立つっていうんだい」
「まあ見てて!」
怜はそういうと、ネズミを床において走らせた。
ネズミは床を縦横無尽に駆け回り、やがて怜のところに戻ってきた。
「私の持っているスイッチのところまで戻ってくる仕組み。けさ、わたしはこの赤いルートに何個か仕掛けてきたわけ。そして、この家の近くの通路でスイッチを押せば、ネズミはジーナを連れて戻ってくるってわけ!」
遥さんは、ふーん、と感心したように大きくうなずいた。
「ジーナは確かにこういうのが好きだったけどね。なるほど、ネズミのどれかに当たればそれを追いかけてこの家の近くまで来るって算段かい」
怜はうなずいて僕をふりかえると言った。
「でも、最後は……亘平さんが捕まえなきゃだめよ」
僕はその意味を何重にもわかっていた。
ジーナはなぜ僕から逃げたのだろう。
ジーナは僕のところに帰ってきてくれるだろうか。
「じゃあ、とにかく潜り込めそうな通風孔を探しましょ! ジーナの好きなごはんも、一応もってきてね」
こうなると、人数が多いのは正解だった。
通風孔に潜り込むのには見張がいる方が助かるからだ。
僕たちはコンパートメントが連なる細い通路から、駅の方に向かう少し大きな通路に出た。
夕方だったのでまだ人通りがあり、人工灯がうす暗くなるまで少し待たなければならなかった。
本棚にはそのひとが出るというか、いる。






