第三十二話 縞々をさがせ-7
僕は一人で『かわます亭』に帰った。
鳴子さんはすでに戻ってきており、マスターは僕にカンカンに怒っていた。
当たり前だよね、鳴子さんの代わりの人間までいなくなってちゃ。
それでも、あの氷さわぎの犯人は分っていないようだった。
僕はマスターに申し訳なくなって、高めのボトルをキープしてもらうように頼んだ。
「で、いったいどこ行ってたんだいあんたは」
鳴子さんはあきれ顔で言った。
「怜が来たんだ」
怜の話が出たとたん、鳴子さんの顔色が変わった。
「怜にジーナの話をしたのかい?」
僕はうなずいた。鳴子さんはきびしい顔をした。
「亘平、あんたあの娘に……。あの娘はやめとくんだね。おまえの手におえる玉じゃないよ。なにかあるよ、あの娘には……」
僕は鳴子さんを黙って見つめていた。そのとき、僕は自分がどんな顔をしていたのかはわからない。けれど、鳴子さんは軽くため息をついてこう言った。
「最近、怜は開拓団に入り浸っているけれど、どうやら商売が理由だけでもなさそうだ。だいたい本当に怜がセンターの人間だったらどうするんだい、ジーナのことなんか話ちまって……」
僕は軽く肩をすくめて一気にグラスをあおった。
「彼女がだれだろうと、人間には『気の合うやつ』と『気の合わないやつ』しかいないんだろ? 鳴子さん。僕だってここに入り浸ってるけど、『火星世代』じゃないか」
鳴子さんはもういちど盛大にためいきをついた。
「亘平、あんたはいいやつだ。姉さん(遥)も仁もみんなお前を気に入っている。あたしだって若けりゃお前を婿さんに迎えたっていいぐらい信用してるんだ」
鳴子さんに思わぬプロポーズをされて、僕は思わず吹き出しそうになったけどこらえた。
鳴子さんはそれを待ってたように僕の背中をどんと叩いた。
「お前はいいやつだ。だから心配なんだよ」
「鳴子さん、僕はただの平凡なサラリーマンだよ……」
僕がそういうと、鳴子さんはおおきくかぶりをふった。
「ただの平凡なサラリーマンがあんたみたいに真っすぐでいられるのが凄いのさ。あんたは自分のことを何にもわかっちゃいない。いいかい、確かに怜はそんじょそこらの玉じゃない。美人だし肝も据わってる。女のあたしだって感心しちまうくらいだ。でも亘平のまっすぐさが通じる相手じゃない気がするんだよ」
僕は鳴子さんの言うことが正直、よくわからなかった。
そもそも怜のこともよくわからないのに、どう返事をすることもできなかった。ただ理解したよ、というかわりに鳴子さんの肩をポン、とたたくだけしかできなかった。
「それでねえ、実はきょう、姉さん(遥)に『犬』を借りられないか聞きに行ったんだよ」
実は筆者、犬も好きでもある






