第三十一話 縞々をさがせ-6
ジーナ 僕の飼いネコ
怜 砂漠で出会った謎の美人
鳴子さん 僕がよくお世話になってる占い師
僕は思わずえっ、とうなった。
「玄関の外をみて。通路の通風孔のところに、ジーナの毛が付いてたわ」
僕は急いで外にでて、玄関の左横にある、通風孔を見た。
火星の都市は大部分が地下にあるから、循環ステーションから通風路がくまなくめぐらせてある。
もちろん通風孔には格子がはまっているけれど、それは猫にとっては難なくくぐり抜けられる大きさだった。
そして、その格子には確かに『何か』がくっ付いて空気の流れにそってたなびいていた。
それをつまみあげると、確かにジーナの縞々の毛だった。
「ジーナは通風孔からどこかへ逃げたのか」
部屋で待っていた怜はにっこりとほほ笑んだ。
「たぶん、ジーナは誰にも見られていないわね」
僕もその点では安心できた。ジーナはとりあえずは安全だと思えた。
けれど問題は、ジーナが通風孔からどこへ逃げたかだった。
怜は言った。
「とにかく、ポイントは通風孔は通路側へ風が吹くってことよ」
僕がいまいち飲み込めないでいると、怜はメモに通風孔の簡単な図を描いて見せた。
「ジーナが動けば、ジーナの毛が風で通風孔に引っかかる。ってことは、片っ端から通風孔を調べれば、ジーナがいそうな場所には毛が付いてるってこと」
僕はうーん、とうなった。すぐにそんなことを思いつく怜に舌を巻いたし、一方で何か怖いような気がした。
それでも、とにかくジーナを見つけるにはやってみるしかない。
僕と怜は通風孔の点検役と見張り役に分かれて、あたりの通風孔を片っ端から調べて回った。
ジーナの毛が見つかったのはやはり第五ポート駅に向かってで、けれど駅に近づくにつれ通風孔の数も増えて追いきれなくなった。
それでもともかく、ジーナは第五ポートに行こうとしたのだろう。
ジーナは食べるものはどうしているのだろう。
もうそろそろ日光浴をさせないといけないことや、急に買ってきたジーナの好物のことなんかが思い出されて悲しくなった。
怜の前だからつとめて平気なふりをしたけれど、実際かなり落ち込んでいた。
「まあ、見つけようはあるわ」
怜はそんな僕の心を見透かすようにそうつぶやいた。
「いろいろ、ありがとう、怜さん」
考えることが多すぎて、僕は怜に向かって笑って見せるのが背いっぱいだった。
怜は言った。
「……あなたはいい人だわ。明日、『かわます亭』で、落ち合える? ちょっとアイディアがあるんだけど」
僕はうなずいた。
「とにかく、もういちど『かわます亭』に戻らなきゃ……マスターにも謝らなきゃならないな」






