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第三十話 縞々をさがせ-5

 僕はトキに思わずつられて笑ってしまった。


「ひどいなあ。怜さん以外にはだれも気付かれてないよ。もっとも、お客の入る時間じゃないしね」


 怜はまだ笑いがおさまらないようだった。僕はほんの一瞬だけ、ジーナのことを忘れて自分が笑ったことに罪悪感を覚えた。


「で、本当はなにがあったの……?」


 怜は僕の表情をみてすぐにまじめに戻った。

 怜の瞳はまっすぐ僕の目を見つめていて、僕は首をすくめるしかなかった。


「怜さん、君が誰なのか僕はよく知らない。せめてセンターじゃないことを……」


 怜は言葉が終わるのを待たずにこう言った。


「センターじゃないわ。私は自分からは言わない。でも私はあなたが信じられると思っている」


「どうして」


 僕は怜を見た。怜は視線を外さない。

 なんてきれいな目だろう。


「カンはするどいの。わかるのよ」


 僕は観念した。怜はジーナのことを知っている。

 最初に地上で出会ったとき、怜はジーナをみても驚かなかった。


「ジーナがいなくなった。君も知っているだろう、あの猫さ」


 僕がそういうと、怜はうーん、と言いながら座席の背もたれにもたれかかった。

 そうだ。ジーナの脱走は、誰が聞いても面倒な事態だった。

 一方で僕は、怜が僕を信用していると言ってくれたことがうれしくて仕方なかった。

 怜はしばらく目を閉じていて、何かを思いついた感じでふと目を開けた。


「鳴子さんはどこに行ったの?」


 僕は首を振った。


「わからないよ。何も言わずに行っちゃったからね」


「じゃあ、私たちも行きましょ!」


 怜はそういうと、すっくと立ちあがって僕についてくるように合図した。


「私が気を引くから、そのあいだに出てよ!」


 怜はそういうと、グラスの中から取り出した氷を手首だけのスナップでカウンター席グラスに見事に当てた。

 グラスは音を立てて床の上で飛び散り、カウンター席の客とマスターは何が起こったかわからずに大慌てだ。

 僕はそのあいだに急いで店の外に出た。

 怜はしばらくあとから何食わぬ顔で出てきた。


「荒っぽいなあ、マスターに怒られるよ」


 僕がそういうと、怜はいたずらっぽく笑って先を歩いた。


「バレないわよ、氷は溶けちゃうから」


 僕と怜は第四ポート駅まで行き、さらに僕のコンパートメントのある第五ポート駅までポーター(火星の電車のようなもの)を乗り継いだ。

 うっすら予想していた通り、怜は僕の家を知っていた。


 僕は家のドアを開けて、怜を先に通しながら言った。


「こまったなあ、君は僕のことを良く知っているようなのに、僕は君のことは何も知らない」


 怜は謎めいた笑いを浮かべるとこう言った。


「ところで、もうジーナについて一つのことが分かったのだけれど」


 僕は思わずえっ、とうなった。


こおりのつぶてはニューヨーカー(下町)の常とう手段

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