第二十九話 縞々をさがせ-4(ヒロイン挿絵つき)
会社を休んで、とにかく鳴子さんや遥さんと落ち合えそうな場所に向かった。
いつも行っている店は『かわます亭』という居酒屋だ。
怜と再会したのもそこだった。
たいていみんな仕事が引けたあとにそこでつるんでいる。
僕が昼にならない前から『かわます亭』についたとき、はたして幸運にも鳴子さんがそこにいた!
鳴子さんは店の奥に座っていて、僕を見つけるなりこう言った。
「亘平かい? 朝っぱらからなにやってんだい! クビにでもなったのかい?」
僕は首を振って言った。
「クビじゃない、それより大変だ。それより鳴子さん、どうしてここに? いてくれて助かったけど!」
「あたしは駅の通勤客が引けたあと、頼まれればここで占うのさ。もうちょっとした店の名物なんだよ、ねえマスター」
僕はそれを聞いて
「それはちょうど良かった!」
と鳴子さんを店の奥の席に引っ張っていった。
鳴子さんは訝しげな顔をしながら、
「何があったんだい、ジーナだね!」
と僕に耳打ちした。僕はうなずいて、
「昨日の夜、家を飛び出して逃げたんだ。夜のうちだから他の人には見られなかったと思うけど、駅までなんども探したけど見つからない」
鳴子さんはきびしい顔をした。僕はそれだけで鳴子さんの考えていることが痛いほどわかった。
「センターに見つかっても、鳴子さんのことも誰のことも言わないよ」
鳴子さんは僕の肩をどついた。
「余計なこと考えるんじゃないよ。あの子が他に知ってる場所は、姉さん(遥)の仕事場のほかにどこがあるんだい」
「あとは……いつも日光浴に行っている地上駅だ」
鳴子さんはうなずくと、マスターに向かってこう言った。
「マスター! ちょいと用事ができたんで今日はひけるよ!」
マスターはグラスをふきながら首を振った。
「そいつはいただけないなァ、鳴子」
鳴子さんは僕を指さして言った。
「それじゃあ、あたしの弟子を置いてくからそれでいいだろ」
マスターは僕をちらりと見ると、軽くうなずいた。それで僕は、鳴子さんにカードを押し付けられ、顔が見えないように布切れをかぶせられ、その日一日『かわます亭』でインチキ占いをさせられることになった。
それで、僕が鳴子さんを待っているあいだ、僕は誰と出会ったと思う……?
そうだよ。怜だ。
怜は入ってくるなり、もう慣れた様子で僕から一番はなれた立ち飲みテーブルにつくと、マスターも注文が入る前にすぐに飲み物をテーブルに置いた。
僕なんかよりずっと常連と言った雰囲気だ。
このあいだはセンター風の洋服を着ていたけれど、今日はまったく開拓団風で、ゆったり目の白い上着とカーキ色のズボンを身に着けていた。
いつもは上に結っている長い髪は、今日は左右に束ねておろしていた。これも開拓団風だ。
そして怜は、出されたトニックを片手に、人の少ない店の中を見回した。
僕はなぜ怜がここにいるのかすっかりわからなくなって、もしかして『はじめの人たち』のふりをして僕をからかったのだろうか、と思い始めた。
そして、怜がこちらの方を向いたとき、僕はすっかり自分がそこらへんの布切れをかぶっていたことを忘れていた。
怜はだけど、僕を見逃さなかった。怜は僕をみるなりスッと近づいてきて、
「どうしたの、その恰好!」
と僕にたずねた。
僕はジーナの話をするか迷って、鳴子さんの急用で代わりをすることになったことだけを話した。
すると、怜は笑いが止まらなくなったようだった。
あまりに僕の格好がおかしかったらしく、机をたたいて笑い転げた。
「それで、お客はきたの? 鳴子さんじゃないってバレなかった?」
イラスト:ロジーヌ様より
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