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第二十五話 セカンドインパクト-3

 ときはこんどは鳴子さんに水を向けた。


「でこちらの方は……?」


 鳴子なるこさんはポケットからネコカイン入りのシガレットを取り出しながらこう言った。


「あたしゃ鳴子って言うんだよ、お嬢さん。アンティークっていうのは何を扱ってるんだい? 仕事場に飾るのにいいかもしれない」


 怜はテーブルの上に手首をかざすと、ビジネスリングからテーブルに商品の画像を並べた。

 そのビジネスリングは真鍮色で古めかしくて、それ自体がアンティークのようにも見えた。

(腕時計みたいなもので、自己紹介代わりにID交換に使ったり、商売のカタログ情報なんかを入れている人もいるんだ)


「うちが扱っているのは民芸品のようなものですね。どんなのがお好みですか?」


 鳴子さんはその古めかしいビジネスリングをしばらく見つめながら、ふうっとシガレットをふかした。


「あれだね、センターに近いヤツってのはこういうところが嫌味だね」


 鳴子さんが不機嫌にそう言ったので、僕は思わず間に入った。


「どういうことです?」


「開拓団のほうは新しいマシンなんざほとんど買えないで、部品も自分で作ってえっちらおっちら商売しているのに、センターのやつらにとっては古い機械が趣味みたいに見えるんだろうかね」


 怜はそれを聞いて手首からリングを外してテーブルの上に置いた。


「どう思われるか知らないけれど、これは形見ですよ。長年使っているけれど、壊れにくいのはこれがいちばん」


 鳴子さんはそれを聞いて、一瞬動作をとめて、鋭い目で怜をじっと見た。

 そしてしばらくしてまた煙を吹き出した。


「……あたしは占い師でね。第四ポート駅で露店をだしてるんだが、そこにおいで。いまのお詫びに、無料で何か占ってあげるよ」


「占い師……?」


 怜は少し意外そうな顔をした。

 このヒョウ柄の派手な格好をみて、占い師以外の職業を予想していたのだろうか。


 鳴子さんは手早く懐からカードを取り出すと、テーブルの上でカードを切った。

 それを時計の形に並べると、怜の顔をじっと見ながら一枚一枚めくっていった。


「あんたの将来は悪くない、大変だけど悪くないよ。それから、あんたのお相手も悪いやつじゃない。不幸じゃないねえ……むしろ幸せだ。ちょっとあんたの方が気が強そうだね」


 怜はそれを聞くとはじめてうっすら頬を赤らめて嬉しそうに笑った。


「ありがとう、こちらも何かおまけしなくちゃね」


 そのとき、隣で飲んでた一人が鳴子さんの袖を引っ張った。


「今日は開拓団が勝つかね!」


 鳴子さんはさっとカードを切りなおすと言った。


「また賭けてんのかい、カードを引きな! 5マーズだよ……ほら、戦士のカードは開拓団の勝ちだ! あんた儲けたね」


 その日の夜、僕はいつまでも眠れなかった。眠ると彼女の顔が浮かんだし、うとうとすると鳴子さんのカードを切る音が聞こえるようだった。


 でも結局、マーズボールは火星世代が逆転勝ちをしたんだけどね。


たとえ火星の重力が地球の4分の1でも体育で最低評価の自信がある

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