第二十一話 センターのひみつ-終
僕だってセンターに逆らうつもりなんかさらさらない。
猫たちに対する忠誠は本物だ。
ネコカインがなければ、人間なんか戦争で滅んでた、というのも信じてる。
でも、どうだい、じっさい僕のところにはもうジーナがいないんだ。
どんなに僕がやつらに忠誠を誓っていようと、僕の金色の瞳のまんまるお月さんはもう僕を朝から起こしたりしないんだよ!
……そのことをどう受け入れればいいのか、僕はここのところずっと考えてきた。
むしろジーナをあきらめてしまえば。
情けない奴だと言われるだろうけど、本当にそれも頭のかたすみをよぎった。
もしジーナがセンターの猫たちと同じなら、それも仕方のないことだと思った。
だって、ほんとうは僕のところにいてはいけない猫なんだ。
もしジーナがセンターから来た猫なら、センターに戻れば幸せだって確信できる。
そうだったならどんなに心が楽だっったろう。
でもジーナは違う。センターの猫とはどうやら違う種類なんだ。
だってジーナの毛は長めだし、それにもう一つとても気になってたことがある。
ジーナはセンターの猫みたいには話さない。
いつだって言葉遣いはこどもみたいだ。センターの猫たちみたいに哲学的なはなしを持ち出しもしない。
ただじっと人間たちをみていて、言葉じゃなくていろんなことを伝えてくれる。
例えば、しっぽで返事したり、それから幸せそうに頭突きしてきたり、翻訳機も「ゴロゴロゴロ」って訳すぐらいに喉を鳴らしたりさ。
ジーナにとって言葉はそえものに過ぎないんだ。
奴らがジーナをなんのためにさらったのか。ジーナはいまどうしているのか。
それはたぶん、センターがひた隠しにしているもう一つのことと関係がある。
つまり、『はじめの人たち』のことさ。
じつは僕はあの不思議な女性とあれから何回か会うことがあった。
それはいつも不意打ちで、僕は彼女が僕の行動をぜんぶ知っているんじゃないか、と思ったほどだ。
あとから分かったけれど、火星開拓団の人たちはなんとなく『はじめの人たち』が生き残っていたことを知ってたんじゃないかと思うんだ。
センターはいったい何を隠しているのか。
それを知らなければ、僕はジーナを取り戻せないと思う。
そして、僕はいまこれを書きながら考えていたんだ……。
ほんとうに未来を変えるべきなのは、過去の君じゃなくて、いまの僕なんじゃないかって。
センターと聞いて野球を思いますか、ホームセンターを思いますか






