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第二十話 センターのひみつ-1

「遥さん、ジーナはいったいどこから来たと思う?」


 僕がそう遥さんに話しかけたとき、遥さんは精密機械用の作業台から顔も上げずに


「さあね」


 とだけ言った。僕が次の言葉を言いよどんでいると、遥さんははじめて顔を上げてため息をついた。


「面倒ごとはきらいだよ。私はセンターの仕事も請け負ってるんだ。知ってるだろう」


 遥さんはしばらく僕を見つめていて、もういちど深いため息をついた。


「何が知りたいんだい」


「センターってどんなところなんですか。ジーナみたいな猫がたくさんいる……?」


 僕は思わずそう質問した。センターに関係することは、みんなぼんやり疑問に思わないようにしている。

 疑問に思ったって何も変わらないし、答えの出ないことを考えると不安になるからだ。

 遥さんはそれを聞いてただくびを振った。


「おまえさんの気持ちはわかるけど、私はなんにも答えられないよ。それが答えさ」


 長い付き合いの僕にはそれで、遥さんがなにを言いたいかがうっすら分かった。ジーナはセンターの猫とは違う。


 地球でも火星でも、子猫は人間と一緒に暮らすことがあるけれど、大人になるとみなセンターに行ってしまう。そして、もう二度とそだての家族と会うことはない。


 猫たちは自分たちが人間の上にたつ生き物だと教育される。

 それで、子猫のうちは『人間を知るため』に人間と一緒に暮らすけれど、それ以上はかかわりを持たないんだ。

 何か大きなシステムの変更があったり、人間たちに呼びかけることがあると、ホログラムを通じて僕たちに通達する。


 たとえば、このあいだセンターから僕たちの会社に放送があった。

 イリジウムの生産が足りないから、もっと頑張れというのだ。

 会社のいちばん大きなミーティングルームにみんな集められて、講演台の上にセンターの猫が現れるのを待つんだ。そして、センターの台の上に現れた猫は、たいていゆったりと演台に横たわり、目を細くしてほとんどつぶっている。

 そのときの猫は美しい真っ黒な猫で、尻尾をゆっくりと演台に打っていた。


「あなた方の忠誠のおかげで、私たちはイリジウムをもっと手に入れられるでしょう。地球はわれわれ火星のものたちに感謝し、センターもまたあなた方に満足するでしょう」


 その猫は翻訳機を通してそう言った。

 それを聞いて、みんな胸が熱くなった。僕たちの働きでこんなに美しい猫たちがゆったりと優雅に暮らすことができるんだ。

 僕たちの育てた猫たちが、僕たちにネコカインをくれて、愛情を僕たちに返してくれているんだ。


 うちの会社の社長なんか、すこし涙ぐんでいたようにも見えた。

 猫を育てたことのある上司なんか、昔を思い出したらしくてそのあと僕たち下っ端をたきつけて大変だったよ。


 すくなくとも僕たちにとって、センターはそういう存在なのさ。



じっさいはネコカインがなくても人間を操るねこどもよ。。。

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