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第十九話 運命の出会い

 その人は、ソテツの枝の上から、ジーナを胸に抱いて、僕を見下ろしていた。

 

銀色の織物に身を包んだ黒い瞳の女性だった。その目は微笑を含んでいるようで、つかみどころがなく、しかし何かをじっと探るような雰囲気だった。

 

僕がその瞳から視線を外せずにいると、彼女はもう十分に僕を眺めたとでもいうようにふと遠くに視線をそらした。


僕はまるで蛇に睨まれたカエルだった。

 

あらためて彼女を見上げると、驚いたことに彼女は防護服ではなく、奇妙な民族衣装を身に着けていた……。銀糸で織られた布は、手の込んだ刺繍が施されていて、サリーのように全身を覆っていた。


「ぱっぱにゅ」


 ジーナはそういうと、木の上から僕の肩に飛び乗ってきた。

 僕はジーナを受け止めると、まだ彼女から目が離せずにバカみたいに上を向いていた。


「あなたの猫なの?」


 彼女は木の上から、僕をのぞき込んでそういった。

 僕はそうだよ、と返した。それで、急に自分が防護服なのがヘンに感じられて、ヘルメットを取ろうとしたんだ。

 すると彼女は笑いながら首を振って、


「新しいひとたちは取らない方がいいわ」


 というんだ。そして片手をのばして隣の枝をつかむと、まるで布が風になびくみたいに木から降りてきた。

 そして僕に抱かれているジーナはこういった。


「みんなヒミツにょ、大丈夫にょ」


 彼女は一番下の枝で、僕をじっと見つめると、次に地面を見つめてにやりと笑った。

 僕は地面に降りるのに手を貸してほしいのだと瞬時に理解した。

 それで僕は彼女の近くに行くと、手を差し伸べた。


 彼女は左手で僕の手を取ると、ぐっと引き寄せるように不自然なほど引っ張った。そして右手を肩において、体重をそこにのせて自分を地面におろした。


 ほとんど彼女の顔がすぐそばにあった。そのときの僕の心臓といったら!!


「誰かにいうつもりがある?」


 それを聞いて心臓が止まったのは、彼女が僕に身を寄せているからだけではなかった。

 僕はそのとき、自分の首にヘルメットの隙間から差し込んだ刃物のつめたい感触を確かに感じていたのだ。

 僕は体をこわばらせて首を振った。


「ジーナはセンターの猫じゃない。僕はセンターとはかかわりたくないんだ」


「仲間がいる?」


「いや、僕ひとりだ。ジーナがいるからね」


 僕が緊張しながらそういうと、 首の冷たい感覚は去って彼女の体もいつのまにか離れていた。

 彼女はまるでまた銀色のヘビのように木の上にあがって片あぐらをかくと、遠くを見つめて言った。


「そろそろ帰った方がいい。仲間がくる」


 僕は彼女の瞳がみつめている方向に目をこらして、大地の向こうにかすかな土けむりを見た気がした。



 家に帰りついてから、僕はうっすらと昔のニュースについて思い出していた。

 火星の荒野で消える人たちの話だ。

 彼らは地上に行ったまま、跡形もなく消えてしまう。

 火星の子供たちはそれを怖がって、「ウェルズのおばけ」と呼んでいた。

『宇宙戦争』という古典に出てくるタコ型火星人のことだ。


 もしかしたら、あのときジーナがいなくて、僕だけだったら。

 そもそも、なぜ彼女は僕を見逃してくれたのだろう。


 僕は彼女の黒い瞳を思い出していた。また会うことはあるのだろうか?

 そして、彼女に会ったとしたら、僕はまた帰ってこれるのだろうか。


 けっきょく、僕は地上であったことを遥さんに話すかどうか迷って、遥さんにとても中途半端に話を切り出した。






24日が「君の名は」で、25日がこの話の予定だったんですね。

一日ずれたんですね、間違えて。

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