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【一週間まとめ読み用-3】

僕:平凡なサラリーマン。『センター』に秘密で子猫を飼うことになった。

鳴子なるこさん :何かと頼れる開拓団の占い師

はるかさん:鳴子さんの姉。エンジニア

 鳴無鳴子(おとなし なるこ)さんは、その迫力で占いに説得力を持たせていた。

 なんていうんだろう、占いなんて当たるか当たらないかわからない。

 でも、鳴子さんはいつだって前向きな言葉で励ましてくれて、最後にこういうんだ。


「この明るい未来は最後は『お前の努力』でつかみ取って行くんだよ! 大丈夫だ、お前にはその力があるんだから」


 そう、それが賭け事の勝ち馬予想であっても……。

 当てる気はないけれど、励ます気持ちだけは人一倍伝わる、それが鳴子さんなんだよ。


 ちなみに、勝ち馬が外れたらこういうんだけどね。


「賭け事になんかあたしの能力を使うわけがないじゃないか! ラッキーは自分でつかみ取らなきゃダメなんだよ、精進おし!」


 みんななんだか鳴子さんに叱られたくて、どんないい加減な占いでも相談ごとを持ち込むんだ。

 でもあとから知ったんだけど、彼女はほんとうに『初期開拓団』の超能力者の子孫だそうだけどね。

 だからといって超能力があるとは限らないよね。


 彼女の家は第四ポート駅の初期開拓団の街にあるんだけど、そこはそんなに治安がよくないことで知られている。

 ところで、君はジーナを最初にみてくれたモグリの医者は覚えているかい……?

 彼の名前は、鳴無仁(おとなし じん)というんだ。……え? なぜ名字が一緒かって?

 まあ、開拓団の名字は鳴無が多いんだけれど、この場合は君のカンは正しい。


 あのモグリの医者は、鳴子さんの甥っ子なのさ。鳴子さんの夫は若いころに亡くなったらしいんだけど、鳴子さんは夫が亡くなっても、よく甥っ子をあずかっていたんだそうだ。

 だから僕のような厄介ごとも無理やり押し付けられたんだね。


 開拓団の街はとても古くて、治安も悪い。警察はどうしているかって……?

 何もしないさ。人間が猫に歯向かわない限り、警察はなにもしない、それがセンターの方針だ。


 開拓団地域には違法ネコカイン(だいたいはセンターから配給されたものを人間が売ったものだけど、ここでもやっぱり警察は何もしない。まあ、管理してるのがそもそも猫だしね)がたくさんあって、依存症者も多い。

 違法なものには混ぜ物も多いし、依存症にはいろいろな症状が出るんだけど、基本的にはネコカイン依存症には治療費が出ないから、モグリの医者が主にみることになるんだそうだ。


 まあ、のちのち僕と仁さんは友人になるんだけれど、最初は伯母さんにあたまの上がらない甥っ子というイメージだった。

 そして、もう一人、まだここに登場していないのが鳴無遥

おとなし はるか

さんだ。鳴無遥さんは……。鳴子さんの双子のお姉さんだ。

 いちばん分かりやすく彼女を表現するなら、人の三倍はパワフルな鳴子さんを三割増しで豪快にした人だ。機械のエンジニアで、その人がいなかったら、ジーナはいつまでたっても翻訳機が手に入れられなかっただろう。


 でも、ジーナが僕の次になついていたのが遥さんなんだけどね!



 鳴無遥(おとなし はるか)さんは、古い機械もあつかえる珍しいメカニックで、センターからも仕事を引き受けるほどの腕前だった。

 若いころからシールドのない火星の荒野を、アンティークのバイクで飛ばす趣味もあったらしい。それで、彼女は


「あたしは若いころから宇宙線をあびまくっているからね、顔もしわくちゃだし、きっと長生きはしないよ」


とよく言ってるんだけど、その割には健康に気を使っていて、料理をするのが大の得意だった。

 ある日の彼女の食卓はこんな感じだ。


 iPSパテ

(毒抜き)ソテツ団子

 土のスープ

 ネズミのから揚げ


 火星の食事に興味があるかい……?

 21世紀の地球の食事とはまったく違うんだろうな……。


 iPSパテは21世紀にはもう発明されているのかな……。

 ずいぶん古い作り方だけど、いまだに人気があるよ。火星の地下には大きな工場があって、いろんな種類の肉が培養されている。

 ポーク&ビーフの混合パテが一番よくうれてるかな。

 チキン&フロッグはすごく人気が高くて、値段もそれなりにする。

 昔は肉を手に入れるのに、動物を殺していたんだって? 23世紀には大型哺乳類はだいたい死んでしまったから、いま僕たちが知っているのは『かつて動物だったものの肉』さ。


 あとは、ソテツの実の団子だ。これは、『初期開拓団』の人たちがソテツをたくさん植えたことで始まった。

 地球ではほとんど食べないらしいけれど、火星では昔からよく食べられていた。

 荒れ地でもよく育つし、それに、なぜか火星で発見された微生物がソテツの実の毒を完全に分解することができると分かったんだ。地球にはいなかったのにね。

 だから、ソテツ団子は火星独自の食事といわれるよ。


 土のスープは、土の中に細菌のいない火星らしい食事だよね。ミネラルの豊富な土を、ジャガイモのポタージュに溶かし込んだものさ。特別おいしいものでもないけれど、遥さんは、ミネラル不足になりがちだった開拓団を助けたスープだって僕に何度も言っていたよ。

 だから、開拓団の街ではまだよく食べられるんだそうだ。


 そして、ネズミのから揚げだ。……ネズミを揚げたものかって?

 いいや、違うよ。大きなマッシュルームをネズミの形に型抜きして、パスタで尻尾を付けるのさ。

 これは猫に忠誠を占めす料理として、『宇宙猫同盟』の惑星ではどこでも出てくる軽食だ。


 まあ、これが代表的な火星のグルメさ。


 それで……そうだ、すっかり話が迷子になってしまったね。

 ジーナの翻訳機の話だ。


 ともかく、遥さんはセンターに出入りすることができたから、普通の人が出入りできないジャンクヤードにも入ることができた。

 ジャンクヤードが何かっていうと、センターで使われる機械類がこわれたときに、それをスクラップにするまで置いておく場所さ。


 ジーナのために遥さんはジャンクヤードで翻訳機を見つけてくれた。もちろん持ち出せない。

 遥さんが手に入れたのは技術的な部分だけさ。


 そういうわけで、遥さんは翻訳機をジャンクヤードで分解して、必要な部品をメモに残した。

 そこからは僕の役目で、僕は会社から使えそうな壊れた部品をかき集めては、それを遥さんのところに持って行った。


 遥さんの家は開拓団地域のど真ん中で、荒くれ者どもの多い地域だった。

 センターから僕なんかより相当いい給料ももらっていたと思うのに、遥さんは生まれた場所を引っ越すことはなかったようだ。

 その地域の学校なんかにも寄付をしているみたいだったよ。

 遥さんはその地域の中ではがんばって勉強してセンターのメカニックになったけど、自分が占い師になれなったことをすごく残念がっているようだった。


「鳴子には占いの才能があったけれど、私にはそういう能力がさっぱりなかったんだよ。しかたないから、好きな機械いじりを夢中でやったのさ」


 そして、遥さんに占いの才能がなかったおかげで、僕とジーナは3か月かけて翻訳機を作ることができた。

 けれど、さいごのさいごでちょっとした問題が起きた。

 翻訳機には、音の周波数をアルファベットに変換するプログラムが必要だったんだけど、それを壊れた翻訳機から手に入れたんだ。


 すべての音節の中にmyやnyが混じることになった。それじゃ翻訳機にはならないから、壊れたプログラムの中を自分なりにきれいにしたんだけど、それでも語尾にバグが残って、どうしても取り除くことができなかった。

 それで、ジーナがはじめて翻訳機を通して僕にいった言葉はこれだった。


「おあんにゅ」


これはまったく『教育』がはじまっていないときのだけど、たぶん、猫好きならこれで十分に通じるはずだ。

「ごはん」ってことだね。


 ……ジーナと離ればなれになってから、ジーナのことを話すのはつらかったけれど、君には話そうと思う。

 だって、君には僕を助けてもらわなくちゃいけないんだ。


 センターから子猫を預かると、センターはその家族をシールド地域の家に住まわせる。

 シールド地域ってのは、地上で地球とほぼ同じ生活ができる地域ってことだ。

 火星はまだ大気が薄くて、オゾン層がほとんどできていない。

 オゾン層のない惑星にとって、太陽は死の星だよ。紫外線が命を脅かすんだ。

 そして、薄い大気のなかでは宇宙線も弱まることがない。人間が生きていくにはあまりにも過酷なんだ。

 (それでも遥さんのように宇宙服を着こんで荒れ地をツーリングする猛者もいるけどね)


 シールド地域のドームは水を含んだ膜で覆われている。これで人間が守られるんだ。

 さらに、建物は金属を混ぜた材料でさらに宇宙線を遮るようにできている。

 火星のすべての地域でそんなことはできないから、シールド地域はごく限られた人しか住めないんだ。

 そのほとんどが、子猫を育てている家庭なのさ。


 子猫にはどうしても太陽が必要だ。


 なぜって、日向ぼっこがないと生きていけないからさ。

 人間はごく弱い光でもビタミンをなんとか必要なぶん合成できるけど、子猫にはもっともっと安全な太陽の光が無ければならない。


 僕はそんなこと知らなくて(あの『かわいいこねこの育て方』にも太陽のことは載っていなかったんだ。だって、あれは太陽が安全な地球で使われていた本だから)、そのせいでジーナの毛の艶のことも、モグリの仁さんに言われるまで気が付かなかったぐらいだ。


 そのころ、僕は開拓団の街に入り浸っていた。というか、ジーナの『教育』のためには仕方なかったんだ。

 翻訳機は自家製だったから、しょっちゅう故障して遥さんの助けを借りなければならなかったし、ほんとうならセンターによる『猫のための教育機関』に入るのに、ジーナはそこへは行けなかった。

 それで、僕は自分のこどものころの教科書なんかをジーナに使わせることにした。


 僕は会社に行く前にジーナを遥さんのところに預けて、帰りに家に連れ帰るようになっていた。だからジーナは僕の次に遥さんになついているんだ。

 今でも覚えているけれど、ジーナはまだカバンの中にすっぽり収まるくらい小さくて、出かける時間になると


「ふくろにゃ」


 って一こと言ってからカバンの中に自分から飛び込むんだ。

 でも、カバンと袋の違いがわかるまで結構かかったよね。

 狭いところにもぐるのが好きらしいんだよ。

 一度は休日にカバンの中にかくれてて、一日探し回ったこともあったな……。


 まあ、助かったのはいちどでも遥さんのところに行きたくないって言わなかったことだね。

 遥さんの作業場は子猫にとってはちゃめちゃに楽しい場所らしい。

 複雑な機械やら道具やらが積みあがっていて、そこで修理できるものは修理する。

 本当に大きなものはセンターの中まで行って修理するらしいんだけど、たいていは自分で持ち帰ってやっているらしい。


「古いものは設計図も残っていないから、自分で分解して仕組みを理解しないと修理もできないのさ」


 というのが遥さんの説明だった。


 『猫のための教育機関』でどんなことを教えているかは誰も知らない。遥さんをはじめ、センターがどこにあって、どういうことをしているのかも誰も話さない。

 唯一みんなが知っているのは、センターは地上のどこかにあるってことさ。

 ジーナは猫のための教育は受けられないで、人間のための教育を受けた。


 鳴子さんたちは、僕とジーナのために本当によくしてくれた。

 理由はずっと分からなかった。

 でもある日、鳴子さんはこういったんだ。


「お前さんたちをなぜ助けてるかってね……? お前さんたちがこの火星の運命を大きく変えるかもしれないからだよ! 具体的にはわからない、でも占いにはおまえさんに会ったときからそう出てるのさ」


 ジーナのことをあまり話していないよね。

 いまジーナが僕のところにいないことは話したと思う。


 ジーナは灰色のサバトラだ。僕のところに来たときは、まだとても小さくて、手のひらより少し大きいだけだったのに、僕がさいごにジーナを見たときは鍋よりでかかったよ。

 真ん丸で、いつもご機嫌な顔をしていた。


 開拓団のみんなにも可愛がられてたしね。


 ……誰がジーナのことをバラしたかって……?

 それは分からない。誰もバラしてなんかないのかもしれないし、裏切り者がいたのかもしれない。

 開拓団のみんなのことを疑いたくはないけれど、可能性がないわけじゃない。


 でも今は、犯人捜しをしている場合じゃないんだ。

 僕はジーナを助けなければならないし、そのためには君に助けを借りなくちゃならない。


 僕は君に、2020年の猫ブームを阻止してほしいといったよね。

 それはこういうわけだ。

 2020年、地球では世界的な猫ブームが起こる。


 それまで、人間は猫をペットとして飼っているよね。

 2020年に爆発的に増えた猫の数は、そのまま猫の行動の記録につながっていくんだ。

 24時間、365日、膨大なデータが年々積み重なることになった。


 そして、もう一つ大きな出来事がおきる。

 画像解析で人間の知能をはかっていたAIが、どういうわけか猫を人間として認識し始めたんだ。

 それで、人間たちは何が起こったかを調べはじめた。


【猫たちは人間を思うように動かすぐらいの知能を備えている】

 それがAIの判断だった。驚くべきことに、人工知能によれば、人間は猫に飼われていたんだ!


 しかし、それから数百年はそれは人工知能の大きなミスとして扱われることになった。

 けれど、一部の人間たちはそれをミスとは思わなかった。

 彼らはとても細々と猫の知能が人間を上回っていることを研究していたんだ。


 ……本当に猫が人間よりも頭がいいかって……?

 実は、元データはもういまは失われてしまった。

 なぜなら、『はじめの人たち』が地球を離れて、地球が滅亡の危機に陥ったとき、猫の知能に関する初期データは大きなシステムエラーに見舞われて、消えてしまったからだ。


 けれど、そのAIの判断が猫たちが僕たちを支配する最初の根拠になっている。


 そしてもう一つ、人間には奇妙な習慣ができ始めた。

 イライラしたときや、現実逃避をするときに、猫のおなかを嗅ぐ習慣だ。

 やがて地球滅亡の危機が消え去ったころ、ふたたび、猫の知能に関する研究がもりあがった。

 人々は真剣に『猫の教育』によって猫と人間は協力していけると思い始めた。


 もうなんとなく分かったかな。2020年の猫ブームが作り出した二つの柱だ。

 一つは『猫の教育』。

 そして、つまり、いちばん重要な部分にふれなきゃならない。

『ネコカイン』がなにか、ってことさ。



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