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第十三話 ジーナと遥さんの話

 そういうわけで、遥さんは翻訳機をジャンクヤードで分解して、必要な部品をメモに残した。

 そこからは僕の役目で、僕は会社から使えそうな壊れた部品をかき集めては、それを遥さんのところに持って行った。


 遥さんの家は開拓団地域のど真ん中で、荒くれ者どもの多い地域だった。

 センターから僕なんかより相当いい給料ももらっていたと思うのに、遥さんは生まれた場所を引っ越すことはなかったようだ。

 その地域の学校なんかにも寄付をしているみたいだったよ。

 遥さんはその地域の中ではがんばって勉強してセンターのメカニックになったけど、自分が占い師になれなったことをすごく残念がっているようだった。


「鳴子には占いの才能があったけれど、私にはそういう能力がさっぱりなかったんだよ。しかたないから、好きな機械いじりを夢中でやったのさ」


 そして、遥さんに占いの才能がなかったおかげで、僕とジーナは3か月かけて翻訳機を作ることができた。

 けれど、さいごのさいごでちょっとした問題が起きた。

 翻訳機には、音の周波数をアルファベットに変換するプログラムが必要だったんだけど、それを壊れた翻訳機から手に入れたんだ。


 すべての音節の中にmyやnyが混じることになった。それじゃ翻訳機にはならないから、壊れたプログラムの中を自分なりにきれいにしたんだけど、それでも語尾にバグが残って、どうしても取り除くことができなかった。

 それで、ジーナがはじめて翻訳機を通して僕にいった言葉はこれだった。


「おあんにゅ」


 これはまったく『教育』がはじまっていないときのだけど、たぶん、猫好きならこれで十分に通じるはずだ。

「ごはん」ってことだね。


 ……ジーナと離ればなれになってから、ジーナのことを話すのはつらかったけれど、君には話そうと思う。

 だって、君には僕を助けてもらわなくちゃいけないんだ。


 センターから子猫を預かると、センターはその家族をシールド地域の家に住まわせる。

 シールド地域ってのは、地上で地球とほぼ同じ生活ができる地域ってことだ。

 火星はまだ大気が薄くて、オゾン層がほとんどできていない。

 オゾン層のない惑星にとって、太陽は死の星だよ。紫外線が命を脅かすんだ。

 そして、薄い大気のなかでは宇宙線も弱まることがない。人間が生きていくにはあまりにも過酷なんだ。

(それでも遥さんのように宇宙服を着こんで荒れ地をツーリングする猛者もいるけどね)


 シールド地域のドームは水を含んだ膜で覆われている。これで人間が守られるんだ。

 さらに、建物は金属を混ぜた材料でさらに宇宙線を遮るようにできている。

 火星のすべての地域でそんなことはできないから、シールド地域はごく限られた人しか住めないんだ。

 そのほとんどが、子猫を育てている家庭なのさ。

 ぼくら『火星世代』は人付き合いもあまりないし、他人に関心はない方だけど、子猫のこととなるとそうはいかない。『開拓団』よりも忠誠心は強いし、やがて『センター』へと巣立つ子猫を守らなきゃいけない、という気持ちも強い。

 ある家庭が『センター』から子猫を与えられるということは、それだけ名誉なことなんだ。





古い機械や工場がすきだ。

現在の動物行動学でわかっている猫の知能は3歳児程度と言われているが、獲物に関する長期記憶はかなり優れているらしい。

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