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第百十五話 珠々さんの告白-2

「冠城さん、どうしてそこまで……」


 珠々さんは暑さのためなのか、ちょっと辛そうな顔でにっこり笑った。


「だから私、強情だって言ったじゃありませんか。山風さんが何か事情をお持ちのこともなんとなくわかります。私には話してもらえないってことも、わかってます。でもわたし、本当をいうと、山風さんのことはずいぶん前から存じ上げてたんですよ」


 珠々さんはちょっと言葉を切った。そして、目を伏せると独り言のようにこうつぶやいた。


「たぶん、怜さんより前から……」


 僕は意味がわからず、えっ、と聞き返したが、珠々さんは自分の言葉をふりはらうように首を振って言った。


「ともかく、明日、わたしはデータを取りに来ます。山風さん、どうか気を付けて。『センター』はあなたのことをそうとう警戒しています……」


「出ましょう、上まで送ります」


 僕は頷くと、珠々さんに言った。本当につらそうだったからだ。夜の地上は冷えているから、地上まで行けばすぐに回復はするだろう。

 珠々さんは立ち上がろうとしてふらついた。僕もはじめてここでノビたときはつらかったからよくわかる。僕は何も言わずに珠々さんに腕を貸した。

 エレベーターの中で、珠々さんはこう言った。


「山風さん……一つだけ聞いていいですか。私には……望みはありますか?」


 珠々さんは僕の腕をぎゅっとつかんでいた。僕はただ上っていく中で波もようにうねる岩肌を見つめながら、正直な気持ちを口にした。それしか僕にはできなかったからだ。


「僕は……わかりません、僕は、同じことを怜に聞きたい。……怜には……」


 怜には愛するひとがいる、と言いかけて、僕は口をつぐんだ。もし自分に望みがなければ珠々さんを考えるのか? 僕はふと、自分が自分のことばかり考えていることに気づいて、珠々さんに謝った。


「珠々さん、すみません、僕は……」


 珠々さんは下を向いたままふふっと笑った。僕が少し驚いて珠々さんを見ると、彼女はそのままこうつぶやいた。


「はじめて名前で呼んでくれましたね」


 詰所に上がると、僕は上川さんに珠々さんを頼んで、すぐに待避所に戻った。上川さんは僕の青ざめた顔を見て、何も言わずに珠々さんを引き受けてくれた。じっさいは残された時間がない緊張感もあったけれど、それ以上に考えなければならなかったのは、珠々さんに危険が及ばないようにする方法だった。

 

 いつまでもこうして全てをあいまいにしておく訳にはいかなかった。僕は最後の決断を迫られていた。


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