第百六話 チェックメイト-1
僕:山風亘平 『センター』に秘密で猫のジーナを飼っていた。いま行方不明。
怜:僕の惚れてる女性
珠々(すず)さん:僕の仕事を手伝ってくれてる女性
会社につくと、僕はすぐに仮眠室に飛び込んだ。珠々さんと一緒にいるのが気まずかったからだし、怜のことでほんとうに寝てなかったからだ。
導眠システムは脳への直接アクセスを許可しないといけないので、電源を切った。(『センター』はプライベートなアクセス記録は残さないと言っていたけど、僕はもう信じちゃいなかった)
仮眠室をはいってすぐ右手にはネコカインのグミがあった。僕はそれをかみ砕くと、タイマーを一時間にして部屋を暗くした。仮眠用の寝台は柔らかくも固くもない寝椅子で、フォームは体に添うように形を変えた。
ネコカインの効き目はてきめんで、僕はそれから一時間、夢も見ずに眠りこけた。
池田さんは僕が起きてからしばらくして会社にやってきた。この間とおんなじ格好で、作業着姿に無精ひげをはやしていた。スーツ姿の僕をみると、池田さんはにやりとした。
「そっちのほうがやっぱり似合うじゃねえか」
僕はそれを聞いて傷ついた。なんだか、自分が弱いと言われている気がしたからだ。僕は言った。
「それで、池田さんはなぜわざわざこちらに……」
「なに、へばっちまったけど、あんたがいったいどんな奴かちょいと気になってな。本部からきて、採掘場まで降りるやつってのはなかなかいないぜ、おい。それに、どのみち本部に呼び出されるなら、こちらから尋ねたほうが手っ取り早いってもんだろ」
「レアメタルの件ですね」
僕がそういうと、池田さんはぽーん、と僕にリストを投げてよこした。
「冠城さんってひとがこっちに問い合わせてきたレアメタルの種類と量だ。あんたの指示だろ、山風さん。あの現場だけの話じゃない。『センター』部署が直々にうごくってのはそうないぜ」
池田さんは僕から視線を外さずに言った。
「『センター』部署はなにたくらんでやがるんだい、山風さん」
「池田さん、余計な詮索はせず、必要な情報だけを渡してください。あなたにリストを送ったのは、採掘の現場にかかわることを一番知っているからです」
僕はそう言うしかなかった。余計なことを池田さんに言えば、池田さんまで巻き込むことになる。
「余計な詮索? 似合わねえこと言うな、亘平!」
池田さんは僕を一喝した。
「なあ、上の奴らと下の奴らがいつでもおんなじ敵にむいて戦ってると思うなよ。上の奴らと俺たちで目的が違うなら、俺は黙って従うのはまっぴらごめんだね」
僕は池田さんに何も言えず、黙ってうつむくほかなかった。池田さんは言った。
「下には下の戦い方ってもんがある。おまえさんが腹割って話せないんなら、別のやつを探してくれ。俺は請け負えねえぜ」






