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第百五話 チェック

 翌朝、僕がロビーにおりてくると、受付があわてて僕に駆け寄ってきた。


「昨日の課長の方は……」


 僕はよく眠れなかったせいで機嫌が悪かった。


「課長って誰だい」


「あの女性のお連れさまで……」


 僕の視界にそのとき、ロビーに入ってくる珠々さんが移った。珠々さんはあたりを見回し、作業着姿の僕を見つけた。


「山風さん! きのうの夜、池田さんから会社に連絡が入っていて……。とりあえず、着替えを持ってきました」


 受付は珠々さんと僕を交互に見て、訳が分からない顔をしている。僕は珠々さんから着替えをもらうと、受付にビジネスリングを渡してこう言った。


「宿泊情報を確認すればいい。最初から僕ひとりだ」


 受付は画面を確認すると、困惑した表情を浮かべた。何がおこったのかわけがわからい、という表情だ。そして正直、きのう起こったことを誰かに説明してもらいたいのは僕も同じ気持ちだった。

 受付からリングを取り戻すと、僕は着替えのためにレストルームに引っ込んだ。珠々さんが持ってきてくれたのは、『火星世代』のサラリーマンらしい、ぱりっとしたスーツだった。

 珠々さんはレストルームから出てきた僕から作業着を受け取ろうとしたけれど、僕は渡す代わりに、珠々さんから袋を受け取った。池田さんが親切にくれたものを、もう着ないからとすぐ処分する気にはなれなかった。


「池田さんからなんだって?」


「今日、本部のほうにお見えになるそうで、そこでお話したい、と」


「ああ、だから着替えを持ってきてくれたのか」


「そうです。他にご入用のものはありますか?」


 僕は首を振った。珠々さんの仕事ぶりはまさにパーフェクトだ。オテロウが珠々さんを『センター』付きにしているのもは単に父親だけが理由じゃないだろう。

 珠々さんはビジネスリングから浮かんだ予定表をチェックしながら、下からのぞき込むように僕の方をちらっと見た。


「それと、会社の仮眠室を予約しました。導眠システムもお使いになりたければお使いになれます……目の下のクマがひどいですわ。それと、オテロウがアパートメントの火事について報告を聞きたがっています」


 僕はそれを聞いて無意識に目の下をさすった。珠々さんは少し口ごもって、僕にこう聞いた。


「きのう、怜さんと何かあったんですか……? 山風さん、何か変だわ」


 僕は首を振って言った。何もないよ、何もない……。(それが本当ならよかったのに!)珠々さんはそれ以上、何も言わなかった。僕と珠々さんはそれから黙りこくったまま、会社まで一緒にコミューターに乗った。


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