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第百四話 怜の愛した男-4

 怜はこちらに体を向けた。僕はソファから立ち上がると、意を決して言葉をつづけた。


「もし怜が僕のことを少しでも考えてくれるなら」


 怜は僕を見た。怜の瞳は、僕の目をまっすぐに見つめ返していた。

 怜は言った。


「亘平、あなたはいい人だわ。本当なら、私はあなたと関わるべきじゃなかった。だけどね、わたしにはあなたのひと筋なところがわかったの。あなたなら信じられる。私たちがもう会えないなら、今のままで別れられない? 信頼できる友人として」


 自分の手が震えるのがわかった。怜の返事ははっきりしていた。


「亘平……時間がない。データを渡すわ。ビジネスリングをかざして。データをやりとりするとき、私のデータも消すわね……」


 僕は自分がみっともなく、もういちど考えてくれ、というのを飲み込んだ。僕は何も言わずに、僕のビジネスリングを怜のリングにかざした。

 その瞬間、転送完了の緑色の光とともに、怜のビジネスリングはまた音を立てて留め具が外れ、床へと落ちた。怜がそれを拾おうとしたとき、ビジネスリングは鮮明なホログラムを映し出した。椅子に腰かけてこちらを見ている男。


「泣き虫だな……」


 ホログラムの映し出した男はそう言った。精悍な顔立ちの美丈夫で、少し目を細め、撮影している相手を笑いながら見つめていた。


「じゃあじょうも困った顔しないで」


 僕は心臓をつかまれた。それは怜の声だった。怜がリングを拾おうとするのを、僕は手で押さえた。

 男はホログラムの奥からいつまでも、飽きることなくこちらを見つめていた。それから十秒ほどして、ホログラムは途切れた。

 僕は男の体躯も、服装も、僕の知っている誰とも違うことに気づいていた。


「怜……」


 僕はリングの内側に刻まれた、J.S.の文字を見つめながらつぶやいた。怜の声が頭の中にこだました。『じょう』。

 怜は僕の手を振り払って、アンティークのリングを拾い上げた。


「怜……教えてくれ。僕を騙したのか……?」


 怜は僕をギッとときつくにらんだ。その目は怒りに燃えていた。けれど、僕はおそらく同じぐらい怒りのまなざしで怜を見つめていたはずだ。僕の声は震えていた。


「……あの男は地球人だ。そうだろ? 君は『はじめの人たち』じゃないのか?」


 僕はもう、自分の声を抑えられなかった。僕は怜の左手を思わず強くつかんで叫んだ。


「僕をはじめから騙していたのか? 何もかも嘘なのか?」


 それに対する怜の報復は早かった。僕は左ほほに強烈な一撃を食らった。


「あんたなんかに私の気持ちがわかってたまるか!」


 怜の目から、涙があふれた。怜は僕に嘘なんかついてない。あの砂漠で『はじめの人たち』の話を聞いたときのように、これは真実の涙だ。僕の直感がそう言った。

 僕が体勢を起こそうとしたとき、もうすでに怜は、部屋の窓をこじ開けて夜の砂漠に身を躍らせていた。


「怜、こんな別れ方はだめだ! ……怜!」


 僕がそうつぶやきながらあわてて窓から下をのぞき込むと、黒い影が3メートルほど下の地面をすばやく走り去っていった。


 ジーナといい、怜といい、なんで僕の人生にはこんなにとつぜん別れがくるのだろう。


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