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第百二話 怜の愛した男-2

「昨日の詰所は?」


「……追い出された」


 怜はそれ以上何も聞かなかった。それよりも時間を惜しんでいるような感じだった。


「亘平はそれじゃ今日はどこで寝るつもりなの?」


「地上駅近くのホテルだ」


「じゃあそこでいいわ」


 僕はもういちど首を振った。


「会社経由で予約している。キーはビジネスリングに送られた一人ぶんだし、人数チェックがある」


 怜は僕を上から下まで眺めまわして、それから自分を見て、何かを納得してうなずいて言った。


「じゃあこうしましょ、まずビジネスリングを交換して……」


 ……そして三十分後には、僕たちはホテルのロビーにいた。


「だからビジネスリングを時間までに直してって言ったでしょ!」


 怜はキンキン声で僕に怒鳴った。僕は思わず本気で耳をふさぎながら言った。


「ですがね、課長、そうはいっても部品そのものが……」


 怜は面倒な客がきたと身構える受付に、僕のぼろぼろのビジネスリングを渡して(宿泊情報が入ってるからね)話し続けた。


「ごめんなさい、ホテルの近くにビジネスリングを修理できるところはある? いま部屋に寄ったらすぐにそこに頼みたいの。大切なものなのよ」


 受付が僕のリングのキー情報を読み取り、画面を確認しようとすると、怜は僕から自分のビジネスリングをひったくって受付のテーブルに音を立て置いた。


「みて、アンティークなの。この人、平気で壊したのよ、これを。代わりのリングじゃ不便だわ。登録はできた? ちょっとこっちの宿泊情報も見てくれる?」


 僕は目を閉じて嵐をやり過ごすふりをしていた。受付は僕を気遣って、確認もそこそこに、怜のアンティークリングを読み取ろうとした。

 もちろんそこには情報が出ないので、受付は申し訳なさそうにこう言った。


「大変申し訳ございません、情報は読み取れませんでした……」


「ほら! 言ったじゃない、ぜったい壊れてるって! ごめんなさい、この人と部屋に行って、すぐに私だけ修理に出てきますから、上にあがっていいかしら?」


「ええ、はい、もちろんです」


 受付は愛想笑いを浮かべながらそう言うと、すぐに真顔になって怜に引きずられていく僕を気の毒そうに見送った。


 珠々さんの計らいで、部屋は地上の見える眺めのいい部屋がとってあった。怜は部屋に入ると言った。


「昨日、火事で服を取り換えてたのが良かったわね」


 怜は自分の服装を見ながら言った。確かに、いつもの開拓団風のよりはスッキリした火星世代にも見えなくはないスーツ姿だったからだ。僕は少し疲れを感じてソファーに身を沈めた。だってあの灼熱地獄で失神してから半日も経ってなかったわけだ。


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