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第百一話 怜の愛した男-1

僕:山風亘平 『センター』に秘密で猫のジーナを飼っていた。いま行方不明。

とき:僕の惚れてる女性

 けれど、『かわます亭』に僕が入っていったとき、周囲の雰囲気はそれまでと違った。それはそうだ。なぜなら、僕は街を焼いた原因とみなされていたんだから。

 僕が店に入ったとき、鳴子さんはもう珠々さんと一緒にいて、珠々さんは僕の作業着姿を見るなり涙ぐんだ。

 鳴子さんはおーお、と言いながら僕を肘でつき、僕はあわてて珠々さんに心配をかけたことを謝った。

 それで、いくら鈍感な僕だって、珠々さんが僕に特別な気持ちがあることぐらいぼんやりと理解した。(ついでに珠々さんの父である強権的な専務の顔が脳裏にちらつかなかったと言えば嘘になる)

珠々さんは、僕に地上駅近くのホテルがとれたと教えてくれた。


「それと、おせっかいですけど……着替えも持ってきましょうか……?」


 僕は首を振った。いまは珠々さんの親切が、ただひたすら申し訳なかった。そもそも、部署替え初日から追い出されてきたなんて珠々さんにも恥ずかしくて言えたことじゃなかった。


「なに、こっちの方が目立たないじゃないか。いったい昨日はどこへ泊ったんだい」


 鳴子さんがいつもの調子でそういった。鳴子さん以外の人たちの態度はつめたかったけれど、鳴子さんがいつものように接してくれるのが本当に嬉しかった。


「たまたま視察の予定が入っていた、会社の詰所へ……」


 僕は自分の目の前のグラスをじっと眺めながら言った。いったい何が起こったのか?

たった一日。あの火事の知らせ、ジーナの行方不明、怜とのケンカ、それから灼熱地獄を追い出されたこと。すべて一日に起きたことだ。

 夢だったらいいのに、と僕は思った。ありきたりだけど、こういうとき人は本当に夢だったらいいのにと感じるのだな、とも思った。あの火事のちょっと前まで、僕たちは楽しくこの『かわます亭』で笑っていたというのに。


 そのとき、店のドアが開いて、怜が入ってきた。なぜだろう、僕ははじめて怜が今日来ることを予感していた。だから、僕は怜が入ってきた瞬間に目があった。

 怜が僕に話しかける前に、僕は無意識に怜の方に歩み寄ってこう言った。


「きのうはごめん」


 ……ところで、怜は僕の言葉を聞いちゃいなかった。何か考え事をしているようで、その言葉に軽くうなずくと、僕の腕を引っ張ってこう言った。


「わかったわかった。ちょっと話せる?」


 僕は性急な怜に引っ張られて店の外に出た。そこで僕が軽く怜の腕を引きもどすと、怜は少し驚いて立ち止まった。


「怜、きのうはごめん」


 僕はもういちど、怜に向かって言った。どうしても謝らないと気が済まなかったんだ。


「ああ……、あのときは私も言いすぎた。で、どこかで話せないかしら」


 怜はかなり急いでいるようだった。僕は首を振った。


「怜、僕は家を焼け出されたし、今は一人になれる場所がない」


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