表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/133

第九十九話 採掘場-4

 僕は縮れ毛の男に、道具だけをもって自分についてくるように言われると、他の二人の分も余分に持たされて坑道を降りることになった。

 どうして会社が支給している作業服を着ないのかいぶかしんだけれど、その理由はすぐに分かった。作業服など着ていられないのだ。

 鉱脈の近くに火山のマグマだまりがあるようで、地熱がすさまじかったからだ。坑道は入ってすぐに立て坑のエレベーターへと繋がっていて、そこから百メートルは地下へもぐった場所にあった。

 現場では、会社の定めたルールは何から何まで守られていなかった。つまり彼らは池田さんの言うように身一つで鉱脈から調査用のレアメタルを採取していた。

 

「俺は上川かみかわで、こいつが仲嶋なかしま、そしてこいつが下田しもだだ。基本的には見て覚えろ。いちいち教えねえぞ。待避所はエレベーターの横だ」


 エレベーターが採掘レベルにつくと、縮れ毛頭の上川さんはそういった。立て坑はもともとのマグマだまりらしき空洞につながっていて、ほとんど断崖絶壁のなかほどに鉱脈が顔をだしているのだ。


「それと、これが命綱だ」


 そういうと、上川さんは僕にゴーグルのようなものを渡した。それをつけると、暗い坑道が赤く輝く岩の中に浮かび上がった。まるで溶岩の中にいるようだった。どうやら、赤外線スコープのようなものだったが、それをつけるとさらに岩肌の熱を目でも感じた。


「それを落とせば目が見えなくなる。一巻の終わりだ」


 上川さんはにやにやしながら言った。僕がひるむのを楽しむつもりだろう。けれど僕はすでに熱にやられていて、もう怖がる余裕すらなかった。

 ただ立て坑から採掘の拠点についただけで、僕たちの顔からも体からも汗が噴き出した。みんなが上着を脱いだので僕もそうした。だからと言って暑さがマシになるわけではなかったけど、上着を着ていたら確実にすぐに気を失いそうな熱気だった。

 見て覚えろとはよく言ったもので、湿度も高いからしゃべること自体が体力を使う。僕は何か言われるたびにうんうんと肯くのがやっとだった。

 僕はもういちど、頭の中で待避所までの道順を繰り返した。いますぐに駆け込みたい気分だった。

それから上川さんは僕にハーネスをなげてよこした。採掘方法は驚くほど原始的だった。……つまり、すべてが人力で行われていた。人を崖から吊り下げるのも、鉱物を掘るのも、鉱物を引き上げるのも、だ。


「作業はニ十分が限界だ。俺がまず崖を降りるから、お前はこのバケツのロープをしっかり持ってろ。汗ですべらすなよ」


 その言葉の意味はすぐに分かった。ロープは耐熱と断熱のために汗を吸わない素材でできていて、手の中であっという間に滑りやすくなるのだ。そして、手袋なんぞはめようものだったらすぐに体が気温の方で参ってしまう。ニ十分は気が遠くなるほど長かった。

 バケツを上川さんの手元にとどめて、合図で引き上げなければならないのに、僕は5分も経たないうちにバケツに入れられた岩石の重みで手を滑らせた。

 それから、あっという間にバケツは谷底だ。


「体に括り付けてでも落とすな、新入り!」


 小柄な下田さんから怒号が飛んだ。僕がはっと下田さんの方に頭を上げようとしたのは覚えているけれど、そのときの記憶はそこまでだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ