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第九十八話 採掘場-3

 僕は電話でうまく珠々さんをなだめると、電話を切ってからしばらく呆然とした。怜の身のこなしが『センター』のものだって……?

 そういえば、二回目に『かわます亭』にあらわれたとき、確かに『センター』風の姿はしていた。だけど、怜はたしかに『はじめの人たち』のはずだ。地上で防護服を着ないで平気な顔をしていた。


 いそがしく考えを巡らせているうちに、僕の横を数人が通りすぎて、詰所に入っていった。おそらく、採掘人たちだろう。僕は彼らのあとについて詰所に戻った。

 僕が詰所に入ると、採掘人たちが僕をふりかえった。池田さんが僕を指さして採掘人たちに言った。


「新入りになりたいんだとよ」


 それを聞いて一人の小柄な男が僕を上から下まで眺めまわして、あざけるように言った。


「へえ、このうらなりが、ですかい。なんだってこんなススまみれなんだか。さしずめ職を追われてとりあえずの宿が必要ってとこか」


 池田さんは首をすくめた。


「おれは前からのとおり、あんたたちの人選には文句はいわねえ約束だ。だから、今回もかかわらねえよ。命を張るのはあんたらだからな」


 詰所には三人の採掘人がいて、一人は撫でつけ髪で、小柄で身軽そうな引き締まった体をしており、一人は髪が薄く中肉中背だが背中が少し曲っている男、一人は縮れ毛頭で、背中までも筋肉が隆々としている大男だった。

 三人のなかではどうやら縮れ毛の男がリーダー格のようで、僕にむかってこう言った。


「足手まといを入れる余裕はないが、名前はなんていうんだ」


 池田さんは我関せずといった風に窓から外を見ており、僕はだけど本部であることを悟られたらおそらくそこで話は終わるのだと直感した。


「亘平です。下っ端なんで亘平って呼んでください」


 池田さんはそれを聞いて、ふっとこちらに顔を向けた。縮れ毛の男は言った。


「で、なんでそんなススっけてるんだ。髭も剃らないで、前は炭素工場(二酸化炭素から炭素を取り出す工場のことだ)にでもいたのかね」


 そこで池田さんが口をはさんだ。


「なあ、詰め所に女まで連れ込んでやがったよ、こいつは」


「いや、それは誤解で……」


 僕がそう言いかけると、池田さんは言葉を継いだ。


「家もないってんでまだ雇ってもない詰所に女と転がり込んでるんだから、おおかた」


 そこで池田さんはまず親指を立て、もう一方の手で小指が離れるジェスチャーをしてみせた。そこで男たちはいっせいに笑った。


「詰所に入ったってことは会社からトークンをもらってるわけだな。それじゃあ一度は仕事をみたってことにしないといけねえな。なあ、池田さん」


 池田さんはうなずいた。


「なあに、一度見て使えねえなら上には言うよ」


 中背の男が僕の脇腹を肘でつついた。


「で、その女ってのはいい女なのかい? 察するに敵は工場長ってとこだな」


 小柄な男もにやにやとして僕に採掘用の工具を渡してきた。僕は何も知らない人間に怜のことを下世話に詮索されたくなくて、思わず小柄な男をにらんだ。


「こいつはマジだぜ」


 小柄な男はなぜかほくほく顔でそういった。僕はこういった過酷な現場で、どういう経緯にしろ『上の奴をぎゃふんと言わせる』ことのもつ意味合いをまだよく理解していなかった。


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