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第九十七話 採掘場-2

 池田さんはふうっとためいきをついた。


「そうはいっても、厳しいことを言うようだが、ここに来てもらっても困るんだよなぁ……。山風さん、現場の人間ってのはあんたが思うほどお上品じゃないもんでね、特にこういう危険な現場は。あんたの前にきた本部の人間が、いったい何日もったと思う?」


「わかっています。だけど、どのみち僕はこの仕事をやらなくちゃならないんです」


 『センター』の求める仕事を失敗すれば、僕の安全は保障されないだろう。もしそうなったら、誰がジーナを探すというのか?


「じゃあお前さんが、ここの奴らを説得するんだな。俺は生産部門の調整担当としていろんな現場を渡っちゃきたが、ここの人間は一筋縄じゃいかねえぞ。俺は厄介ごとはごめんこうむる」


「わかりました、僕が説得します……」


 池田さんは僕を見つめたまま間をおいて、それからテーブルを手の平でポンと打つと、椅子から立ち上がってお湯を沸かし始めた。僕はふと自分のビジネスリングが震えるのを感じて、表示を見ると、なんと10件以上もメッセージが入っていた。珠々さんからだった。

 僕は池田さんにあいさつして詰所の外に出た。僕がコールすると、珠々さんは一回も鳴らないうちに出た。


「山風さん?」


「はい……」


 珠々さんの心配そうな声に僕は昨日の『かわます亭』でのことを思い出した。


「ああ、よかった……。昨日はどこに行かれたんですか? ひどい火事だって聞きましたけど、家は……」


「連絡もせず、心配かけてすみません。家は焼け出されて……」


 珠々さんは電話口で言葉を失っているようだった。そうだ、僕は珠々さんも『かわます亭』にほったらかしですっかり忘れていたのだ。


「珠々さん、無事に家に帰れましたか……?」


 電話口の珠々さんはそれを聞いて怒りを爆発させた。


「私のことなんかどうでもいいんです! 山風さん、いまどちらに? 会社にはいらっしゃいますか?」


「いえ、今日からもう採掘場の方へ……。実は昨日、採掘所の宿直室を使ったんです」


「……怜さんは……? いま一緒ですか……?」


 そういえば、『かわます亭』を飛び出すときは怜と一緒だったのだ。僕は自分の口から乾いた笑いが漏れるのを感じた。


「いや、別です」


 珠々さんがふっとためいきをつくのが分かった。


「今日、会社で山風さん用の新しい居住地を探しますわ。今日も『かわます亭』にいらしてくださいますね?」


 珠々さんはたぶん僕を心配してくれていて、声が必死だった。僕はなんだかそれで逆に自分が落ち着いた。


「珠々さん、……冠城さん。僕は大丈夫です。家のことも、僕に任せてくれませんか……?」


「……だって、だって山風さん……」


 珠々さんは少し泣き声になったようだった。けれど、少し間をおいて、落ち着いた声でこう言った。


「でしたら、怜さんは? あの方『センター』ですよね。安全な地域に家を見つけてもらえるんじゃないかしら」


 僕は思わずえっ、と電話口で言葉を失った。怜が『センター』の人間だって?


「握手の仕方がそうでしたもの。それに、身のこなしも……」


 僕は何が何だか分からなくなって、しばらく黙っていた。怜が『センター』の人間だって? いったい珠々さんは何を言っているんだろう……?


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