表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/133

第九十六話 採掘場-1

僕:山風亘平 『センター』に秘密で飼っていた猫のジーナが行方不明

池田さん:会社の採掘場の責任者のひとり

***


 結局、僕はその日、まんじりともすることはできなかった。詰所は坑道に面した谷間にあったので、僕は朝が来たことにも気が付かなかった。

 ただ、詰所のドアが急に開いたので、僕は長椅子の上に伸ばした体を起こした。入ってきたのはさいしょ黒い影にしかみえなかったけれど、


「わっ! 誰だ!」


と声をあげたのでそれが男だということだけはわかった。そのとき、谷を縫って朝日が差し込んできた。それで僕は、赤い光の中で、それが白髪交じりの初老の男だということに気が付いた。


「なんだよ驚いたなあ」


 男はそういうと、まじまじと僕の顔を見た。男は無精ひげを生やしており、顔には深い皺が刻まれていた。


「新入りかい、若ぇの」


 そしてテーブルの上の二つのマグカップを顎でしゃくってみせると、にやりと笑いながらこう言った。


「出勤前に女連れ込むたあ大した度胸だな、髭ぐらい剃りやがれみっともない」


 僕はいまさら、それが僕が話をしようとしていた池田さんだということに気が付いた。僕は椅子から立ち上がると、池田さんに向かって頭を下げた。


「誤解をまねいてしまいすみません。グンシンの本部から来ました、山風亘平です」


 すると、池田さんはうなり声のような、詰まった驚きの声を上げた。


「えっ、あんたが本部の……、山風って人かい……」


「はい。池田さんと直接、生産物のこまかい話をしたくてこの部署に来たいと願い出たんですが……」


 池田さんは渋い顔をした。


「そうかい、そいつは結構だが、うちは現場を知らねえ人間はおいとく余裕はないんだ。丁重にお断りして、お帰りねがおうって話だったんだが……」


 池田さんはそういうと椅子を引きながら、白髪頭をぼりぼりと掻いた。僕にしても池田さんにしても計算外の初対面だった。池田さんはゆっくりと椅子に腰かけると、うーん、とうなって、僕をまじまじと見た。


「で、なんでお前さんがここにいて、しかも女を連れ込んでるんだ」


「女というか、その件は誤解ですが……」


 池田さんはうつ向いたまま、うなずきながら言った。


「じゃあそこに落ちてる長い髪は見間違いだな。ともかくなんであんたがここにいるのか説明が欲しいんだ。もうそろそろここに来る他の連中にどう俺は言ってやればいいのかってことさ」


「実は帰る家がないんです。それで昨日、ここの宿直室を使えないかと……」


 僕がそういうと、池田さんはまたうなりながら椅子に身を沈めた。


「家がない男が本部から採掘場へ転がり込んだ……」


「家はありました。第四ポートにある開拓団のアパートで。ギャングに焼かれたんです」


 すると、池田さんはがばっと身を起こしてこう言った。


「昨日の火事!」


「はい。開拓団では僕ら『火星世代』はターゲットになってるんだと……。それでもうあのアパートに帰れなくなりました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ