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推しが私を萌え殺しにきてる

 私が叫ぶと、互いを睨んでいた王子と令嬢はこちらへ振り向いた。王子は驚いたような顔をして、それから首を傾げた。一方令嬢も驚いた顔をみせたあと、したり顔になって王子を責めた。おもわず口を挟んでしまった私は慌てて口に手をあてて、しゃべらないようにする。


「彼女は違うと言っているみたいですが、貴方は一体なにを勘違いされていたのですか?」


 今度は令嬢が冷たい目で王子をみた。

 冤罪をかけられていた彼女は、ここぞとばかりに言葉をつめる。


「この子を私がいじめていたという証拠は?彼女が言ったわけではありませんよね?仮に虐められていたとして、それを貴方に打ち明けるほど仲が良いようにみえないのですが?」


 うっと言わんばかりに王子がひるむ。淡々とした正論に王子は押されていた。わたしは推しの後ろで、ちぎれんばかりに首をたてにふっていた。推しが正しい!推しのいうとおりです!私と王子のあいだにはなんの関係もありませんでした!全ては推しの正しさのとおりです!




「そもそも、リーリアは私の友人なのだからいじめるわけがないでしょう?」




!!!!




「、それはちがうよ!」



今度は令嬢が目を点にした。


「え……ちがうの……?」


 心なしかしょんぼり、まゆをさげて令嬢はいいました。

 はあーそういうとこだよ、オメーはよ可愛すぎるんじゃあ。天使かな。友だちなんて恐れ多いんだよ。ガチファンだから友だちだっていわれたら否定するしかないじゃん。おもわず「ちがいます!」っていっちゃうしかないじゃん。

 でもわたしのへんなオタク意識で推しを悲しませるのは本意ではない。友だちじゃないっていっちゃったせいで、推しは目を潤ませてわたしをみている。待って、泣きそうになってんじゃん。ごめん。そんなつもりじゃなかった。泣かないで、罪悪感でしぬ。心がいたいです。心臓が握りつぶされる。まって、大丈夫。


「わたしたち友だちっていうより親友じゃないかな」


「! リーリア!!」


 令嬢が駆けてきて、わたしにぎゅっと抱きついてきた。


「そうよね、わたしたち親友だもの!」



 みてよこの笑顔。控えめにいっても天使。鉄面皮がはがれて、ただのかわいい女の子になってる。"悪役"令嬢はどこにいったのやら。

 まわりをかこんでいた野次馬は、令嬢の笑顔にざわざわと騒ぎはじめた。令嬢が下流貴族のわたしと仲が良いことや純粋な笑顔を浮かべていることに驚きや戸惑いの声をあげている。


 わたしは令嬢を抱きしめかえした。

 おまえたちが悪だと決めつけた令嬢は、ほんとうはふつうの女の子なんだ。ちょっと高飛車だけど、ちゃんと自覚して反省してる偉い子なんだ。家柄のせいで友だちも選べなくて、それでもその子たちと仲良くしたいって思ってる優しい子なんだ。それが態度と表情にでにくいだけで。


 わたしは彼女が好きだから、なにがあっても彼女の味方だ。絶対に裏切らないって約束する。

 令嬢にちょっと意地の悪いこといわれても、パシリみたいなことを命令されても、本当はそんなことを言いたかったんじゃないって知ってるから。

 最初は冷たい態度をとっていたけれど、なにを言われてもわたしが離れないことを知った令嬢は、次第に心を開いてくれるようになった。

 「貴方のような下流貴族は…」

 口癖のように相手を見下す言葉に彼女自身が傷ついていた。つい口から出てしまった言葉に彼女は慌てて口を閉じるようになった。プライドが邪魔をしていえなかった「ごめんなさい」をわたしにいってくれるようになった。彼女のために紅茶をいれたり、荷物を代わりにもってあげたりすると「ありがとう」といって微笑んでくれるようになった。

 テスト前には勉強会に誘ってくれて、成績優秀な彼女からテスト対策を教えてもらった。

「こんなこともわからないの?」

「貴方には早すぎる問題だったようね」

と、すごく毒舌でスパルタだったけど成績はのびた。上がった成績をみせにいくと

「これくらい貴方ならできて当然でしょう」

ドヤ顔の彼女の方が私より嬉しそうだった。



 こんな普通の女の子なのに、どうして断罪イベントが起きたんだろう。誰の悪意が彼女を「悪役令嬢」に祭り上げたのだろう。

 彼女と過ごした半年をおもいかえし、浮かんでくる萌えエピソードに悲鳴を押し殺す。どさくさに紛れて令嬢をさらにつよく抱きしめた。


「……ちょっと、いつまで抱きついてるのよ!」


 ぐいっとおされて、私は令嬢からはなれる。顔を真っ赤にした令嬢が、照れ隠しに私をおしやったのだ。その様子にきゅんきゅんしながら、にやにや笑いそうになる顔をひきしめて無表情を保つ。



「リーリアはなにもしてないだろ。君が勝手に抱きついたくせに、彼女が嫌がるそぶりをみせないからって横暴すぎるんじゃないか!」


 王子が怒りをあらわに令嬢を睨んだ。

 その言葉に令嬢は堪えた様子をみせず、私と一緒に首をかしげた。


 はっとして思い当たる。



「私が無表情なせいか~」


 萌えすぎて顔面崩壊している様を見られたくないため無表情を装っていた。令嬢といると顔が緩みそうになるのを必死に耐えていたのが原因のようだ。だとすると、令嬢と一緒にいるとき私が無表情だからまわりは私がいじめられていると思ったのか…?


 全部私のせいじゃん…??



 え、私のせいじゃん!!!!!!

 誰かころしてくれぇ…!



「リーリアは嫌がっていません。彼女の表情を読みとることもできないくせに、でしゃばらないでくださいませ」


 令嬢は私の腕に自分の腕をからませ、ふんっと王子を鼻でわらった。自己嫌悪で自殺することを考えていた思考が、彼女の行動にもってかれる。仲良しアピールする推しがカワイイ。

 みせつけられた王子は負けじと反論する。


「じゃあ今リーリアはなにを考えているのか教えてもらえるかな?」


 令嬢はじっと私の顔をみつめ、私の思考を読み取ろうとしてくる。その行為が尊すぎて、私はおもわず顔をそらした。


「『わたしの親友、可愛すぎ』ってところかしら」


 だいたいあってる。


 王子は「はあ?」と言いたげな顔をして、おかしなものでも見るような目で令嬢をみている。残念ながら、令嬢はどこもおかしくない。むしろおかしいのは私の方だ。推しの尊さの前では、おかしくならずにはいられない。そもそもオタク女子の思考を読みとることが間違いだとおもうが。

 私のせいで令嬢がおかしな子認定されてしまったかもしれない。また私のせいで令嬢が勘違いされてる。

 この世界の令嬢が不憫なのは全部の私のせい。

 ほんと、死にたい。



「リーリアは優しい子だから、君につきあってくれているだけだ。いい加減腕をはなしたらどうだい?」


「そっちこそ、私とリーリアが一緒にいることなんてよく知ってるわね?リーリアは私が一人でいるときに、神出鬼没にあらわれるのよ。

 もしかして、ストーカーでもしてるのではなくて?」


 王子が近づいてきて、私の右腕をぐいっと引っ張った。くっついていた令嬢が負けじと左腕を抱きしめる。


「その手をはなして」

「君こそはなれろ」


 美少女とイケメンが私をとりあっている。いつから自分は乙女ゲームの主人公ではないと錯覚していた……?

 おもってたより令嬢から好かれていて嬉しい。親友って言っても否定されなかった。王子に対抗意識燃やしてるのもかわいい。

 てか、なんで王子の好感度たかいの?


 いつのまにか両手に花を抱えていた私は、緩みきった顔をさらし、奥歯を噛む。まるで2次元のような展開だが残念これは現実だ。

 公式はいつだってオタクをころす。



「萌え死んじゃうからやめてぇ…!」


 絞り出した声は、口論する2人には届かなかった。





 私のかわいいツンデレ悪役令嬢を読んでいただきありがとうございました。推しは布教しなければ気のすまないたちでして、今流行りの悪役令嬢に萌えた瞬間これは書かねばと思い筆をとった次第でございます。

 悪役令嬢は基本性格がきついのでつり目で描かれることが多いです。するどい目尻、しかし萌え絵の令嬢の瞳は大きく、まるで生意気な幼女みたいですね。令嬢は才色兼備で、スタイルがいいと相場はきまってます。もしかしたらデブスな悪役令嬢かもしれませんが、大事なのは内面です。


 いいですか、悪役令嬢はプライドが高いのです。

 それはその世界に存在するどの人物よりたかく、エベレストのように孤高なとんがりをもって他を寄せつけません。

 登頂しようものなら、極寒の罵詈雑言、毒舌をもって我々ははねのけられるでしょう。

 しかし想像してみてください。彼女たちは孤高であり、孤独でもあるでしょう。その山を登りきったときみえるものはなんですか。得られるのはなんですか。


 そう、「日の出-令嬢の笑顔-」です。


 彼女たちに寄り添い続けたあなたに、心をひらき真実の愛をみせてくれるでしょう。長い冬があけ、春の暖かさに花が綻ぶように令嬢は素敵な笑顔をみせてくれます。

 そしてそれはあなただけのものです。

 彼女たちに寄り添いつづけたのはあなただけなのですから、その美しい花を知るのはあなただけなのです。登頂した景色をみたのは、あなたが初めてなのです。


 悪役令嬢たちはいつでも愛に飢えています。王子という偽りの愛に縋って、悲惨な最期をむかえます。

 彼女たちを救えるのは真実の愛だけ。あなただけなのです。



 さあペンをもって。

 あなたは魔法使いとなり、灰かぶりの悪役令嬢たちにかぼちゃの馬車を用意してあげてください。幸福への道しるべをしめしてあげてください。


 ステキなシナリオと、真実の愛だけが理想の悪役令嬢を描くのです。





 推しの布教は以上です。


 はじめまして、ゆきもちといいます。

 普段はピクシブでのんびり2次創作を書いています。熱しやすく冷めやすい性分のにわかですので、あちこちに手をだしてクロスオーバーをかいてます。非常に飽きやすい性格で小説を書き終わるまえに自分のアイディアに飽きます。

 実はこの作品も長編にする予定だったのですが、力尽きてしまい短編として世にだすことにしました。

 おかげで前半はべたべたと伏線を貼りましたが、結局回収せずに完結しています。貼らない伏線より貼る伏線。物書きとしてカッコ悪いですね。だれか、私のかわりに続編を描いてくれることを祈ります。


 続編を書く予定がないので、回収しなかった伏線のはなしをします。

 主人公を転生させたのは悪役令嬢の弟でした。この世界には特異な力をもつ宝石が国の秘宝として隠されていて、上級貴族たちは一族で一つその管理を任されています。王族は「水晶(クォーツ)」で膨大な魔力、悪役令嬢の一族は「ダイアモンド」で逆行する能力、令嬢の弟は「黒曜石」を所持し異世界に干渉する能力を行使することができます。宝石の能力は管理する一族にしか使うことができず、令嬢の弟は奇しくも2つの能力を扱えたのです。ブラコンな弟は、王子に婚約破棄され暗い未来に身を投じることとなる姉を心配して世界の時間を巻き戻します。そして、時間軸に新たな変化を生むために異世界に干渉し、こちらとあちらの世界を繋いだのです。


 そのつながりこそが『宝玉の姫君~クリスタル王国とイケメンたち~』というゲームでした。



 という壮大なメタストーリーを書くはずが、ただの悪役令嬢布教本になってました。失敗失敗。私に長編小説は向いていません。


 リーリア・オーパルも実は隠れ宝石一族。「全能」の宝石言葉をもつ「オパール」を守護する隠された一族です。だから魔力の塊である水晶をつくるなんて造作もない。


 こんな設定どうでもいいですね。


 はたしてこの文章をここまで読んでくださった方がいるのかわかりませんが、お付き合いありがとうございました。以上で私のあとがきは終わりになります。ながながと失礼いたしました。本編を読んでくださったかたに感謝いたします。

 ありがとうございました!


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