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1.推しとの出会い

「さあ、今日こそラブエンドを迎えるぞー!」


 そういって、わたしはゲーム機を立ち上げる。黒かった画面が明るくなり、ゲームのタイトルが映る。


『宝玉の姫君~クリスタル王国とイケメンたち~』


 それがこのゲームのタイトルだ。ジャンルは乙女ゲーム。女主人公がイケメンたちを落とす恋愛シュミレーション。ファンタジー世界に住む下流貴族の主人公が、学園で王子様と貴族子息に出会い、愛を育むストーリー。

 かなり平凡で王道的な設定だが、いま巷で人気の乙女ゲームで、絵柄が好きだったからつい手をだしてしまった。

 しかし、乙女ゲームなんて普段やらないから王子たちの攻略に手間取っている。やり始めてからかれこれ1ヶ月も苦戦しているのだ。

 お、おかしいな…ネットには「攻略めっちゃ簡単!」って書いてあったのに。未だ、誰のラブエンドを見ることもできずにいる。


 このゲームは、主人公が学園に入学してからの一年間が攻略期間となっていて、攻略対象1人につきエンディングが3種類用意されている。


 まずは友情エンド。名前の通り良好な友人関係を築くものの恋愛まで発展せず二年生に上がってしまうエンディング。攻略対象からの好感度が低いと、自動的にこのエンディングを迎えてしまう。私はこのエンディングしか見たことない。友情エンドだけなら既に全キャラコンプ済みである。

 悲しすぎる…


 続いて、ラブエンド。王子様と結ばれて、幸せになるエンディング。しかし、王子様は下流貴族の主人公を選んだことで王位継承権を失い、また主人公も家から勘当される。二人は地位を失い平民として生きることになるものの、心は豊かに平和に暮らすことができる。

 これはこれで良いエンディングだ。真実、お互いだけを欲した優しい結末。ラブエンドが一番好きだって言うファンもかなりいるらしい。私もはやく見てみたい。


 最後に、クリスタルエンド。主人公のチート能力が発見されて王子との結婚が認められる、よくある成り上がり展開だ。ゲーム内で一か月毎に行われる「月末テスト」と呼ばれるミニゲームで高得点をとり条件を満たすことで開放される。

 このシナリオは主人公が国の象徴である水晶を作ることができる珍しい能力を持っていることが発覚することから始まる。色のない透明な水晶は神聖な宝石として有り難がられ、それを生み出すことができる主人公を周りは聖女と呼び始める。その上、魔法あり、魔物ありのこのファンタジー世界では、水晶は魔力の塊であり、透明度の高い水晶ほど豊富で質の高い魔力が込められている。

 つまり、主人公は魔力お化けだったわけだ。信仰的にも政治的にも、主人公は国の中枢を担うことになり、王子様との婚約が認められる。二人は地位を捨てることなく、結ばれる。これが大多数の理想的なエンディング、皮肉を込めて「お姫様エンド」と呼ばれている。これも気になるのではやく見たい。



 え、なんで攻略できてないのにこんなに詳しいのかって?



 べ、別に攻略サイトなんてみてないけど!あんまりにも攻略できなさすぎて、飽きはじめたから見ちゃったとか、そ、そんなんじゃないし!!





……スチルも詳細も見てないから許してください。





「……お? これは……!」



 変なことを考えているうちに、手元のゲームは新しい展開を迎えていた。


 ゲームでは一か月ごとにイベントがおこり、ちょうど半年の6か月目で日本の文化祭にあたる学園パーティが開催される。三日間かけて行われるそれは、最終日の夜にダンスパーティが開かれ、男女は意中の相手か婚約者と踊ることとなる。主人公も当然参加しようとするが、用意していたドレスを悪役令嬢にボロボロにされてしまう。悲しんでいた主人公のところに王子たちがあらわれ、新しい服を用意してくれる。無事ダンスパーティに参加できるが、悪役令嬢から嫌がらせされていたことが王子様たちにバレてしまうのだ。そして悪役令嬢は、パーティ会場で婚約者である王子様をダンスに誘うが断られる。

「僕の大切な友人を傷付ける人間とは結婚できない」と。

 悪役令嬢は悔しがりながら、退場する。それが、悪役令嬢"断罪"イベントの流れだった。

 最後に、主人公は攻略対象である王子様とダンスを踊り、「君のことをこれからも守るよ」というニュアンスの言葉を囁かれて終了。友情エンドを迎えてしまう。友達以上恋人未満の関係で物語は閉じるのだ。


 しかし、今回はどうやら違うみたいだ。


 ダンスを踊り終えたあと、2人はパーティを抜け出し中庭にでてきた。今画面に映っている攻略対象は、クリスタル王国第一王子のレオン・クワルツ。このゲームの看板王子で、金髪碧眼の爽やか青年。ちょっと腹黒いが天然も混ざったイケメン王子様だ。圧倒的に顔が良い。絵が好き。微笑んだ顔が素敵。

 そんな王子様は、なにやらニコニコと主人公と会話している。

 しかし、主人公は内心穏やかじゃない。なにせ、パーティで「大切な友人」と言われてしまった。


 「(なんで、こんなにもやもやするの…?彼の言った通り私たちは友達なのに…もしかして、これが、恋?)」


 みたいなことを考えている主人公は恋を自覚している真っ最中。脈なし発言も相まって心ここにあらず。王子様との会話がおろそかになっている。

 ニコニコしていた王子様ことレオンも、主人公の態度に眉尻を下げる。「どうしたんだい?」なんて聞いてきた。


▷『なんでも…ありません』

▷『…大丈夫です』

▶︎『ごめんなさい』



選択肢がでてきたので一番下を選ぶ。


「ていうか、上二つなんて明らかに大丈夫じゃないよね。分かりやすすぎない?主人公かまってちゃんかよ…」


 ごめんなさいを選択したのは、会話がおろそかになっちゃってたから。大丈夫、今度はちゃんと聞きますよ~おしゃべりしてどんどん好感度を上げよう!






『ごめんなさい。私、もうレオンと一緒にいれないわ!』






!?!!??

なになに、どういうこと!?



『私、レオンのことが好き。だから、あなたとはこれ以上一緒にいることができない』



 え~!ここで告白しちゃうの?!性急すぎない?もっとゆっくり落としてこうよ。確実に着実にやってこうぜ!

 ゲーム内で告白した主人公は、その場を離れようとした。しかし、レオンが彼女を引き止める。


『僕も君が好きだ。言い逃げなんてずるいじゃないか。』


 レオンは微笑み、そう言った。

 画面はスチルへと変わり、レオンは主人公に跪きその手をとる。それは、騎士のように凛とした誠実さを感じ、しかし華のある王子の姿。ダンスパーティのドレスを着た主人公とレオンはまさにお姫様と王子様のように、愛を囁きあっている。


『言っただろ? 君のこと、これからもずっと守るって。友人なんかじゃ満足できない。どうか僕の恋人になってほしい』


 なんて。

 うわ~~~!かっこいい!!

 レオンヤバすぎでは??顔がいい、声がいい、セリフがいいの三拍子。最高かよ。久しぶりにキュンキュンしてしまった。


 よし!このままクリスタルエンドも回収するぞー!







「なんて意気込んで、また一か月たちました。ようやくクリスタルエンド回収です」



 長かった。まさか、王子1人攻略するのに二ヶ月必要になるとは思わかった。


 クリスタルエンドを迎えるには、ミニゲームで高得点を取ること、高い好感度を維持することを満たしていなければならない。

 ミニゲームは余裕でクリアできたが、好感度の方がなかなか条件を満たしてくれない。上がらないし、すぐさがる。一体何回同じエンディングを見る羽目になったことか。いくらレオンがかっこいいとはいえ、十回以上も見ていたら飽きてしまう。ストーリーはスキップ機能を使いまくった。


「他のキャラの攻略もあるのに…」


 この調子では、全クリアまで何ヶ月かかるかわからない。ストーリーは面白いけど、正直面倒くさくて飽きてしまう。やっぱり、自分には恋愛ゲームは向いていない。諦めて他のキャラは、攻略でも見てしまおうか。


 画面の中では、白いタキシードをきたレオンがウェディングドレスを纏う主人公と嬉しそうに笑っている。教会を背景に花びらが舞い、みんなに祝福されて結婚式を挙げている。素敵なスチルでときめくが、今は胸キュンよりも達成感でいっぱいだった。

 無事エンドロールも見終わり、タイトル画面へと戻ってくる。次のキャラの攻略にうつりたいところだが、「スタート」をおさずに「おまけ」をひらく。どんなゲームもエンディングを迎えれば、大抵新しい機能が解放される。そう思って、タイトル画面を漁ってみると案の定、「後日談」のストーリーが解放されている。

 さっそく、レオンとのその後を見ようと、「レオン・クオルツ~クリスタルエンド後日談~」を選ぼうとしたが、


「『悪役令嬢の独白』…?」


 レオンのストーリーだけではなく、悪役令嬢のストーリーも解放されていた。この「後日談」メニューにあるということは、王子を盗られた悪役令嬢のその後を描いたもののはずだ。

 これは面白い。悪役令嬢は主人公に負けてさぞ悔しがっているだろうな、なんて意地の悪いことを考えながら「悪役令嬢の独白」を開いた。


 背景は豪華な部屋の一室だった。しかし、部屋は暗く窓から察するにやはり夜なのだろう。シチュエーションはダンスパーティ後、王子に婚約破棄された悪役令嬢が画面のなかでぷりぷりと怒っている。下流貴族である主人公の罵倒から始まり、容姿や振る舞いを馬鹿にし、果てにレオンは女を見る目がないと言い始めた。言動がかなり過激だが過ぎてるだろうし、彼女つきの召使いは止めたりしないのだろうか。描写されているのは彼女1人だけだった。

 悪役令嬢は一通りわめき散らしたあと、急に静かになった。


『… … …』


 怒鳴っていた口をキュッと締めて、何も言わずに俯いた。画面の中の彼女はきつく釣り挙げていた眉をだんだんと下げていき、とうとう目に涙を溜めてこういった。




『さみしい』








『どうして、私ではないの?』


『何がいけなかったの?』


『どうしたら、私のことを見てくださるの?』


『お父様、お母様。』


『私がいけないの?』


『レオン様。私、貴方に見合う女性になるためにずっと頑張ってきましたのよ。』


『ずっと、私は』


『私は』


『私』


















『だれか わたしを みて』

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