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走
まただ。
また、タイムが落ちてる。足が上手く動かない。
走っても、走っても、タイムは落ち続けるだけ。
「……なんで」
たった100m走るだけなのに。2年間、順調だったはずなのに。
矢内 雪芽の部活に捧げてきた中学校生活は一体なんだったのだろうか。
「ちょっと疲れてるだけだよ、大丈夫。ゆっきーはこれからでしょ」
陸上部副部長であり親友の新藤 秋穂がぽんっと肩を叩く。
「これからじゃないよ…。もうあと半年もしないで引退なのに。部長なのに…」
雪芽は何事にも責任感を強く持つ性分だった。秋穂もそれを十分理解していたので、
「じゃあ、もう1回走ろう。ベスト尽くそう!」
前に進めるようにと彼女なりに考え背中を押した。
「うん、もう1回走ってくる。タイム、測っててくれる?」
「もちろん」
このとき背中を押したことを、秋穂はずっと後悔している。