その7 俺たちはこの世界について、何も知らない。
結局、移民団は池の近くを本拠地として、そのあたりを開墾して村を築くことに決めたらしかった。移民団の一人が馬車から馬をはなし、見張りをしながら草を食ませている。鹿毛の馬と栗毛の馬、それから小振りな葦毛の馬だ。
見張りの団の男は、他の男たちと同じように髭をたくわえている。ただ、他の男達と違うのは、その男はずいぶん小柄に見えた。髭さえなければ子供と思ったかもしれない。
俺がぼーっとその様子を眺めながら昼食を取っていると、それをみた男がトコトコと近寄ってきた。
「あ、あんた、お、おれをみてたな」
「いや・・・スマン」
確かに不躾に視線をやりすぎた。素直に頭を下げると、その小さな男はイヤイヤと逆に体を小さくした。
「べ、別にイイんだ。なんか、ヒデちゃん様、は、その、馬鹿にしているカンジじゃ、ナイから。・・・俺はホビットなんだ」
ホビットの男は曖昧に笑って言った。その言いぶりに、俺はなにか切ないものを感じる。
大きな体の男ばかりの移民団で、このホビットの男はなかなかつらい思いをしてきたのかもしれない。
「へー・・・俺と朱美はたぶん、この世界でもふつうの人間・・・だと思うんだけど・・・」
「ヒ、ヒデちゃん様たちは外つ人だから、あ、あ、あんまりどんな格好でもなんにも言われないさ」
「外つ人?」
「あ、ああ、この世界に生まれた訳じゃなくて、神様が用立ててよそからつれてくる人、うちの世界ではよくいるんだ、い、一応みんな外つ人って呼ばれてる。」
「その人達みんな、世界を救おうとしてるのか?」
「ほとんどは。で、でも中には悪い人もいて、外つ人同士で変に徒党を組んでよ、暴れっ回ってる奴らもいるらしい」
自分だけが、選ばれたただ一人の勇者じゃなかったーーということは少し心外ではあったけれど、まあ他にも同時多発的に勇者様が発生していて、悪いヤツも中にはいるかもしれないけど人のために動いているなら、俺はどっかり腰を据えてこの村の農作物が順調になるまで見守れると思った。
「この世界には他にどんな人種が居るんだ?」
「お。俺が知ってるのは、人間、ホビット、獣人、エルフぐらいだな。それぞれなんだか変わった見た目の外つ人がいたり、その外つ人がそのまま子供持ってたりもするからわかんねぇなぁ」
「なるほどねぇ」
俺はお弁当を食べ終えて、ゴミを片づけた。
そのあたりの土を見て回っていたが、適度に湿り気もあり、耕作するにはとてもいい場所に思えた。
「ヒデちゃん様が、あの種のまきかた怒ってくれて、お、俺すっとしたよ。あんなのは土の言うこときかんと、生まれるものも生まれんて」
「あ、そうか、ホビット。たぶん土とか敏感でしょ。四角く区切って耕作地をどれくらいとるかとか何を植えるかとか、相談に乗ってもらえないいか?」
「もちろん!」
今日は一日みんなは体の疲れをいやし、明日から本格的な村づくりが始まる。あんまり夢中になって、長も含めてあーでもないこーでもないと会議をしていたせいか、夕暮れ時まで、朱美が居ないことに気付かなかった。
「朱美がいないんだ、ちょっと探してくる!みんな場所しってるか?」
「そういえば見てないですなあ・・・」
「さっきまでは、沼のほうにいらしたけど・・・」
もう夕暮れ時なのに。移民に聞いたって要領をえない・・・。俺は朱美を探すために、かけだした。