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その2 新婚旅行が異世界になった俺達


 目が覚めると、雲一つない青空だった。

 空がどこまでも高くて、風は透き通っている。

 どこまでも気持ちいい、ピクニック日和だ。問題なのはこれが、ピクニックじゃないことだろうけど。


「いててて…」


 僕はブラック残業すぎてバキバキだった肩をぐるぐる回して起きあがった。服がスーツじゃなくなってて、木綿の…所謂異世界っぽい服に変わっている。ズボンもそうだ。

 とても動きやすくていいけれど、背中がやけに痛かったのは背中に背負っていた剣のせいらしい。


「わーお、すごく…ドラ●エです…」


 鈍色の剣(もちろん鞘に入っている)を腕に抱え直し、最初に漏れた感想がこれだ。

 スーツのまま異世界に飛ばされたらどうしようと思っていたけれど、あの神様(仮)は服とかはサービスでプレゼントしてくれたらしい。

 まぁ、なんでも一つ持って行けって言われて、スマホ持って来て全裸だったらやだもんな…。俺はなんて答えたんだっけ…。そうだ…。


「朱美!」


 俺は、大声で嫁の名前を呼んだ。俺の嫁、西貝朱美は、質素な麻のワンピースを身にまとって、俺と同じ草原の真ん中で、すやすや寝息を立てていた。

 髪は色素の薄い茶色で、腰のあたりまで長い。まつげは漆黒でとてもつやつやしている。困ったような下がり眉で、そのくせ意志の強そうな目が、ぱっちり開いて俺を見た。


「うーん…おはよーヒデくん、あ、お帰り?」


 朱美は先ほどの俺と同じように、大きくのびをして、空を見上げて…固まった。


「ナニコレ」


「そうだよね」


 至極まっとうな反応だと思う。


「ヒデくん、お家までなくしちゃったの?」


 すこんと抜けた青空を見回してから、朱美が俺の方に振り返り首を傾げる。


「いやいや、俺そんなマヌケキャラなわけ?」


「小学校の時ランドセル忘れてーー」


「その節はすいませんでした」


 俺は条件反射で土下座をした。小学校の時は、たしかに空ばっかみあげてるガキで、鞄を忘れて帰ったりして、そのたびに朱美に世話になったんだった。

 いや、今回も命なくしてるわけだから、間抜けといえば間抜けなんだよなぁ…。


 朱美はすっくと立ち上がって、髪を掻き上げながら俺に手をさしのべた。


「じゃあ、冬になっちゃう前に、どこか雨風をしのげる場所、探さなきゃね!」


 いつも通りの朱美の笑顔が、冗談なんかじゃなく女神様みたいに俺には思える。神様に、一つだけ持ってきていいって言われた時に、朱美を選んで本当に良かったと心から思った。


「…ところで、なんでもうすぐ冬になるっておもうわけ?」


 今は昼間、草原は暑くもなく寒くもない。俺は、今の季節がーー春なのか夏なのか秋なのかわからない。冬じゃないことは確かだと思う。雪は降ってないし。


「うーん。空の雲が高いからかなぁ。天高くー馬肥ゆる秋ーって言うでしょ」


 朱美はのほほんとした笑顔を浮かべながら、足元をざくざく踏み固めて、草原から小高い丘の方へ向かった。


「ねえヒデくん、新婚旅行が異世界なんて、ドキドキするね!」


 丘の上から、俺たちが救わなきゃいけない世界を見下ろして。大きな木の陰で、この世界で初めてのキスをした。


 日が落ちてくる。すぐそこに見えた丘も、なにも比較するモノがないせいでそう見えただけで、登るとなると結構な距離があった。丘の頂上につく頃にはもう夜の帳が降り手いる。そこここに明かりがともっていた。

 朱美は俺の肩に自分の頭を預けながら、その明かりを指さして言った。


「ヒデくん、明日、あの明かりが一番かたまってるところに行こうね、きっとそこが村だから…おなかすいたし…」


「何か分けてもらえればいいんだけどなぁ」


 自分が異世界から来ただとかいう証はどうやって立てようか…そんなことを思いながら、俺達は眠りについた。


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