もしもあの人に出会っていなければ、わたしの孤独は凍てついた氷原に取り残されていただろう。
日が暮れて
家路につく頃になると、迷ってしまうのだ。
子どものころ
大嫌いだったふるさとの低い山があって、
なにが駄目って、
夕方になると、
道に迷って家に帰れなくなるのが、
怖かったのだ。
そんななか、黄昏色にそまった低い空から
カラスの鳴き声が聴こえてきたときは、
早く家に帰らなければと、
心ぼそくなってしまうのだ。
子どもの頃、わたしは、
どんな人でも震えてしまう
さみしい生き方をしていた。
小さな穴に潜んで、
人の歩く足の裏をジッと見つめる。
そんな生き方をしていたのだ。
それが寂しかった訳ではない。
私は、家族にさえ見離されても、
なんの悩みも抱かなかったから、ね。
孤りでない世界へ、ようこそと、
凍てついたひとりよがりなゴミのこころを
解凍してくれた暖かいまなざしで、
あの人はなぜかはわからないが、
わたしのことをあたたかく、かまってくれた。
その人の整ったキリリとした顔が
大好きだった。
人間は、愛されなければ、
けもののままなのに。
どんな深い海溝の底でも、
それは同じなのに。
恋するだけで、人間になれると
ハハハ、
勘違いしちゃった、よ。
あの人に、会えたから、
あの人の背中に
虹が、見えたから。
わたしとあの人がいだきあって
わたしの孤独が癒されている
バカみたいな幻が、
黄昏の夕焼け空に
映しだされている、
夢を見た。
どんな世界も
同じ暗さに向かう時代なのに、
黄昏呼ばれるわたしの名前は
なぜ、あの人の声は
あんなにあたたかかったのだろう。
虹の美しさは、わたしを弱くする、よ。
だれのことも、なにのことも、
好きでいないことが、できなくなる、よ。
たった孤りでいることが、
なんだか、
恥ずかしくなる、よ。
素直に、あいたい、って
思う、よ。
それで、いい、よね?
いまはもう、日が暮れて、
あの人こことを
「好き………」っていっても、
よくなったのだから。
日が暮れて
家路につく頃になると、迷ってしまっていた。
人生という名の、悲しみの路に。
子どもの頃、
わたしは死ぬまでなんの救いもない、
暗く寂しい人間なんだろうと
思っていた、よ。