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短編

作者: 八木九巳


 どうにもあいつは怪しい。

 会社の同僚をそんなふうに思い始めたのはつい最近のことである。

 出社の際は手提げカバンひとつだったのに、最近ではボストンバッグまで追加されてる。しかも肩が下がるくらいの重さだから、なかなか重量のある物が入ってるのだろう。

 本人はジム通いするようになったと言い付け加えるかのように、


「重りをつけて負荷をかけるトレーニングをしてるんだよ」


 と言った。

 そういうものかと思ってたある日、机の下に置かれたカバンから金髪が飛び出てるのを目撃してしまった。これについて問いただしてみた。


「なりたい人の格好をしてトレーニングをすると、効果が出やすいんだよ」

「へー、おまえは何になりたいの?」

「ぎをれをいrq3うぇr」

「は?」

「ギゴーゲン・ジェフェンリー」

「誰?」

「知らないんか? アニメのキャラクターだよ」

「マッチョなのか?」

「聞いてばっかりじゃなくて自分で調べてみ」


 仕事が終わり、家に帰る途中の電車内で調べてみた。そんな人物は存在しません、と出た。


「ハァ?」


 どういうことだ? 架空でも存在しないキャラの名前を言って、どうしてそこまでけむにまこうとするんだ?

 奴に対しての謎が深まるばかりだ。

 ただ、適当を言うってことは、あまり知られたくないのかもしれない。これ以上聞いたらいけない領域なのかもしれない。深入りしたら、自分自身も巻き込まれるかもしれん。その、架空のギゴーゲンとやらはどんな体型か知り得ないけど、なんとなくおんなじにはなりたくない。


「でも――」


 謎を謎にしておくのはしょうにあわない。しかも唯一の同期で今までの3年間苦楽を共にしてきた仲だ。言わば戦友みたいな奴が、業務が終わったあと何をしているのかめちゃくちゃ気になった。





 翌日。


「ギゴーゲンなんていないやないかい」


 多少不信感を露わにしながら言ってみた。奴は目を丸くした。


「マジで調べたんか」

「当たり前じゃん。気になるわ」

「いやー、参ったな……」

「ハッキリ何をしてるか言ってみな。大丈夫、うちらは3年の付き合いじゃん。多少のことじゃ引きやしないって」

「わかった。ここでは言えない。その代わり、仕事が終わったらついてきてくれないか」


 その日の終礼後、奴は帰り道とは反対の電車に乗った。そのまま3駅過ぎたところで降りると、雑居ビルの前に立ってこちらに向き直った。


「ここの1階で働いてる」

「へー、なんか喫茶店っぽい所だな」

「執事喫茶だ」

「ん?」

「執事喫茶」

「執事!? おまえ女なのに!?」

「女でも男装すれば働けるんだよ」


 働き方改革だかなんだかで、最近うちの会社は思うように残業ができなくなった。奴は夢のために残業を率先してやっていたのだが、規制で稼ぎが減ってネットで副業を探していたらしい。それで時給がよくて会社帰りにできそうだったのが執事喫茶だったわけだ。


「意味がわからない。オタク文化とか知らんよね?」


「いや、1週間前にアンタが貸してくれたBLCDを聴いてどっぷりハマっちゃった。赤川あかがわてる――声優名――最高」


 犯人は私だったか――! 頭が痛い。なんてことをしてしまったんだ私は。純粋無垢であろう同僚を沼の深い道へ誘ってしまうんだなんて。


「じゃあ、バッグに入ってたのは……」

「そう、男装用の衣装一式」

「ギゴーゲンって名前は?」

「それ、私の執事ネーム。研修中扱いだからサイトには出てないけどね」


 そりゃ、検索しても出んわ。


「ねえ、せっかくだからさ」

「え?」

「アンタも働いてみない?」

「いやー、愛想もクソもない私はムリっす」

「いやいや、目も細くて背も高くてショートカットのアンタなら、そのままでもいけるよ。さらしも巻かなくていいし」

「大胸筋は関係ないでしょ。ケンカ売ってんの?」

「とにかく、店長が人手を欲しがってるんだ。頼むよ」


 手を合わせて頭を下げてくる同僚。


「わかったよ。今日だけ格好だけはマネてあげるよ」

「本当? ありがとう!」


 手をガッシリ掴まれて上下に振り回される。そんなに私が執事向けだけと思うんかなこいつは。

 ところがこれがとんでもない選択だった。店長と合ってしまうことで、私の人生が一変するような出来事が起きてしまうのだ。




 でも、それはまた別の話。


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[良い点] ギコーなんちゃらだけ面白い [気になる点] 重りのくだりいる? [一言] これからに期待
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