第1話「Giant step」
axis
ax・is /ˈæksɪs/
【名詞】
(《複数形》 ax・es /‐siːz/)
1【可算名詞】 軸,軸線
人は皆、その心に信念を持っている。
それは時に、血を流すための剣となる。
…
「美澄ィー!また居眠りか!部活を頑張ってるのはわかるが、授業と両立出来ないようじゃまだまだだぞ!」
教室に担任教諭の怒号が響き、少年は目を醒ます。
「へい…すんません。」
寝ぼけ眼をこすり、少年はあくびをひとつ。
「それじゃあ美澄、この問題答えてみろ。」
「えっと…わかりません。」
「仕方ないな、美澄はもっとちゃんと勉強しろよ。それじゃあ解答は日向、答えてみろ。」
代わりに指名された、斜め後ろの席の少女が答える。
「はい、カッコに入る熟語は"vice versa"。文章の意味は『最大の防御は効果的な攻撃である、逆もまた然り。』になります。要するに、"攻撃は最大の防御"、ですね。」
「その通り!日向はよく勉強してるなぁ。美澄も見習うんだぞ。」
教室に笑い声が響き、バツの悪そうな少年。
「へい…」
少女は少年を一瞥し、軽く微笑んだ。
夜になり、部活を終え家路につく少年。
「はぁ〜、なんか今日は部活もうまくいかなかったわ…大会近いってのに…」
不意に少年の肩を叩く手。
「もしもし、美澄くん?」
少年が振り向くと、そこには斜め後ろの席の少女。
「あれ、日向さん?!なんで?!」
「なんでって…私も帰り道だけど。でも、美澄くんもこっちなのは初めて知った。」
少女は少年の荷物を一瞥する。
「剣道部大会近いんだよね?練習お疲れ様。」
「そ、そうか…あ、あ、ありがと…」
「せっかくだし、別れるまで一緒に帰ろ?」
「は…はい!よろこんで!」
並んで歩み出す二人。
「そういや、この時間ってことは日向さんも部活?…っても、他にこの時間までやってる部活ってあったっけ…?」
「私は生徒会。ほら、そろそろ文化祭の準備に手をつけ始める時期じゃない?だから、予算の関係とか色々あって。」
「そうなんだ。でもすげえな日向さん、生徒会バリバリやりながら成績もトップクラスだなんて。俺なんか部活一本で…」
「私は体力的に余裕があるから出来てるだけ。部活に打ち込んでる美澄くんこそ、私からしたらすごいと思うなぁ。それにまだ2年生だし、部活一本でいいんじゃない?そういう人の方が、引退後成績が伸びるって言うし。」
「そっかぁ…俺すごいのかぁ…」
「そうそう、もっと自信持って。…あ。」
「ん?」
「私の家はあっちだから、この公園でお別れかな。」
「そ、そっか!じゃまた学校で!」
手を振る少年と、それに微笑み返す少女。
「思えばしっかり話すのは初めてだったね、また帰りが一緒のときは話そ。」
いつも横目にしか見られなかった憧れの笑顔が、正面から少年に送られる。
「ぜ…ぜひ!よろこんで!そんじゃね!またね!」
「じゃあねー。」
別れる二人。
自宅のアパートを目前にし、少年はため息をつく。
「はぁ…一人の家路は寂しいぜ。っても、いつもはずっとそうだし、今日はあと2、3分だけど。」
突然けたたましく鳴る携帯。
「うぉっ、なんだ?!ん…緊急警報?"未確認の飛行物体が日本上空に複数飛来、ただちに安全な建物へ避難を"…?なんだそれ?!」
少年が見上げると、尾を引く流星のような物が、たしかに夜空にきらめいている。
その数は、十個強だろうか。
「あ、なんか綺麗…なんとか座流星群とかでありそう…」
再び鳴る携帯、今度は電話のようだ。
「もしもし凪斗?今どこ?お母さんさっき仕事終わったばっかりで…今家なの?そっちはどう?」
「そんなに慌てるなよおふくろ。もう家の目の前だし、テレビとかの指示に従うよ。連絡はするから、おふくろも気を付けろよ。」
「いや慌てるよ!心配で…とにかくお母さん早く帰るから、危ないことしちゃダメよ。じゃあね!」
電話が切れる。
「そうは言っても、ただ綺麗な流れ星にしか見えないんだよな…ま、とりあえずあと少しで家だし、さっさと帰ってテレビ点けよ。」
その時、飛行物体の一つが激しく閃いた。
「うわ、まぶしっ!…って、なんかこっち来てる?!」
そのまま飛行物体は、少年の視界の中でどんどん大きくなっていく。
「わ、わ、ちょい待ち!え、えっ…」
激しい光と共に、少年の後方へ物体は落ちていった。
「あ…ぶね…。…って、落ちたのか?!」
振り返った少年の目線の先、物体と同じ光がかすかにきらめいている。先ほど少女と別れたあたりだろうか。
「あそこ…かえで公園か?!もしかしたら日向さんまだ近くに…!」
気付いた少年は、一歩踏み出そうとする。
「あ、でも、事故なら警察とか消防とか…電話電話!こーゆーとき119だっけ110だっけ…」
立ち止まり、携帯を取り出す。
「えーっと、えーっと…待て、こうしてる間も、もし日向さんが危ない目に遭ってたらヤバいんじゃないの…?」
再び一歩踏み出そうとするが、脚が強張って動けない。
「でもなんかやべー感じするし…なんかの事件だったら俺も巻き込まれてただじゃ済まないかも…」
身体中が強張り、携帯を取落す。
「憧れの日向さんと初めてしゃべれたのに…」
「"攻撃は最大の防御"、ですね」
「もっと自信持って。」
「えぇーい!ここで止めたら男がすたる!」
一歩踏み出し、走り出した少年の目には迷いは無かった。
光の元は、やはり先ほどの公園だった。
園内に少女が倒れている。
「日向さん!やっぱり!大丈夫かよ!」
少年は駆け寄り、少女を抱え上げる。
「う…美澄く…どうして…」
薄く少女は目を開け、微かな声で応える。
「うわー良かった!なんか落ちたっしょさっき!大丈夫?怪我は?」
「落ち着いてよ…私は大丈夫だから…でも…」
「ん?」
少女のそばに、先ほどと似た光を放つ宝石のような物が二つ。大きさは手のひらにすっぽり収まるくらいだろうか。
「落ちたの…これだと思う。ベンチに座ってたら、目の前が光って、これがあった。」
次の瞬間、二つの宝石が宙を舞い、少年と少女の胸元へ飛び込んできた。
「わ、あぶね!うわああ…」
「ちょっと、何?!」
二人の視界が真っ暗になった。
目を開けると、宝石と似た光に包まれた空間に二人はいた。
「どこだ…ここ?」
「さっきの石は…?」
二人の胸元が、淡く光っている。
「え…もしかして俺らの体内に…?」
「どういうこと…?全然わからない…」
その時、どこからか無機質な声が響く。
「当選おめでとうございます!あなたたちは、"参加剣"を得られました!」
つづく
初投稿です。
まだ筆を執るにあたって右も左もわかりませんが、感想やご指導など、どんな些細なものでも是非お待ちしてます。