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無色の魔力を染め上げる-逃避の果てに見る未来-  作者: 浮谷柳太
第一章 生まれの地からの逃避
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第7話 新魔法

「……でよ、その時俺様が横から槍をぶち込んでとどめを刺したというわけだ!」

「はあ……」


 興奮した様子で語るヴァナヘルトにイオは曖昧な相槌を返す。

 セントレスタ皇国で初めて訪れた町アビタシオンの冒険者ギルドでなぜかAランクパーティーの冒険者に気に入られ、こうして話を聞くことになったイオなのだが、その内容は助言ではなくどちらかというと武勇伝だった。たしかに聞いていて実のある話ではあるが、イオとしてはもっと実益のある話を聞きたかったというのが本音である。

 そして彼らに対して思い違いが1つ。


「何言ってんのよ。その前に私の魔法で弱らせておいたおかげでしょ?イオちゃん、ヴァナの話を真に受けちゃだめよ。いっつも話を盛るんだから」

「……俺が、足止めしたおかげだ」


 ストッパー役だと勝手に思っていたシャーリーも、無口だったグロックもこの話題にはノリノリで乗ってきたことである。

 どうやらAランクパーティー「雷光の槍」のメンバーは全員冒険者の例にもれず自己顕示欲が強いらしい。先ほどからヴァナヘルトの語る武勇伝に対してシャーリーが反論し、グロックがぼそりと自分が影の功労者であると主張することの繰り返しである。そして意見を求められたイオが愛想笑いで無難な答えを返すのだ。居心地の悪さからイオは早くこの輪から抜け出したくて仕方がない。


 ちなみに今の話題は、彼らがAランクに昇格する決め手となった「デビルアイズウルフの討伐に複数パーティーで挑み、自分たちがとどめを刺した」ことについてである。デビルアイズウルフはAランクの魔物で、大勢で挑んだとしても討伐は難しい。それに各々が連携してとどめを刺したというのだから、やはり彼らのレベルはかなり高いことがうかがえる。


「わかってねえな。おいガキ、お前からも言ってやれ。お前ならわかるだろ?」

「いえ……皆さんがそれぞれ役割を全うして得た成果なら、全員の功績かと……」


 イオは遠慮がちに意見を述べる。格上の先輩に否定的な意見を述べるのはかなり勇気のいることだが、目の前に同じ先輩が2人もいるのだから結局イオはどちらかにつかなければならない。それならばとイオは全員を褒めることを選んだ。といってもそれはイオの本心でもあるのだが。


「イオちゃんは優しいね~。普通の子ならヴァナの勢いに押されて「ヴァナヘルトさんが最強です!」とか言っちゃうんだけど」

「……見所がある」


 シャーリーとグロックには好意的に受け取ってもらえたようだ。対してヴァナヘルトは鼻を鳴らして不満げに漏らす。


「俺様がそうやって乗せられて出た褒め言葉で喜ぶとでも思ってるのか?俺様は自慢ができたらそれでいいんだよ」


 そう言ってテーブルに置かれた果実水を飲む。酒場といっても昼間から酒を飲んでいるわけではない。そのような人はごく少数だ。

 この話題はこれで終わりなのか、シャーリーが話題の転換を図ってきた。


「今度はさ、イオちゃんの話を聞かせてよ。Cランクなんだからなにか面白い話とかあるでしょ?」


 突然矛先を向けられたイオ。ヴァナヘルトもグロックも興味ありげにしている。

 たしかにそれっぽい話ならある。つい先日のファングベア単独撃破の話だ。というかむしろこれまで堅実に依頼をこなしてきたイオにはその話しかない。

 だがイオには彼らのような自己顕示欲はない。むしろ悪目立ちは避けたいとすら思っている。それに3人の話の後に自慢気にこの話をすることは心情的に不可能だ。

 ならば特にないと言って逃げるか。それも不可能だろう。おそらく最年少であろうCランク冒険者が言っても説得力に欠けるし、期待を込めたまなざしを向けてくる3人の追及からは逃れられそうにない。


 軽くため息をつき、イオはできるでけ深く掘り下げられないように願って話し始めた。


「皆さんと比べると見劣りしますが、先日ファングベアを単独で討伐しました」


 それを聞いた3人の少なからず驚いた様子だった。


「ほう!なんだお前、チャレンジャーだな!」

「ちょっと笑い事じゃないじゃない。あの熊に1人で挑んだの?」

「……無謀なことを」


 やはりAランクから見てもCランクの魔物に1人で挑むのは危険らしい。ヴァナヘルトだけは面白そうに笑っているが、ほかの二人は心配そうにしている。


「言っておきますけど、好きでやったわけじゃありませんよ。たまたま1人でいるときに遭遇して、戦うことになったんです。倒せたのも運が良かったからです」


 これは言わねばなるまい。そうでなければイオは命知らずの戦闘狂のレッテルを押されてしまう。


「まあ俺様なら余裕で勝てるがな」


 そう言うヴァナヘルトに嘘を言っている様子はない。本心で勝てると思っているのだろう。もしかしたらもう単独の討伐経験があるのかもしれない。


 冒険者のランクと魔物のランクは釣り合っているように見えて釣り合っていない。同じランクの人間が数人集まってそのランクの魔物を倒せるという基準であって、決して1対1で戦えるというわけではないのだ。


 AランクのヴァナヘルトならCランクの魔物を1人で討伐できるだろう。だがそれ以上は無理だ。Bランク以上の魔物には複数人で挑まなければならない。Aランクともなるとそれでも全滅する恐れがある。

 例外はいるかどうかもわからないSランクの冒険者だけだ。


 とにかくAランクのヴァナヘルトからするとイオの話はあり得ないというわけではないのだろう。


「今はイオちゃんの話でしょ。ねえ、どうやって倒したの?その剣?それとも魔法?」


 シャーリーがイオの座る椅子に立てかけた剣を指さして言う。その剣とはもちろん新品のロングソードだ。


「どちらとも違います。剣はその戦闘で折れてしまって、これは新しく買ったものです。魔法に関しては俺は無属性なので、直接ダメージは与えられません」

「となると、無属性魔法で強化して、前に使っていた剣でとどめを刺したってこと?」

「はい」


 シャーリーと答え合わせをしていると、突然グロックが声をかけてきた。


「……お前、無属性か?」

「?はい、そうです」


 イオが顔に疑問を浮かべていると、ヴァナヘルトが説明してくれた。


「こいつも無属性なんだよ。だから興味を持ったんじゃねえのか?」

「ああ……」


 納得したイオだがよく考えるとこれはすごいことだと気づいた。戦闘では上に行くほど埋もれていく無属性使いがAランクパーティーを影で支えているのだ。先の自慢話の中でも彼のおかげで救われた場面は少なくないという話だった。

 ちなみにグロックは積極的に会話に参加しなかったので、彼が無属性ということをイオは知らなかった。


「無属性ってすごいよね。粘り強くて、こう、縁の下の力持ちって感じ」


 シャーリーもこう言っている。


 イオはグロックがどのようにして今の立場を築いたのか無性に気になった。話から彼が盾役ということは分かっている。全身に鎧を着こんでいることからも容易に判断できる。

 ならば彼はどのようにしてここまで登りつめたのか。この用途の限られる魔法をどのように活用しているのか。ほとんどすべてを独学で学んだイオはぜひ知りたいと思った。

 それはイオの将来に直接かかわってくる。イオはグロックと違って体が細い。鍛えていないというわけではなく、そもそもの体の大きさが盾役として圧倒的に向いていないのだ。このままではイオはいずれ行き詰ってしまう。ランクもC止まりだろう。

 それを打開するためにイオは意を決してグロックに尋ねてみた。


「グロックさん、無属性使いとしてどうすれば強くなれますか?グロックさんはどうやってそこまでたどり着いたんですか?」


 下手な質問の仕方だ。イオはそう思った。

「どうすれば強くなれるか」など誰もが知りたいに決まっているし、これは甘えともとれる。どうすれば楽に強くなれるか。そうとられてもおかしくはない。

 これに対してグロックはどう答えるか。

 ひたすら体を鍛えろというだろうか。彼の体は鎧越しにもよく鍛えられているのがわかるし、体の大きさはパーティーの中で1番だ。盾役として、身体強化が売りの無属性として、強靭な肉体は必須だろう。ならば体格の差に文句を垂れず、体を鍛えろと言われてもおかしくはない。

 はたまた攻めを覚えろというだろうか。盾として役に立たないなら、いっそのこと攻めに特化したほうがいいのだろう。魔物を相手に限るなら近接戦しかできなくてもそれほど問題はない。相性をよく見て討伐対象を選べばいいだけなのだから。相性が悪ければ逃げればいい。それくらいは無属性に限らずだれもがやっていることだ。身体強化を利用した攻めを極めれば上に昇るのも不可能ではないだろう。


 グロックがどう答えるか待ち構えていたイオだったが、返って来た答えはどれでもなかった。


「……サポートに徹する」


 あまりに予想外だったため、イオは一拍反応が遅れた。そして確認するようにおうむ返しをする。


「サポートに徹する、ですか?」

「……そうだ」


 ありえないとわかっていたが聞き間違いではないらしい。グロックはそう言ったきり何も言わなかった。

 イオが困惑しているとシャーリーが助け舟を出してくれた。


「グロック、それじゃ全然わからないよ。もっと詳しく教えてあげないと」

「……十分わかりやすい」


 グロックはこの言葉で十分わかりやすいという。ならばとイオはもっと具体的に聞いてみることにした。


「それは盾役に徹して攻撃はあまりしないということですか?」

「……そうだ。が、それだけではない」


 またも意を解せない答えが返ってきた。再び困惑したイオを助けたのはヴァナヘルトだった。


「戦闘以外にもってことだよ、ガキ」

「戦闘……以外ですか?」

「ああ、グロックはうちの盾役であると同時に斥候でもあるんだ」

「えっ……」


 これにはイオも驚いた。斥候の仕事は主に身軽さを生かして周囲の敵を探ることである。他にも野営地の確保などパーティーの活動を全体的に支援する役目であって、戦闘にはあまり参加しない。その斥候の役割をグロックが担っていて、さらに盾役も兼ねているというのだからイオの驚きも当然だろう。


「それは斥候として訓練したってことですか?」


 イオは重ねて尋ねる。

 たしかに戦闘だけが冒険者ではない。戦闘以外の諸々の面倒を引き受けられるなら、その分貴重な人材となれるだろう。

 そしてイオはさらに衝撃の事実を聞くこととなる。


「……お前は無属性のことを何も知らない」

「無属性の、ですか?」

「……ああ」


 一度言葉を区切って、グロックは珍しく長くしゃべった。


「……無属性魔法は自分の体に魔力を通わせて様々な付与効果を得る魔法だ。身体能力を強化できるなら、なぜ感覚も強化できないといえる?」

「!!」


 イオは今までの常識が崩れ去るのを感じた。

 たしかにそうだ。無属性魔法の性質上、体のもっと局所的な部分、それこそ身体能力などといった大雑把なものではなく五感なんかの強化もできないはずがない。

 火や水などといった生活で役立つものを生み出すこともできず、風の刃を発生させて遠くの敵を攻撃することや土の壁を作って攻撃を防ぐこともできない、明らかに劣った無属性。身体能力を強化してもそれほどばかげた力が出せるわけでもなく、ただ粘り強くなるだけの無属性魔法。魔物を倒すために必要な攻撃力が欠けているために、無属性は一部を除いて不遇な扱いを受けていた。

 しかしグロックはその状況を別の視点から着目したのである。戦闘で後れを取るならそれ以外で役に立てばいい、と。


 イオがこの考えに至ったとわかったグロックはにやりと笑って告げた。


「……感覚強化。この国で数年前に新しく発見された魔法だ」


 新しい魔法。イオが聞いたことのないその魔法は、その名前の通り視力や聴力を強化する魔法である。

 戦闘には直接影響しない。しかし偵察や魔物などの危険の察知にはもってこいであり、パーティーの生存率を上げることにもつながる。

 この魔法が発見されたことでセントレスタ皇国では少しずつ無属性に対する考え方が変わりつつある。実際に国が無属性の兵士を偵察部隊に組み入れようという話もあるらしい。

 冒険者にも無属性使いの待遇が以前よりも幾分マシになったという。といっても依然として強力な攻撃魔法を使えることで無属性を見下す人間はいまだに多いのだが。


 これらのことをヴァナヘルト、シャーリーを交えて語ったグロックは最後に締めくくるようにこう言った。


「……まだ無属性には知られていないこともある。お前に合ったスタイルを見つけることもできるだろう」


 最初に話を聞き始めた時の予想と違って有用な情報を教えてくれた彼らに対して、イオは心からの感謝を告げたのだった。

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