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第64話 覚悟と決断

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ありがとうございます!

 最初に口を開いたのはロナルテッドだった。


「1人で? 何を馬鹿なことを。先ほど自分で言ったことを忘れたか」


 アルバートの出した結論は、パーティーを解散した上でエイデン男爵家に借りを作らず依頼を完遂するというもの。つまりは誰の手も借りずに1人でAランク級の魔物を倒すということだ。

 Aランクの魔物を倒す際には、通常同じAランクの冒険者が最低でも10人以上いることが推奨されている。そこまでやって何とか被害を抑えて勝つことができるのだ。アルバートの実力は確実にAランクに迫るものなのだが、どう考えても勝算があるとは思えない。


「仲間に迷惑をかけるのは絶対に許されない。だけど、もうあなたの言いなりになるのは御免だ!」


 アルバートは立ち上がり強く言い放った。それは相手が貴族ということも父親であるということも辞さない強い態度だ。

 それを聞くイオたちはこの2人の間にどのようなことがあったのか詳しくは聞いていない。聞いたのはアルバートが貴族であり騎士だったということと、そこに居続けるのが嫌になり逃げだしたということのみ。それ以上は教えてくれなかったのだ。


 アルバートの言動は通常なら不敬と取られ即刻処分されるようなものだろう。しかしそこは認めておらずとも親子だからか。その態度を咎めるようなことはせずに、ロナルテッドは闘志を燃やすアルバートに挑発的に問いかける。


「何が悪い? 私の言う通りにしていれば出世できるのだぞ?」

「他を蹴落として得た地位が何になる! そんなものはまやかしだ!」


 過去に何があったのか、親子はイオたちには分からない話をしている。ただ、聞く限りではロナルテッドが提示したやり方がアルバートにとって我慢ならないものであったということは理解できる。


「綺麗ごとだけでやっていけるほど世の中は甘くない。現にお前の甘さがこの状況を作り出しているのだ」

「ああ、俺は甘かった。それは認める。俺のせいでこんなことに巻き込んだ皆には本当に申し訳が立たない。だからこそここですべて変えてやる。過去の自分にも、あなたとの関係も、全部全部変えてやる!」

「馬鹿息子めが……!」


 ここで初めてロナルテッドがアルバートのことを息子と呼んだ。このやり取りもどことなく反発する子供とそれを叱る親とのやり取りのようなものに変わっている。

 アルバートの意志は固く、曲げられないものだということを悟ったのだろう。父親は開き直ったようにふんぞり返って、怒り冷めやらぬままに言い放つ。


「ならばやってみるがいい。のたれ死んだところで私は一切構わん!」

「それでいい。すべて俺の責任だ」

「お前が死んだ場合は誰が責任をとる? 違約金は誰が支払う?」

「先に渡しておく。これで十分足りるはずだ」


 そう言ってアルバートは懐から魔石を2個取り出して目の前のテーブルの上に置いた。魔石を2個ともなると優に金貨50枚は超えるので、違約金の先払いとしては釣りが出るほどだろう。


「確かに受け取った。それともちろん剣はエイデン家に返してもらうぞ」

「好きにしてくれ」

「あと何個魔石を持っているかは知らんが……剣まで失って戦いになるのか?」

「あなたの気にすることではない。あなたはただ俺が虎の首を狩ってくるのを待っていればいい」

「ふん、その強気がどこから出てくるのやら……。報酬はギルドに提示した通り、金貨70枚だ」

「分かった」


 こうしてあっという間に2人の間で条件が決まってしまい、イオにカナリア、ルーはそれを唖然と見ていることしかできなかった。

 ロナルテッドは自分の子供と話すようについ素で話していたことに思い至り決まり悪そうに咳払いをした後、態度を元に戻して他の3人に話しかけた。


「聞いていた通りだ。パーティーは解散。先に出した条件も守ろう」


 この条件とはパーティーを抜ければエイデン男爵が直々にカナリアとルーの2人に依頼を出し、その働きぶりをギルドに報告することで昇格の手助けをするというものだ。イオについては無属性であるということを広めないという少し違った条件になるのだが、これはロナルテッドの無属性への強い偏見を考えれば仕方のないことなのかもしれない。


 ロナルテッドにとってはもう話は終わりだったのだろう。望んだ結果とは異なるものだったが、ここまで言ってしまえば今更条件を反故にはできない。胸にモヤモヤを感じながら兵士に命じてイオたちの退出を促そうとする。

 しかしこの場には納得のいっていない人間がまだ残っていた。しかもその人物は思ったことを感情の赴くままに言葉に出してしまうという悪癖を持っている。


「私は解散なんて嫌!」


 その言葉に部屋中の空気が静まり返った。ほんの少し前までロナルテッドの発する圧力に屈して体を縮こまらせていたとは思えないほど明瞭な声で、カナリアははっきりと叫んだのだった。


「皆して抜けるとか解散するとか、私たちの繋がりはそんな細いものだったの!?」

「カナリア!」


 貴族である父親の前であるということを気にしてアルバートが鋭く叱りつけた。

 カナリアの脳裏に浮かぶのはルピニスでのイオとのやり取りである。あの時もいつイオがパーティーを抜けると言い出すのかびくびくしていたものだった。それなのにアルバートまで勝手に解散するなどと言い出したのを受けて、彼女は我慢ならなくなったのだ。


「カナリア、本当にごめん。でも、こうするしかないんだ。皆を俺の罪に巻き込むわけには……」

「だから! それは仲間なら一緒に背負うものでしょ!? 勝手に決めないでよ!」


 極度のストレスにさらされ続けたせいか、カナリアはかなり錯乱気味だった。一度口を開いてしまったがために次から次へと言葉が溢れ出してくるのだろう。アルバート以外で彼女を止めようと行動に移す者はいない。

 暴走したカナリアはさらにとんでもない発言をし始めた。


「私も行く!」

「え?」

「私もヘルフレアタイガーとやらの討伐に行くって言ってんのよ!」

「は!?」


 今度こそアルバートも驚愕して返す言葉もなくしてしまう。彼女の無鉄砲な発言はこれまで何度かあったが、これはその中でも群を抜いて考え無しな言葉だった。

 するとそんなアルバートを追い詰めるように、カナリアに追従する声が上がった。


「カナリアちゃんが行くなら、私も行きます」

「ルーまで……」

「私はアルバートさんに借金がありますから。それを返さずに別れるなんていうことはありえません」


 ルーの決意は固いようだった。カナリアと違って落ち着いている分そのことがよく分かる。

 アルバートの問題に2人が突っ込んできて、討伐について行くというおかしな雰囲気になり始めてきた。収拾がつかなくなる前に何とか説得しようとしたアルバートだったが、そこで口を挟んだのはロナルテッドだった。彼は場数を踏んだ大人ということもあって的確に駄目な箇所を突いてくる


「残念ながらこの依頼の難易度はBランク。Dランクの君たちが受けることはそもそも不可能だ」

「Bランク……ですか?」

「そうだ。変異種だが、ぎりぎりBランクの依頼ということになっている。とはいっても、ほとんどAランクとみて間違いはないだろうがね」


 ルーの問いかけにロナルテッドは依頼について噛み砕いて答えてやった。

 そもそもアルバートが受けられる依頼の上限もBランクなため、この依頼はアルバートが受けられる中で一番難易度が高いものということになるのだろう。つまりランクで出遅れているカナリアとルーには受けることができないということなのだ。

 この説明でルーは無理を悟ったのか引き下がる姿勢を見せる。しかし、それでもカナリアは止まらない。


「別にいいわ。勝手について行くもの」

「なっ!?」


 落ち着きを取り戻したのか、穏やかな声で彼女はそう告げる。これにはロナルテッドも正気を疑うような目を向けた。

 そしてまた圧力をかけて、覚悟を問うように低く重い声で問う。


「パーティーを解散する気はない、と?」

「はい」

「昇格できるんだぞ?」

「それでも、皆といる方が大切なんです」

「死ぬかもしれんし、失敗した時には牢屋行きだと言っても?」

「一緒に行きます」


 なんと見上げた根性か、カナリアはその重みに耐えきって一度もロナルテッドから目を離さなかった。それだけ彼女の覚悟は強いものだったのだ。

 パーティーを解散するにしろ抜けるにしろ、自分から申請をしなくてはならない。そのためいくらロナルテッドが脅したとしても本人が動かなければそれは成されないのだ。


 軽率なところはあるかもしれない。まだ自制心を身に付けられてもいない。

 それでもかつて柄の悪い冒険者に絡まれた時にルーを守りたいと思ったように、「不死鳥(フェニックス)の翼」を、自分たちの居場所を守りたいとカナリアは心から思った。その覚悟が、自覚が、今この瞬間にも彼女の内面の成長を大きく促しているのだ。


 それを感じ取ったのだろう。ますます思い通りとはいかずにロナルテッドは忌々しげにぼやく。


「やはり冒険者というものは馬鹿だ。私には一向に理解できん。それで、君はどうなのかね?」


 そう言って水を向けられたのはルーだった。しかしそのおざなりな問い方から察するに、もう彼はその答えを予想していたのだろう。


「私も行きます」

「後悔はないのだな?」

「はい」


 やはり予想通りだったのか、ロナルテッドは大きくため息をついた。

 初めは面白いほど自分に怯えていて、話の主導権を握り続けることができていたのにどうしてこうなった、と彼は思う。あまりにも愚かすぎて逆に心配の声をかけてしまうほどペースが乱されているのだ。

 こうなった要因はやはりアルバートなのだろう。その答えを聞いた直後、他人行儀で冷徹な態度に徹しようとしていた自分の意志を乱された。悪魔の皮を被り続けられず一瞬でも親の顔を出してしまった。そのことに彼は自分の未熟さを感じずにはいられない。


「で、君は?」


 さらに適当になりながらも最後にイオに向かって問いかけた。だが、今度はロナルテッドにはこの無属性の少年がどう答えるのか予想がつかない。

 情に捉われて命を投げ出すのか、この流れで仲間を裏切るのか。ある意味、一番興味深い瞬間でもあった。


「俺は……」


 迷っているのが手に取るようにわかる。目は不自然に泳ぎまわり、両の手を何度もせわしなく組み直している。

 集団の心理というものは案外馬鹿にはできない。自分だけ違う選択をするというのにはかなりの勇気が必要となるのだ。だからこそイオの心がどちらに傾いているのか分かり始めてくる。ここで「ついて行く」と言うのなら迷うはずがないのだから。


「……俺は、」


 イオがもう一度紡ぎ直す。その葛藤は凄まじいものだろう。

 しかし誰がイオを責めることができるだろうか。彼に出された条件は他の2人とは比べようもないのである。昇格が自分の努力でできることである一方、一度無属性だということを広められてしまえばそこで彼の平穏な人生は終わってしまうのだ。

 加えて無属性のイオは討伐に向かったとしても、攻撃手段が近寄って剣で切る以外にないため死亡率がかなり高い。魔物のランクが上がるにつれて魔法の重要性が増してくることもあるため、無属性ではひとたまりもない。


「……イオ」

「イオさん……」


 アルバートとルーの心配そうな声はどっちを求めての言葉か。ついて来てほしいのか、ほしくないのか。それが明言されることはなかった。

 カナリアはただじっとその答えを待っている。どちらを選んだとしても受け入れる姿勢をとっているのだ。


「……ついて、」


 葛藤の末に、答えが絞り出される。


「行か、ない」


 イオがそう口にした途端、場の空気が弛緩した。それは果たして安堵のためか、落胆のためか。ただ、真っ先にイオに話しかけたロナルテッドは大いに満足そうだった。


「そうかそうか。君はどうやら頭はマシなようだね。賢い選択だと思うよ、私は」


 そう言われたところで当然慰めになるはずもなく、イオはうつむいてそれ以上何も言わなかった。

 その様子もロナルテッドを満足させるものだったのだろう。すっかり元のペースを取り戻した彼は場を切り上げるように手を叩いた。


「そうと決まればさっそく動いてもらおうか。ヘルフレアタイガーの居場所はこの町の南にある高原の麓だ。おそらく歩いて2日ほどだろう」


 その後彼らは必要な情報を何個かやり取りして領主の館を去った。その間イオが他の3人と正面から顔を合わせることは一切なく、会話もほとんどなくなるのだった。

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