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第55話 コボルトの討伐

 鉱山都市ルピニスでは日が暮れても街全体が静まりかえることはない。

 昼間に比べるとましではあるがそれなりに耳障りな喧騒に包まれてイオたちは通りを歩く。


 無事に魔道具を買うことができたルーの表情には満足さと申し訳なさが同時に浮かんでいた。

 前者はもちろん自分に合った魔道具を買うことができたことについてである。初めは魔道具を買うこと自体に遠慮気味だったルーだが、今上着の内ポケットに収められている「飛沫(しぶき)の鞭」の効果を見た瞬間にこれしかないと感じ、ほぼ衝動的に購入を決定してしまった。

 自分の適性や連携を考えてもこれが間違っているとは思えず、ルーはこれ以上ないくらいにやる気に満ち溢れていた。

 一方でその代金のほとんどすべてをアルバートとイオに肩代わりしてもらったということには申し訳なさを感じてやまない。

 この鞭の金額は金貨2枚とルーには手の出しようがない大金だったが、イオの口添えとコニーテの善意によってこれでもかなり安くしてもらっているのだ。

 その安くなった金額でさえもルーには払うことができず、クイーンホーネット討伐で報酬を受け取ったアルバートとイオから借りることになった。現在ルーは2人に対して多額の借金を抱えているのだ。

 正式な借用書などは作っていないため返済の期日などはなく、たとえ返せなくても借金奴隷として売られるようなことはないのだが、それでもルーは自分の負った責任に途方もない圧力を受けていた。


 ルーが1人プレッシャーを感じていると、ふいにアルバートが他の3人に向けて声をかけた。


「……明日は無理にでも依頼を受けようか」


 すでに2日連続で4人は冒険者としての活動を停止している。金銭的な意味でも腕をなまらせないためにもそろそろ元の生活に戻る必要がある。

 特に借金を抱えているルーはアルバートに向かって強く頷き返すのだった。






 ♢ ♢ ♢






 一晩明けて翌日の朝。

 前日に言った通り、イオたちは依頼を受けるために冒険者ギルドにやってきていた。

 相変わらず同じように依頼を受けようとする冒険者たちであふれている中、アルバートが1枚の依頼表をとってきてイオたちに告げた。


「コボルトの討伐。これにしよう」


 コボルトは二足歩行の犬顔の魔物で単体の強さはEランクと低い。しかし同ランクの多くの魔物と同じように群れで行動するため依頼の難易度はDランクだった。

 とは言っても同じDランクのグレイウルフよりはやや難易度は低いと言われている。


 体表の堅い魔物の討伐依頼が多いこの街ではイオたちが不利にならない貴重な依頼なので、他の3人もそれを受けることに賛成する。

 依頼を受理してイオたちはコボルトがいる鉱山の麓へと向かった。


 道中でアルバートがルーに尋ねる。


「ルー、この依頼で魔道具を使うかい?」

「はい、やれそうです」


 そう答えるルーの表情には自信がうかがえた。

 昨晩宿の中で魔力を流して使い方を確かめていたルーだが当然これが初めての実践となる。安全性を重視したアルバートはルーを含めた全員に作戦を話す。


「最初はいつも通りで行こう。俺が前に出て数を減らす。ルーはコボルトが残り2体まで減ったら魔道具を使ってくれ」

「了解」

「はい」


 そうして進むうちに4人は麓までたどり着いた。

 坑道とは離れた場所であるため鉱山の麓と言っても人の影はない。ごつごつとした岩が転がるなだらかな斜面に立ち、イオが索敵を開始する。


 耳は風に乗ってやってくるかすかな音も逃さず、また目は遠くのわずかな変化も見落とさない。

 草木がまばらにしか生えないこの地形ではそのような変化を生み出す要因はほとんどなく、その存在はあっさりとイオによって捉えられた。


「あっちだ」


 石と石がぶつかるような高い音を立て続けに聞いたイオはこれをコボルトが持つ石の武器であると判断した。

 コボルトはゴブリンやリザードと同じく武器を持って戦う魔物である。武器は場所によって様々であるが、ここでは石を木の枝に括り付けたものがよく使われるということは事前の調査で確認済みである。


 もはやそれが本当かどうか確認さえせずイオの後を付いて行く3人。彼らはイオの「感覚強化」を信頼しきっていた。

 そしてその信頼に違わずイオは犬が鳴くような声を聞いてその居場所を完全に特定した。

 見据える先にあるのは斜面に突き出した巨大な岩の下。雨風にさらされ風化してできた浅い洞穴の中に標的はいた。


「あの尖った岩が見えるか」

「えっと、あれかい?」


 イオの指差す方向を見てアルバートは目を細める。

 視力を強化したイオと常人のアルバートでは見える景色がまったく違う。


「そうだ。あの下にコボルトがいる。おそらくあそこが巣だろう」

「さすがイオね。もう見つけるなんて」


 カナリアがイオを称賛する。初めはイオに対して嫌悪的だったカナリアだが、敵を探ることにおいてイオが多大な貢献をしていることを認めている。

 そこには一人の冒険者としての尊敬が込められていた。

 イオは気にせず淡々と続ける。


「今はまだ気づかれていないが風向きが変われば臭いで気づかれる。奇襲をするなら今だろう」

「そうだね。数はどれくらい?」

「固まられているから分からないが、おそらく10匹くらいだ」


 それは多いようにも思われるがコボルトでは一般的な数である。これがグレイウルフなら一時撤退を考えなければならないが、足が遅く動きが単調なコボルトなら十分対処できる。


「……よし、俺とイオで先行するから2人は後ろから付いてきてくれ」


 アルバートが指示を出し、3人がそれに頷く。

 毎回のようにこうして有利な状況を生み出せるのはイオによって敵の詳しい状態を事前に知ることができるからだ。このパーティーにおいてイオたちが後手に回るようなことはほとんどない。


「行くぞ!」


 掛け声とともに隠れていた岩場から飛び出した。

 前衛であるアルバートとイオが全力で駆けコボルトの巣へと向かう。遅れながらカナリアとルーもその後を付いて行く。


 さすがに足音などで気づいたのだろう。コボルトが数匹慌てて巣から飛び出しけたたましく喚いている。

 イオたちはコボルトに体勢を整えさせないためにさらに速度を上げた。


「行け、『風矢(ウィンドアロー)』!」


 イオの後ろでカナリアから魔法が放たれた。

 走りながら撃たれたそれらはさすがに狙いをつけるまでには至っていないが、突然の攻撃にコボルトたちは目に見えて動揺していた。

 そうするうちにイオとアルバートは彼我の距離を詰め、それぞれ最初の1体に切りかかった。


「ギャイン!」

「まず一匹!」


 アルバートの剣はコボルトを肩から斜めに切り裂き血飛沫を上げる。その切れ味、そして使い手の鋭い剣捌きにコボルトは為すすべもなく崩れ落ちた。

 仲間の凄惨な死に様はコボルトたちにさらなる動揺を広げていく。


 一方でイオも前衛としての役割を果たしわたわたと巣穴から出てきたコボルトの中に切り込んでいった。

 奇襲を成功させたことによってコボルトたちはまだイオたちに対応しきれておらず、剣技でアルバートに劣るイオでも余裕で倒すことができた。

 左手に持った剣を下から降り抜き、「身体強化」を使った足で蹴りを放つ。時折反撃されそうになっても「身体硬化」を付与した右腕で雑な作りの石鎚を受け止めて防御し、わずかに負った切り傷も「回復促進」で治療する。

 先天的な身体能力に差がなければ無属性のイオでもここまで戦えるのだ。


「『風刃(ウィンドカッター)』!」


 そして追いついたカナリアも2人の後ろから魔法で援護をしている。

 初めは使い慣れていなかった「風刃」だが、今ではカナリアにとって最も慣れ親しんだ魔法と言える。さすがにシャーリーやティグレのように複数本を同時に放つことはできないが、正確な狙いで一体ずつ堅実に仕留めている。


 そのカナリアの守りを担うルーは、奇襲がうまくいっていることもあっていまだに出番がない。

 しかしだからといって決して退屈しているわけではない。鞭を使った初めての実戦に向けて精神を集中させているのだ。

 今も彼女は「飛沫の鞭」のグリップを強く握って戦闘から目を離さない。


 戦闘はイオたちに有利なまま進みコボルトの死体が次々とできていく。

 やがて、残りが2体となったところでアルバートがルーに向かって叫んだ。


「ルー! いけ!」

「はい!」


 ルーは鞭に魔力を流し込んだ。すると澄んだ水色のボディが先端から伸び、鞭としての形状を形作っていく。

 カナリアの隣に立っていたルーはその場から一歩進んで腕を肩に担ぎ、勢いをつけて思い切り振り降ろした。


「はあぁぁ!」


 掛け声とともに放たれた鞭はグリップから先端へと順にその力を伝えていき、空気を切り裂きながら真っ直ぐコボルトのへと向かっていった。本来ならその距離は鞭の間合いとは言えないのだが、この瞬間も魔力を流し続けることで鞭は先端からぐんぐんと伸びて飛距離を伸ばしている。

 狙われたコボルトも疲弊しているのだろう。自分へと向かって来る鞭を目の当たりにしても腕で庇う程度の行動しかとれなかった。


 バチィィン!

「キャイィィン!?」


 悲鳴と共にコボルトは倒れ伏す。

 鞭はその名の通り直撃と共に水飛沫をまき散らし、手首を返した持ち主の元へと帰っていった。そしてルーは再び振りかぶってもう一体のコボルトの方へと2発目を放つ。


「ギャゥン!」


 空気を裂く甲高い音を響かせながらこちらも過たず直撃。水飛沫の中コボルトは地面に倒れた。

 一連の流れはたった十数秒にも満たない短い間に起こった出来事である。

 これまで攻撃について悩んでいたあのルーが一瞬で2体のコボルトを倒してしまったことにイオたちは驚きを隠せないでいた。

 ルーはほうと息をついて自分を見つめるアルバートにおずおずと語り掛けた。


「あの……どうでしたか……?」

「あ、ああ。すごく驚いた」


 問われたアルバートはハッとして思考を取り戻し素直に心情を述べた。

 ルーが倒したコボルトに目を向けてみると、鞭で打たれた箇所は裂けて血が流れていた。ルーの鞭の一撃がどれほど鋭いものだったかがそこから分かる。

 純粋な魔力でできた鞭は魔法的な効果も付与されており通常のものとは全く別物であるのだが、それを加味してもルーの腕前には舌を巻かずにはいられない。

 アルバートがそう感じていると、イオが驚きを感じさせない落ち着いた声で言った。


「殺しておくぞ」


 そして返事を待たずにルーによって倒されたコボルトに剣を突き立てていった。鞭という武器の特性上それだけで相手を殺しきることは難しい。

 イオの行動を余所にカナリアはルーに向かって抱き着いた。


「すごいじゃない、ルー!」

「わっ、カナリアちゃんありがとう」


 こうして一時課題となっていたルーの戦力強化は、予想外ながらも魔道具によって解決の目処が立ったのだった。

なんだかできすぎな気もしますね。

あと書いてて動物虐待しているようにしか見えなかった……


それはそれとして総合PV10,000達成しました! 読んでくださった方には感謝です!

これからもよろしくお願いします。

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