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第25話 結成

「そろそろ冒険者に復帰しようと思う」


 イオがそう言ったのは例の如く仕事を終え、ギルド内でアルバート達と落ち合った時だった。


「もう怪我はいいのかい?」

「ああ。万全ではないけどこれ以上ギルドマスターの世話になるのはな」


 アルバートの問いにイオはそう答えた。


 かれこれ3カ月以上クメに仕事をもらい続けている。体面的にもイオの心情的にもこれ以上は限界だった。


「ギルドマスターにはもう伝えてある」

「そうか。じゃあ、やっと本格的に活動できるんだね」


 アルバートは嬉しそうにそう言った。


 パーティーを組む約束をしてからおよそ4カ月。やむをえない事情があったとはいえ、その間ずっと待っていたアルバート達は本当に待ちくたびれたことだろう。


 だからそんなアルバートにこう言わなければならないことがイオには心苦しかった。


「そのことなんだが、できれば最初はリハビリということで依頼は簡単なものにしてほしい。ゴブリンとか」


 ハルディンに教えを請い、冒険者として成長したであろう3人にとっては今更な難易度だろう。

 しかし、連携を確認する意味でもこれが必要なことだとイオは思っている。


 ところが案の定、カナリアは難色を示した。


「今更? 私たちならもっと上の依頼でも行けるわよ」


 いつもはあまりイオと言葉を交わすことのないカナリアだったが、この時はつい反射的に反論してしまったようだった。言った後でイオとアルバートの会話に割り込んでしまったことに気づき、はっとした顔をする。


 だがアルバートはそのことを気にせず彼女に語り掛ける。


「俺は賛成だよ。なんたってパーティーとして初めての依頼なんだからね。失敗は考えたくないな」

「私もアルバートさんに賛成です」


 ルーもイオの提案に賛成を示す。

 多数決で負けたカナリアは渋々頷いた。


「……分かったわよ」


 方針が決まったところでイオがアルバートに別の質問をする。


「ハルディンさんはいいのか?」


 カルボのパーティーメンバーであり、先輩として3人の指導役を買っていた男についてイオは尋ねる。彼にも意見を聞く必要があると考えていたイオだったが、その心配は杞憂に終わった。


「うん、もう基本的なことは教え終えたから、イオが戻り次第好きにしたらいいってさ」

「そうか。ならいい」

「いつにする?」


 今度はアルバートがイオに尋ねる。


「俺はもう明日からでも行けるから、そっちの都合に合わせる」

「うーん……明日はさすがに急だしな……。明後日はどうかな、2人とも?」


 アルバートはカナリアとルーの方に顔を向けて確認する。


「いいわよ」

「私も大丈夫です」

「じゃあ、明日は準備期間にして、明後日に初依頼といこうか。それでいい?」


 最後にイオに問いかける。問題はなかったのでイオも頷いた。


「ああ」


 アルバートも満足げに頷いた。そして早速とばかりに言う。


「ということで今からパーティーの申請を出そうと思うんだけど。そのことについて話し合おう」


 4人の話し合いは第2ラウンドへともつれこんだ。



 ♢ ♢ ♢



 パーティーの申請をするときに用紙に記入しなければならないことは主に5つ。


 1、パーティー名

 2、パーティーリーダー

 3、サブリーダー

 4、その他のメンバー

 5、メンバーの武器、属性など


 1、2、4は改めて説明する必要もないだろう。


 3については、もしもの時の代役だ。

 仮にリーダーが依頼中に死ぬようなことがあった場合、サブリーダーがリーダーになってパーティーをまとめなければならない。

 これはリーダーがいなくなったためにパーティー内が混乱に陥ることを防ぐと同時に、ギルド側に対する責任者が不在になるようなことがないようにする目的がある。

 とはいってもリーダーさえいれば特に仕事はない。


 5については、どのくらい詳しく記入するかは任意である。最悪白紙でもいい。

 ただ、これを書いておくことでそのパーティーに合った依頼をギルドが紹介してくれることがあるのだ。よほどのことがない限りほとんどの冒険者は記入している。


「とりあえずはっきりしているものから決めていこう」


 冒険者ギルドに併設されている酒場の席に座ったアルバートは、同じく席についているイオ、カナリア、ルーを見渡して言った。


「武器と属性は記入する方向でいこうと思っているんだけど、それでいい?」


 異論はないようで全員首を縦に振って同意する。


「次にパーティーリーダーだけど——」

「アルバートね」


 次の議題に入りかけたところでカナリアが即答する。当然とばかりのカナリアの様子にアルバートは苦笑した。


「うん、自分で言うのもなんだけどそれが合理的だと思う」


 イオも同じ意見である。この中で人をまとめる才能と言えばアルバートが抜きんでている。加えてこのパーティーはアルバートの誘いによって結成されたのだ。メンバー内での交友関係で見てもアルバートがリーダーになるのが一番だ。


「俺もそう思う」

「私もです」

「じゃあ満場一致ということで、未熟者ながらリーダーに就任させていただきます。これからよろしく」


 片手を胸に置き仰々しく頭を下げるアルバートを3人は拍手で祝った。その振る舞いはやはり洗練されている。


 気を取り直してアルバートは話を進める。


「それからサブリーダーなんだけど……」


 そこでいったん言葉を切り、アルバートはイオの方を向いた。


「イオに任せようと思う。どうかな?」


 問われたイオだったが、声は別の方向から返ってきた。


「ちょっ、アルバート?」


 その声はやはりと言うべきか、カナリアのものだった。相変わらず彼女はイオに対して否定的だ。


 アルバートが優しく言い聞かせる。


「カナリア、イオは俺たちよりも先輩だ。きっと助けになってくれる」

「だけど……」


 カナリアの言いたいことはイオにも分かる。すなわち「無属性がサブとはいえリーダーなんてありえない」といったところだ。

 しかしそれを口に出すのは(はばか)られるのだろう。


 やはりカナリアは無属性に対する差別感が根強いようだ。農村で暮らしてきた彼女は無属性が無能だという虚像が完全に出来上がっている。といっても実際に無属性にできることが少ないのは事実なのだが。


 火や水を操るといった神秘的な技能が使えない。目に見えて何ができるわけでもない無属性はそのことでずっと虐げられてきた。


 最近になってやっとその印象は払拭されつつあるものの、それは一部のみでのことだ。戦闘に縁がない者ほど差別傾向は強い。


「いざという時にイオならなんとかしてくれるさ。そう思わないか?」

「……私だって冒険者のことくらい学んだわよ」


 諭すようにアルバートは言うが、カナリアは折れない。こう言っては何だが、駄々をこねる子供のようだとイオは思ってしまう。


 となりに座るルーはどこか悲し気にカナリアの方を見ている。


(まあ、なりたいわけでもないし)


 内心で溜息をつき、イオは2人の間に割って入った。


「アルバート、悪いけどサブリーダーは別の人にやってほしい」


 それを聞いたアルバートは意外そうな顔でイオを見る。


「別の人というのは?」

「俺はどっちでもいいけど……いざという時に指揮をとるならカナリアかな」


 カナリアとルーもイオに意外そうな視線を向ける。

 アルバートが納得していないのを見て取ったイオは重ねて理由を述べた。


「俺はパーティー組むのなんて初めてだから、経験で言えばカナリアやルーと大して差はない。それに3人はここ最近ずっと一緒に戦ってきたんだ。途中参加の俺がやるよりもカナリアに任せるのが適任だろう」


 そこでイオはカナリアの方を見て問う。


「カナリア、どうだ?」


 突然聞かれたカナリアはまだイオの話に着いていけておらず、しどろもどろになりながら答えた。


「え、えっと、そういうことなら構わないわ」


 流されたのか、本当はなりたかったのか。まんざらでもない様子だ。


 今度はルーに訊く。


「ルーは? どうだ?」

「えぇ……?」

「妥当だと思うんだけど」

「はぁ……」


 煮え切らないルーだったが、イオは勝手に賛成と判断した。


「本人はやる気があるし、反対もない。アルバート、サブはカナリアに任せないか?」

「……君がそう言うのなら、間違いはないだろう」


 ほぼ力押しだが、アルバートも説得することができた。イオとしては自分のことでパーティー内に亀裂を生むのは勘弁してほしかった。


 実際カナリアがイオに対していい感情を抱いていないのは、彼女がイオの実力を知らないからだ。カナリアにとってイオは魔法の使えないひょろひょろした子供という認識でしかない。

 好意を寄せている相手の評価が、自分よりもその子供の方が高いとなると、いい思いをしないのも当然だろう。


 そしてイオはその評価を改めたいとも思わない。無理に仲良くなろうとは思っていない。

 自分のことで不和を生みそうになれば今回のようにフォローする方がよっぽど楽なのだから。


 カナリアのイオに対する態度は論理的なものではなく感情的なものだ。それを改善するのは一筋縄ではいかないし、イオが頑張ればいいという問題でもない。

 放置したところで大した問題でもないので、イオから働きかけるつもりはない。


「それじゃあ最後にパーティー名だけど……」


 アルバートの言葉によって今日最後の議題に入る。


 正直これが一番問題だ。何にすればいいのかイオは全く分からない。


「はい! 「黄金の騎士」は?」

「却下だよ。騎士団じゃないんだから」


 カナリアが手を挙げて意見を出すも即座にアルバートに反対される。


「では「(きらめ)く剣閃」というのはどうでしょう?」

「カナリアもルーも剣士じゃないよね?」

「俺も剣士ではないな」


 ルーの意見も、そもそも剣士が1人しかいないという理由で却下された。


「なんだかイメージが俺で固定されている気がするんだけど」

「リーダーなんだからいわばパーティーの顔でしょ」


 アルバートが不満げに言うも当然という風にカナリアに返される。事実なのでアルバートも反論できなかった。


「イオはどう? 何か思いつかない?」


 縋るような声でアルバートが訊いてくる。


 何も考えていなかったイオは急いで適当な名前を考える。


(えっと、アルバートといえば剣が使えて火属性で、あとやたら装備が高い。他に何かあったか……貴族だろうというのは今は関係ないな)


 アルバートについて記憶を探っていくものの大した情報は出てこない。

 ならば全く無関係なものからでっちあげるか。それもハードルが高い。


(なにかないか……その場凌ぎでいい。火、赤い、熱い……)


 イオは火属性で連想していく。

 黙り込んだイオをアルバートも他の2人も見ている。今更何も思いつかないとは言えない。


(俺が見たことのある火属性の魔法は……「火球(ファイアボール)」、「火槍(ファイアランス)」、あとこの前「火炎竜の咆哮(ドラグニティブレイズ)」も見たな)


 イオの思考はリュビオスとの闘いへと遡っていく。それほど記憶に焼き付く出来事だったのだ。


(竜ってイメージはないし……そういえばあの時すごく熱かった。あれはたしか……)


 ぼやけた視界でかろうじてとらえた光景。熱い風が吹いて目の前に炎の塊が舞い降りる。それは体を左右に大きく広げていて、イオを守るように燃え盛る背を向けていた。あれはまるで——


「……不死鳥(フェニックス)の翼」


 ぼそりとつぶやいたイオの言葉にアルバートがピクリと反応する。


「それいいですね!」


 大きな声をあげたのはルーだった。


「私もいいと思うわ。アルバートっぽいし」


 カナリアも不満はないようだ。


「ははは……」


 アルバートは苦笑い。


「アルバート、「不死鳥の翼」。いいと思わない?」

「ええ……? 悪くはないと思うけど」


 そう言ってイオを恨みがましく見る。さしずめイメージがアルバートから離れていないことに対してだろう。

 そんなアルバートにイオは無慈悲に告げた。


「諦めろ。リーダーなんだから」

「……俺が思うリーダーと違う気がするんだけど。まあ、皆がいいならそれでいいよ」


 負けを受け入れたアルバートは一度咳払いして全員を見渡す。そして力強く宣言した。


「俺たちのパーティー名は「不死鳥(フェニックス)の翼」だ。これからは正式なパーティーメンバーとして互いに助け合っていこう」

「おー!」


 こうしてこの日、アルバートをリーダーとする新たなパーティーが結成した。

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