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第23話 3カ月前

 リュビオスとの闘いの後、イオが目覚めた日の昼。


 イオとカルボの病室には2人の他に5人の人物がいた。

 そのうちの3人はイオも親交がある「雷光の槍」。だが、残りの2人も彼らに劣らぬ大物だった。


「この町の冒険者ギルドのギルドマスター、クメだよ」

「同じく副ギルドマスターのシアラです」


 2人のうち老婆がギルドマスター、メガネをかけた30代くらいの女性が副ギルドマスターである。


 この町のギルドの2トップがわざわざこの場に足を運んでいるのである。


「まさかお2人がいらっしゃるとは……」


 驚いているのはカルボも同じらしい。何とか畏まろうと身を起こしているところをクメに止められた。


「ああ、いいからあんたはそこで寝ときな。にしても派手にやられたね」

「はい……お恥ずかしいばかりで」

「いや、よく生き延びたというべきだろうね」


 どうやら2人は知り合いらしい。なんとなく師弟関係というか、カルボがクメに対して頭が上がらないようである。

 この町を拠点にしているなら世話になることもあったのだろう。


 そして短いやり取りを終えたクメは、次にイオの方を向いて言った。


「あんたも、災難だったね。まあ、無事でよかったと言っておくよ」

「……ありがとうございます」


 当然イオはクメと面識はない。カルボに比べてあっさりとした言葉だった。


 そして他の4人は入り口付近で動かない。副ギルドマスターのシアラは記録要員なのか、手に紙とペンを持っている。

「雷光の槍」は、この場に最高権力者がいるためか随分とおとなしい。しかし、イオが見ているのに気づくとシャーリーが手を振ってくれた。


 すると、とりあえずの挨拶を終えたクメが早速とばかりに切り出してきた。


「さて。じゃあ、2人に訊こう。あんたらは何にやられた?」


 直球の質問だった。未知の魔物の正体はなんだったのか。きっと誰でも知りたいはずだ。

 答えたのはカルボだった。


「……分からない、っていうのが正直なところです。特徴ならあげられますが、あれが何かって聞かれたら……分からないと答えるしかできません」


 はっきりしないカルボの言葉を聞き、クメはイオの方を向いた。


「俺もあれが何かは知りません。しかし、個人的な考えでは魔物とも人間ともいえる存在だと思います」


 イオの推測を聞き、クメは「ふむ」と頷いた。まるでそのような答えが出るだろうと予測していたように。

 そして別の質問をする。


「なら、あんたらが奴と戦うことになった経緯(いきさつ)を教えてくれ」


 この質問に答えたのもカルボだった。というか、彼らがどのようにしてリュビオスと遭遇したのかはイオも知らない。


 いわく、依頼で森の中に入り歩いていたところを突然襲撃された。それによってテネルが腕に深手を負う。そして怪我の治療をするための時間稼ぎをカルボが買って出た。

 明らかに敵意をむき出しにしており、初めは凄腕の盗賊かとも思ったが向かい合ってよく見てみるとどうにも普通ではない。その段階で「未知の魔物」という言葉が脳裏をよぎる。

 しかし、相手が何であれ時間を稼がなければならないのは同じ。カルボはリュビオスの気を引きつけながら仲間と遠ざかるも、胸に拳を食らってしまい、森の外、すなわちイオの方へと吹きとばされてしまったということだ。


 そこからはイオも知っての通り。救援を待つ間の時間、ひたすら逃げ続けるもテネルとバラートが殺されイオとカルボも大怪我を負った。そのことをイオも補足しながら話していった。

 それを記録するためにシアラは手を休めることなく動かし続ける。


 その間、ずっと静かにしていた「雷光の槍」の3人だったが、一度だけヴァナヘルトが反射的に声を出したのは、リュビオスが言葉をしゃべったという話に差し掛かった時だった。


「……言葉を話しただと?」

「? ああ、普通に会話もしたし名乗りもした。何か知っているのか?」

「いや……悪い、続けてくれ」


 カルボがヴァナヘルトに尋ねるもこの時は有耶無耶にされた。

 イオはそんな彼を疑問に思ったが、その答えを得られたのはイオとカルボが事情をすべて話し終えた後だった。


「ご苦労だったね。大体のところは分かった。……さて、あんたらに伝えなきゃならんことがある」


 そう前置きして伝えられた事実にイオもカルボも大きく驚いた。


「実はあんたらがそのリュビオスと遭遇する少し前に、ここにいる「雷光の槍」が同じような奴を見つけて討伐したのさ。……ヴァナヘルト」

「ああ」


 イオとカルボが顔に出して驚いている中、呼ばれたヴァナヘルトが前に出てきた。

 クメはヴァナヘルトに尋ねる。


「2人の話を聞いて気になるところはあるかい?」


 ヴァナヘルトは難しそうな顔で答えた。


「……まず俺様らが倒した奴はしゃべらなかったな。あと、急激にパワーアップすることもなかった。……まあ、そんな暇もなく畳みかけた、っていうのが理由だろうが」

「ふむ……報告では、奇襲からの連携で仕留めたということだし……ちょうどあんたらとは逆だね」


 クメはそう言ってベッドに横たわる2人を見た。


「なるほどな……俺様も真っ向からぶつかってたらきつかったというわけか」


 ヴァナヘルトは納得顔で頷いた。


「まあそれはともかく……「雷光の槍」が倒した奴の方は死体を持ち帰ってある。特徴が一致していることから同じ種類の魔物だろう」


 クメがまとめたのを聞いて、イオは疑問に感じたことを訊いてみた。


「あの、魔物というのは確定ですか?」


 イオの考えでは、リュビオスは魔物とも人間ともいえる存在だった。

 人間にはありえない腕力とオーガのような姿への変身能力。それらを持ちながら言葉を話し、高い知能を持つ。

 人間のようで人間ではないその存在をクメは魔物と言い切った。


「ああ、なにしろ死体から魔石が見つかったからね。疑う余地もない」


 言うまでもなく人間から魔石はとれない。

 死体から魔石が見つかった。この事実はリュビオスたちを魔物と断定するに値する十分な証拠だった。

 そしてこれはもう一つの事実を示唆するものだった。


「ってことは、あいつはAランク相当か……」


 その強さが確定したことによってカルボは今更のように肝を冷やしながら言った。強さが未知というのも恐ろしいが、はっきりAランク以上と分かるのも同じように恐怖を与えるものだった。

 魔石が取れるのはBランクの上位以上の魔物からのみ。大体で見積もってAランク相当ということのなる。


「そう。このことはすでに全ギルドへと通達してある。冒険者に知れ渡るのも時間の問題だろうね」


 クメはギルドマスターとしての見解を述べた。

 続けて彼女しか知らない情報を開示した。


「これはまだ未公開のことなんだけどね、実は最近魔物の被害が増えているという報告がある。我々ギルドも同じ考えさ。何か、あたしらの予想できないようなことが起ころうとしている」


 そして続く言葉はどこか予言めいていた。

 確証があるのか、それとも長く生きているが故の勘なのか。その言葉が何によるものなのかイオには分からない。


「これから先、魔物は増え、その強さを増していく。彼奴らが現れたのもその前兆さね」


 その言葉を最後に事情聴取は終わった。



 ♢ ♢ ♢



「にしてもよく無事だったもんだな」


 特訓からの帰り道、ヴァナヘルトがなんとなしにつぶやいた。その視線の先にいるのはイオ。

 イオはなんのことかをすぐに理解した。


「無事じゃないですよ。このザマです……といっても、この程度で済んだことを喜ぶべきなんでしょうが」


 右腕を指差してイオは答える。その言葉には少しの自嘲を含んでいた。


 実際のイオの怪我は、右腕の他に胸から腹へとかけた切り傷、魔法を三重で使ったことによる反動があった。


 切り傷に関しては命に別状はない。ただ傷跡は残った。

 反動については、しばらく寝たきりで過ごすことでなんとか回復した。


 ちなみにカルボは内臓にダメージを負っていて、まだまだ回復は遠い。今も治療施設で療養中のはずだ。


「ああ、そうだな。これでも運がいい方だ」

「そうだよ。すごく心配したんだからね」


 ヴァナヘルトに続いてシャーリーもそう言った。


 イオは彼らがアルバートと共にイオ達の救援に駆けつけてくれたことを聞いている。自分のためだけではなかったと分かっていても、感謝すると同時に申し訳なさを感じる。


「すみません」

「ま、冒険者を続けるならこれもいい経験だ。せいぜい糧にするんだな」

「はい」


 クメによると最近魔物の活動が活発になっているという。リュビオスたち極めて人に近い魔物の出現もその証の一つ。

 あれほど強力な魔物が町の近くに現れ、好んで人を襲っているというのは異常な事態だ。そう考えるとクメの話も世迷言と一蹴することはできない。


 今はギルドマスターのクメの好意でポーション作りの仕事をやらせてもらっているが、いつまでも続けることはできない。まずもらえるのは最低賃金なうえに、本来はイオではない本職がいる。彼らは自分で腕を証明してポーションをはじめとする薬品を作っているのだ。それを横から割り込み続けるのはあまりよくない。


 やりたいことがあるというわけではないが、結局イオは冒険者として自己責任だけで生きていくのが性に合っているのだ。

 しがらみに捕らわれることもなく、自由に生きる。たとえ何かあったとしても、その町を出て行けばいい。そんな生活の方がイオにとっても気が楽なのだ。


 そしてそれをやり通すためには力をつけなければならない。仮に今回のようなことがあったとしても確実に生き残れる力が。そのためにイオはヴァナヘルト達に師事して、攻撃を躱したりいなしたりする技術を磨いている。そうすることで生存率を少しでも上げるとともに、アルバート達とパーティーを組んだ時に足を引っ張ることがないようにするのだ。


 人の少なくなった夜の大通りを、4人は静かに歩いていく。途中でヴァナヘルト達と別れた後、イオは安い飯を食べ、同じく今泊まっている安い宿へと帰るのだった。

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