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無色の魔力を染め上げる-逃避の果てに見る未来-  作者: 浮谷柳太
第六章 避けられぬ戦いの支度
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第112話 無属性

説明回です。



 ――エクリラにいる全員が無属性。


 イオはその意味を理解することができなかった。


「嘆きの魔女」はこうして無害な女性の見た目をしているが、内面までその通りではない。そのことは歴史が証明している。

 そして復活した今でも、リュビオスに殺された冒険者のように被害にあった者がいるのだ。


 その言葉、指先のかすかな動きにさえ何があるか分からない。

 あるいはイオの動揺を誘おうとしているのかもしれない。


 そんな疑心に囚われたイオは、誰の言葉も正面から信じるようなことはしなかった。


 そもそもその論理は根本から崩れている。イオはそれを厳しい声で指摘した。


「人魔は魔物だ。魔物は人間と同じ魔力を持っていない」


 イオはそのことに確信を持っていた。

 なぜならヴァナヘルト達が討伐した人魔の体内からは魔石が見つかったからだ。


 常識として人間の中に魔石は存在しない。魔石を持つのはBランク以上の強さを持つ強力な魔物だけ。

 ならばいくら見た目が人と近かろうとも、人間と人魔は全く別の存在となる。


 これはイオだけに限らず、多くの人間が人魔と自分たちを分化して考える根拠であった。


 だが「魔女」は首を横に振ってそれを否定する。


「おかしいと思いませんか? 人魔が人に近い形をしていることを。わたしたちがあなたと言葉を交わせていることを」


 今度はイオも頭ごなしに否定することはできない。


「わたしやリュビオスは、属性が無いためにヒトモドキと呼ばれていました。あの頃はヒトモドキだと分かると問答無用で奴隷に落とされ、不条理な扱いを受けていたものです。

 そしてそのような状況をなんとかするためにわたしたちは力を得て立ち上がった。変わった姿はその名残です」


 奴隷になるということは、モノとして扱われるということ。殺されようが何をされようが反抗することはできない。

 無属性であるというだけでそんなものにされると思うと背筋が冷たくなる。


「だがその話が本当だとして、お前たちは魔物になったということになる。そんな話は聞いたことがない」

「イオにも可能です。なぜならそれは無属性の魔法を用いるものですから」

「そんな馬鹿なことが……」


 あるはずがない、と「魔女」の言葉をイオは一蹴する。

 彼は無属性魔法の効果が背伸びした程度のものでしかないことを、自らの経験から良く知っていた。その僅かな差に助けられたことは多いが、他の属性に比べると応用が狭いことは明白だ。


 だからこそ、人魔のように劇的な力を得られる魔法が無属性に存在しないと断言できる。


「では、まずは無属性についてお話ししましょう」


 しかし「魔女」は気にすることなく説明を続ける。


「あなたは無属性がどういうものかを知っていますね?」

「…………」

「その大きな特徴は、魔力を体外に放出することができないということです」


 イオは無言で同意する。

 魔力を放出できるようになり、魔道具が使えるようになるだけで無属性の立ち位置が大きく変わることは容易に想像できる。


「では、その原因は?」


 原因と言われてイオは首をひねった。

 そもそも無属性とはそういう属性なのであって、それを引き起こす原因など考えたこともなかった。


「無属性は一種の病気です」

「病気だと?」


 聞き捨てならない言葉に思わず声が出る。

「魔女」は強く頷いた。


「はい。もともと人には四つの属性しかありません。言うまでもなく火、水、風、土の四つです。

 無属性は先天的に魔力を放出する出口が詰まってしまった人のことを言います」


 いつしかイオは「魔女」の話に聞き入っていた。


「どういうことだ?」

「言葉の通り、出口が詰まっているせいで無属性の人は魔力を放出することができません。しかし時間が経つにつれて体内の魔力は際限なく増えていく。増えすぎた魔力は毒になる」


 イオの頭に例として薬が浮かぶ。

 人の体を治すのが薬だが、だからといって大量に摂取しすぎれば逆に害をもたらすこともある。


 母親の教えの中に適切な量を処方するようにという教えがあったため、溜まりに溜まった魔力が毒になるというのは簡単に想像できた。


「そうなると、魔力は死にます(、、、、)

「魔力が、死ぬ?」

「はい。体に害がないように、体外に排出されなくても大丈夫なように変質するんです。元は四つの属性のうちのどれかだった魔力が脱色され、特徴のない無色透明になる。それが無属性の正体です」


 つまりイオも元は火、水、風、土のどれかの属性だったにもかかわらず、魔力を放出できなかったために魔力が死に絶え、無属性となってしまったということだ。


 人がどの属性か判明するのは7、8歳頃。おそらくその辺りの年齢で魔力を放出する器官ができあがるのだろう。

 だがそれに失敗した子供はなかなか属性が判明せず、そして9歳や10歳で魔力が死んだ後に無属性魔法が使えるようになって初めてそうだと判るのだ。


 そう考えると完全に魔力が消えず、無属性として残ることはある意味感謝すべきことなのかもしれない。

 とはいえ、それなら初めからそんな障害を負わせないでほしいと言いたいところだが。


「聖属性は中途半端に魔力が変質した結果だと思われます。おそらく完全に死ぬ直前に塞がれていた魔力の出口が開いたのでしょう」


 ついでのように語られた聖属性の真実にもイオは納得した。


 そもそも聖属性は人の体を対象として(、、、、、、、、、)発動される。すなわち、本質的に無属性と似通ったところがあるのだ。

 さらに「回復促進」という聖属性寄りの無属性魔法が、両者を強く結び付ける根拠となった。


「なら、俺が魔力を放出できるのは……」

「完全に無属性となった後で、何かしらの原因により塞いでいた栓が外れ、出口が開かれた。わたしと同じ、第三の例です」


 第一の例は、魔力が死んだ後、そのまま人生を終える無属性の者。

 第二の例は、魔力が完全に変質する直前に原因が取り除かた聖属性の者。

 そして第三の例は、イオのように後になって無属性の魔力を放出できるようになった者である。


「同じということは、あんたもか」

「もっと言えば人魔はみんなそうです。そしてここで先に述べた無属性の魔法に戻ります」


 驚くイオにティアはさらに畳みかけた。


「魔法の名は「同調」。わたしが偶然生み出した、おそらくこの世で最初の無属性魔法です」


 初めて聞く名前の魔法にイオは思慮を巡らせた。

 そんなイオをからかうように、「魔女」は笑みを浮かべて口を開く。


「今も使っていますよ? あなたを対象に」

「なっ!?」

「ご心配なく。体に害があるものではありませんから」


 そう言われて安心できる要素は一切ない。

 イオは抵抗のために直感で体に魔力を巡らせた。それは魔法を使う前段階のような状態である。


 そしてその結果、イオは自分の体内に侵入しようとする異物に気づくことができた。見慣れないが、イオにとっては身近にあるもの。それは――


「……魔力、か?」

「ご名答です。あなたの中にわたしの魔力を含ませていただきました」


 知らぬうちにそのようなものを仕込まれていたことにイオはぞっとする。

 ここまで気づけなかったのはその魔力に驚くほど存在感がないからだ。色がない、無色透明な何かが紛れ込んでいるような感覚。おそらく同様の魔力を扱うイオでなければ意識的に気づくことはできまい。それほどのレベルでそれはイオの体に、魔力に〝同調〟していた。


「これは相手の身体に自分の魔力を紛れ込ませる魔法。これによって得られる恩恵は多いですが、発動するには解決しなければならない大きな問題があります。それは……」

「体外への、魔力の放出……」


 ここまで来ればイオも理解できるようになってきた。


 何かしらの原因で放出できるようになった魔力は正常なそれの劣化版のようなものであり、人の体内にも問題なく潜らせることができる。

 そしてイオが「感覚延長」で遠見をしていたように、その魔力に何かしらの効果を乗せれば他者の体にすら干渉することが可能なのだ。


 それはすなわち、魔力さえ放出できれば無属性は他人の体に「身体強化」や「身体硬化」を施したり、「回復促進」で治療行為を行うことができるという可能性を示唆していた。


「効果のひとつは、相手の心理状態を知れるというもの。「同調」によって、今のあなたの警戒心も、初めにここへ来た時の喪失感も、わたしはすべていっしょに感じています」

「嘘を見抜くことも可能だ」


 途中でリュビオスが口を挟んだ。

 イオが名前を名乗った時、それが偽名かどうか判断するためにリュビオスはこの魔法を使っていたらしい。


「…………ふん」

「おや、お気に障りましたか?」

「当たり前だ。何をされるか分かったものじゃない」


 イオは魔力を大量に放出して、体内に混じった「魔女」の魔力をすべて押し流した。

 今更な対応かもしれないが、自分の内面を探られているようでいい気はしなかったからだ。


「話を続けましょう。「同調」は無属性の人間に使うことで、魔力の放出を妨げる栓を押し流すことができます。わたし以外の者はすべてそのようにして第三の例に至りました。

 そしてこの魔法を全力で生物に使うことであることが起こります。それが何か分かりますか?」


 イオは無言で答えを待った。


混ざる(、、、)んです」

「は?」

「だから、混ざるんですよ。自分と対象の魔力が」


 そう言われてイオは疑問符を増やすことしかできない。

 魔力が混ざるという現象自体、全く想像できないのだ。


「それでどうなるんだ?」

「死にます。無属性以外で別の魔力が体内に流れれば拒絶反応を起こしますから」


 無属性の魔力それ自体は人体に無害だから、体内に入っても死にはしない。だが魔力が逆流すれば「同調」の使用者は拒絶反応を起こして死ぬ。

 イオは辛うじてそう理解することができた。


「しかし、ある条件の下ではまったく別の現象が起こる。それは人魔の身に強く表れています」


 イオはその言葉に誘導されて人魔の身体を思い出す。


 形は人それぞれ。人型ではあるが、体毛や鱗が生えていたりして、獣と人を混ぜ合わせたようにも思える。

 そして体内には魔石があって――


「まさか、魔物に使ったのか!?」

「お見事です」


 ありえないという思いと共に吐き出された答えは「魔女」によってあっさりと肯定される。

 魔物と自分を混ぜ合わせる。それがいかに非常識な行為かは考えるまでもなく明らかだった。


「正確にはどの魔物でもいいというわけではありません。魔石を持ち、波長が合う魔物でなければ例外なく死んでしまいます」

「なんでそんなことを……」


 明かされた真実に衝撃を受けたイオは悲痛な声をあげた。


 ここにいる人魔は皆、元は無属性の人間だった。ならばその選択をするということは人間を止めるということだ。

 自分の姿を醜く変え、人でなくなることにどんな意味があったのか。それはただでさえ不利な立場をさらに追い込むものであると思われた。


 しかしそんなイオの複雑な思いを「魔女」はすっぱりと断ち切る。


「そうしなければ生きられなかったから。力がなければわたしたちは奴隷として人に使役されて一生を終えていました。

 もちろん人魔になることを強制したことはありません。町を襲って救出した無属性の人々には選択肢を与えました。その中でリュビオスのように一緒に戦ってくれると言ってくれた人だけが魔物と「同調」をする。

 いわばこれは、世に抗う戦士として生まれ変わるための〝儀式〟なのです」


「魔女」が、人魔が戦ったのは、ただ差別に苦しむ無属性の人々を救うためだった。

 そのために世界を敵に回し、町を襲って奴隷を攫って仲間を増やしてきた。


 当時は今と比べ物にならないほど無属性に対する逆風は強かったため、その苦労は想像を絶するものだっただろう。そして「勇者」に封印されて今に至る――。


 表に出なかった歴史の一端に触れて、イオは何が正しいのか分からなくなった。

 果たして、過去に差別と闘った「魔女」たちは完全な悪なのだろうか、と。


「イオ、あなたにお願いがあります」


「魔女」は、元人間のティアは、真剣な面持ちでそう口にした。

 知らず、イオの肩が強張る。


「わたしたちの同士になりませんか? ここに住む者は皆、親に捨てられ迫害を受けてきた過去を持ちます。わたしたちは解り合えると思うんです。どうか脅威を退けるために、そして差別のない世界を作るためにその力を貸してもらえませんか?」


 その請願に、イオは――――






いろいろと書きましたが、あまりうまく説明できている自信がありません。

ご不明な点がありましたら感想欄で遠慮なく聞いてください。

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