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無色の魔力を染め上げる-逃避の果てに見る未来-  作者: 浮谷柳太
第一章 生まれの地からの逃避
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第11話 正義

 ギルド内に沈黙が広がった。

 当事者である男たちも女たちも、野次馬も関係のない人も全員がその金髪の男に注目した。


 出入口を陣取られて外に出る機会を失ったイオは、注目を避けるためにすぐにギルドの隅へ移動した。


 顔に怒りを浮かばせた男は周りからの注目をものともせずにゆっくりと歩いていく。その先には女の腕をつかんで立つ男冒険者がいる。


 金髪の男は厳しい声で言った。


「彼女たちを離せ」


 対する男たちは一瞬何を言われたか分からなかったようでぽかんとした後、すぐに睨みを利かせて言った。


「……なんだ?お前」

「私のことはどうでもいい。それよりも彼女たちを離せと言ったんだ」


 金髪の男は背筋を伸ばした姿勢のままきっぱりと言った。彼の背丈は相対する男たちと同じくらいだが、そのピシッとした姿勢のせいか言葉に威圧感がある。

 本物をしっかりと見たことのないイオでも分かる。それは騎士を思い浮かばせるような姿だった。


 彼の正面に立ち、その圧力を正面から受けた男たちも似たようなことを感じたようだ。少し余裕がなくなっている。


「お、お前には関係ないだろ!」

「そんなことはない。私の前で起こっていることだ。無関係ではない」


 男たちがまき散らす荒々しい雰囲気にも金髪の男は動じない。自分が正しいことと、仮に争いになったとしても自分が負けることはないという絶対の自信がうかがえる。

 たしかに金髪の男は腕がいいのだろう。その証拠に立ち振る舞いに隙がなく、いつでも剣が抜けるように男たちの動き一つ一つに目を配っている。


 腕をつかまれている2人の女冒険者もその姿に見惚れているようだ。それもそうだろう。金髪の男はイオの目から見ても容姿が優れていると言わざるを得ないのだから。そんな相手に現在進行形で窮地を救われようとしていて見惚れるなというのも難しいかもしれない。


 依然として決然とした態度を崩さない金髪の男に対して男たちはさらに余裕を失っていく。彼らも自分たちが相手にしているのがただの若者ではないと分かったのだろう。


 だが負けを認めることはできなかったのだろう。ここで男たちのうちの1人が反論を口にする。


「お、俺たちはこいつらをパーティーに入れてやろうとしているだけだ!お前は通告を知らないんだろう!」


 ここで初めて金髪の男の余裕が崩れた。疑問を浮かべたことで相手が通告のことを知らないと確信したのだろう。男は自分たちの正当性を主張し始めた。


「今朝ギルドからの通告で4人未満の活動が禁じられたんだ。それで俺たちは2人しかいないこいつらをパーティーに入れてやろうとした。ついでに先輩として色々教えてやろうと思っていただけだ!」


 言い切った男は満足げに相手を見る。

 たしかに言葉だけを見れば男たちの行動に問題はない。彼らが何か良くないことを考えていると思うのはこちら側の一方的な考えであって今のところ証拠はない。もちろん彼らの表情や口振りからよからぬことを企んでいると予想はできるのだが、それだけでは証拠として弱い。


「……なるほど」


 金髪の男の勢いがなくなったことで男たちは自分たちの勝利を確信する。それを見た女のうちカナリアの方が何か言おうとしたが、腕をつかんでいる男が先んじてその手を強く握ることで黙らせた。

 急に静かになった金髪の男を見て男たちはその場を立ち去ろうとする。


「そういうことだ。じゃあ俺たちは行……」

「それなら」


 最後に一声かけようとした男の声にかぶせるようにして金髪の男は言った。


「それなら、私が彼女たちとパーティーを組もう。私も組む相手がいないからな。これならなにも問題はあるまい」


 その発言に男たちは再び思考が停止する。が、すぐに反論を口にする。


「何言ってんだ!第一、お前らで組んでもまだ3人だ。あと1人はどうする!」

「まだ誰とも組んでいないものもいるだろう。そうだな……」


 そう言って男はあたりを見渡す。そしてあろうことか部屋の片隅にいるイオの方にその目を向けて言った。


「あのローブを着た彼に頼むとしよう。見たところ彼もまだ誰とも組んでいないようだからな。これで4人だ」


 そんなことを言った金髪の男にイオは驚き、そして内心で舌打ちをする。まさかこんなことを言ってくるとは思わなかった。確かに周りを見てみると1人でいるのはイオだけだ。だから金髪の男もイオに目を付けたのだろう。だがそれは到底喜べるものではない。

 今更ながらもっと早くギルドから出ておくべきだったとイオは悔やむ。ついその場の雰囲気に流されて見物人となってしまっていたのだ。さっきの発言のせいでイオにも少なくない注目が集まっており、今ではもう誰にも見咎められることなく出ていくことは不可能だろう。イオもすでにあの陳腐な劇場に押し上げられた役者の1人となってしまったのだから。


 男たちも勝手に決められて納得するはずがない。すぐに口々に文句を言おうとする。


「そんなこと誰が……」

「それにだ」


 だが再び言葉をかぶせられて男たちの文句は不発に終わる。つい黙ってしまったのは目の前の男が隠すことなく怒りをその美しい顔に浮かべていたからだ。


「彼女たちが嫌がっていることは一目で分かる。あまり私を馬鹿にしないことだな」


 その言葉に自分を虚仮にしようとした相手への、言葉を飾って自分の行為を正当化しようとした男たちへのすべての感情が乗せられていた。これにはずっと上から目線の態度を崩さなかった男たちも気圧されたのか、後ろへ数歩下がってしまう。


 今やもう場の流れは完全に変わってしまっていた。初め面白そうにニヤニヤしていた野次馬たちも、今では1人で男たちを追い詰める金髪の男を応援している。


 男たちはもう自分たちに味方がいないと気づいた。しかし、圧倒的不利な中でも年下の男1人に負けるのは我慢ならなかったのだろう。男たちは最後の手段に出る。すなわち、腰に下げた剣に手をかけ、相手を切り伏せようと一気に抜こうとする。


 が、そんな行動を騎士然とした金髪の男が見逃すはずがなかった。男が剣を引き抜く前に問いかける。


「いいのか?」

「あ?」


 男はその言葉の意味を計り切れず、思わず問い返してしまう。が、目の前の男が自分の服装に目を向けたとき、その意図を理解してしまう。


 そう、金髪の男が着ているのはこの冒険者ギルドにおいては場違いともいえる立派なもの。それこそ相手が騎士だと言われてもおかしくないようなものだった。

 男たちは考える。この服装、そして話し方や立ち振る舞い。果たしてこの若者が手を出してもいい相手なのか。


 もし貴族に手を出してしまったならその人間は問答無用で死罪だ。それは相手が騎士爵という最底辺の貴族であっても場合によっては同じ。ましてや今男たちに味方はいない。


 目の前の若者が本当に貴族なのかは分からない。なぜなら聞く限りはこの男も冒険者だと言うのだから。

 貴族ならなぜ冒険者などになったのか。何か目的があるのか。しかしそれを問うことは不敬にあたる。


 果たして金髪の男が暗に伝えたことが真実なのか嘘なのか。知る術はない。

 剣を抜こうとしていた男は真実を見抜こうとするが、もう一度金髪の男が着ているものを見て決断した。


「……ちっ、行くぞ」


 男たちは女冒険者を離し、舌打ちを残してその場を去っていった。

 どうやら手を出すべきではないと判断したようだった。


 途端にギルド内で歓声が響く。男に連れ去られようとしていた女を騎士風の男が助ける。見世物としては面白かっただろう。


「あ、あの、ありがとうございました!」

「助けていただいてありがとうございます!」


 ヒロイン役の2人も金髪の男に魅せられたようだ。キラキラとした目で礼を言っている。


「どういたしまして。無事で何よりだ」


 王子役の台本通りの発言にまた場が騒がしくなった。誰かが口笛を吹いて盛り上げている。


 イオはその様子をこれ以上なく冷めた感情で眺めていた。イオも無関係なら金髪の男の行動に関心くらいは覚えただろう。実際あの状況で首を突っ込んで、周りを味方につけ、さらに血を流すことなく男たちを追い払ったあの手腕は見事なものであった。真似しようと思ってもイオには真似できない。

 だが、その中にイオを巻き込んだのは納得できない。確かに金髪の男の取った行動は有効だった。男たちは無理に女冒険者をパーティーに入れることに対して正当性を失ったのだから。あの場でもう1人のメンバーに指名できるのがイオしかいなかったのも仕方のないことだとは思う。しかしどうしても納得はできないのだ。


 今も周りの人間がちらほらとイオの方を見ている。あの3人の中に入っていくことでも期待しているのだろうか。居心地の悪さを感じるも逃げることは許されない。


 ちなみに当事者の3人の会話はまだ続いている。


「ところで勝手にパーティーを組むなんて決めてごめん。もし他に相手がいるなら引き下がるけど」

「いいえ、ぜひお願いします!」

「わ、私も……」


 この短時間の間に金髪の男の口調が随分と砕けていた。どうやらこっちが素のようだ。


(というか……あれ、俺いるのか?)


 疑問に思うイオ。完全に3人だけの世界ができている。

 イオとしてはいくらパーティーを組むにしてもあの中に入りたいとは思わない。それどころかイオがあの中に入っていかなければならない義務はないのだ。向こうが勝手に決めたことなのだから。


 ただそれを周囲の空気が許してくれない。ここでイオが辞退すれば彼らはまた別のメンバーを探さなくてはならず、きれいに収まったこの結末にひびを入れることになるのだ。そうなればイオには悪評が付きまとうようになるかもしれない。


「はぁ……」


 つい口からため息が漏れてしまうのも仕方のないことだろう。しかしいくら嘆いたところで何も変わらない。イオは思考を切り替えて自分がとるべき行動を考える。


 まずイオがこのままあのパーティーの一員になるのかどうか。本音はもちろんノーである。

 いくらなんでも目立ちすぎた。あの中に入って注目を浴びるのは勘弁したいと思うイオ。それにメンバーの問題もある。まず女2人だが、ここ数日見ただけで彼女たちが素人だというのは確定している。詳しい戦力は分からないが頼りがいがあるとは言えない。

 そして金髪の男。イオの予想では彼は何の嘘でもなく裕福な家、それも貴族家の出身だ。装備は言うまでもなく、あの立ち振る舞いは簡単に身につくものではない。幼いころから教育を受けてきたのだろう。なぜ彼が冒険者になっているのかは分からないが、厄介ごとの臭いしかしない。同時に嘘をつくというのも愚策だろう。


 しかしいくら嫌だと思っていても今更引き返せない空気になっている。別にもうすぐこの町から出ていく予定ではあるので、ここの冒険者たちにどう思われていてもかまわないのだが、できれば無用ないざこざは避けたい。

 それにプラス思考で考えるなら、こちらから頼まずともパーティーに入れることになったともいえる。もちろんずっと組み続けるつもりはないが、経験を積むという意味では悪くはない。


 結論は——


(数日間組んでみる。もしうまくいかなければ町を出る)


 イオは方針を決めた。

 前を見てみると話し終えた3人がこちらに歩いてきている。イオは3人、特に金髪の男に言うべき言葉を控えて、こちらまで来るのを待った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここでパーティ組むのは話の都合の為の作者の無理矢理感を感じるなぁ もう街を出るつもりだった 勝手にいざこざに巻き込まれた メンバーは初心者2人&厄介な臭いしかしない貴族風な男 これで数日間…
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