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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第一章 勇者召喚
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大会



 選手控え室。

 そこは第一回戦を勝ち抜いた者だけが利用できる部屋。勿論、最初の通過者であるシアン・アシードもその部屋を与えられる。

 スタッフに通された部屋は最低限の机と椅子しかなかった。暖房器具もないため、少し肌寒い春の気温では少々物足りない。毛布でも欲しい所だ。

 しかし、そんな些細な事は今のシアンには関係なかった。何せ、扉を開けたら自分と同じ様な顔をした人物が椅子に座っていたのだから。

 その人物は不敵な笑みを浮かべてギザ歯を見せる。シアンも他人とは違い尖った歯をしているが、その人物もらしい。


「よっ」


 右手を上げて軽く挨拶をした彼の頭上には怪しく光る光輪が浮かんでいる。隠す気もないその姿勢にハァとシアンはため息をつきながら、扉を閉めた。ついでに鍵もかける。


「何でここにいる」

「何でって、人間達が面白そうな事してるんでね。ボクも行くしかねぇーなぁー? と」

「お前らしいな」


 ケラケラと笑う彼にシアンはもう一度ため息を吐く。

 彼の名前はイエロー・シャルトルーズ。種族は天族、つまりは天使である。頭上に浮かんでいる光輪もそうだが、背にある細い草臥れた一対の翼が彼を天使だと物語っていた。

 もう一つあった椅子に腰掛けたシアンは脚を組んで、イエローを見据える。その輝かしい程の金髪を揺らしながら不敵に笑う彼は、とても気分屋である。こうして会うのも何年振りだろうか。最後に会ったのは、確かまだ、この魔法学園に入る前のはず。どれだけ会ってないのかがわかるが、そもそも天使と人間である。頻繁に会う方が可笑しい。


「あんまり見られると照れるねぇー」

「そう思ってないくせに」

「くひひっ。バレてら」


 別にバレないようにしているわけでもないはずなのに、そう答えたイエローにシアンは呆れ、懐から今読んでいる本を取り出してペラペラと捲った。題名は“何故この世界は生まれたのか”。……中々の哲学書である。

 シアンは大体こういう本を読むことが多い。この世界にいる者達にあまり受けなさそうな本等を好む。例外は前読んでいた“魔物と魔族の生態”だが、これは冒険者にとって必需品と言っていい程ポピュラーな本だ。だけれど、その著者の魔物や魔族への偏見を面白がって見る人間は世界にただ一人、シアンだけだろう。それぐらい彼は何処かズレているのである。


「天使の前でそういうの読んじゃうタイプかね、君って」


 自分を相手にしなくなったシアンに面白くないのか、暇を持て余すように草臥れた翼をバサバサと動かしていたイエローが、そう声をかけてきた。シアンは顔を上げずに、口だけを動かして応える。


「別に、偶々だ」

「ふーん。けどさ、その世界は何故生まれたのかっての答えは神が創った(・・・・・)……それだけだろー?」

「そういうのは夢がねぇからやめろ」

「いやいや、信教者にとっちゃ涙ものだとボクは思うけどなぁ」

「世界がたった一人の神に創られ、オレ達も創られたなんて……全く嫌な話だ、命持つツクリモノ(・・・・・)なんてな」

「くひひひっ。君、人間じゃなかったら全天使を敵に回してたぞ? 一瞬にてお陀仏だ」

「くはは、それこそ御免被るな。大天使達が出てきたら洒落にならない」


 首を振るシアンに更にイエローは笑う。

 たった今シアンが言ったことは神の批判である。別に神がいないとは言っていないが、神に創られた事が嫌だと言った。それは、この世界を創造したと云われる唯一神ウィスタリアを信じているウィスタリア教の教徒や、ウィスタリアに仕えている天使達を敵に回したに等しい。

 それに、全天使というのはとてつもない戦力になる。国一つ、いや大陸一つぐらいだろうか。とにかく彼等が出てくるとなれば、国一つは滅ぶとも言われている。基本的に天使は下界に降りてこない。人に祝福を与える時か、神からの伝言を伝えるためか、それぐらいだ。天使達が天界とも人間達とも敵対している魔界に降りて魔族達を倒さないのは、神を含めた二人の王によって交わされた約束(・・)を守っているから。その約束の一つに、必要以上に下界に干渉しないというモノがある。

 神を信じるか信じないか、それは人それぞれだ。なので、シアンの言った事は神を批判する事にはなるが、一意見として扱われる。自分は神がいるとは信じているが、神そのものは嫌いだ。そう言う意見もあるだろう。ただ、それが天使達や教徒達が気に食わないだけで。


「それよりさ、さっき石投げられたろ? 見てたぜ?」


 天使であるイエローにとって神批判は、それよりという言葉で流せる程度らしい。それで良いのか、天使。


「投げられたな。血が出てたから、治癒魔法かけたが」


 左手で石が当たった場所を撫でる。少しズキリと痛む事から、傷は塞がったが完全には治っていないらしい。シアンは治癒魔法が少しだけ苦手であった。


「くひっ、治ってねぇのか。そりゃ良かった」


 口角を上げて笑うイエローはとても天使には見えない。

 天使は常に微笑んだ様な表情をしていると言われ、実際に降りてきた天使達は皆、人々を愛しているかの様に素敵な微笑みを見せていたという。

 そんな天使の一人が目の前にいるが、有り難みは一切シアンには湧いてこない。

 彼此と付き合いが長い彼の性格はシアンは重々わかっているつもりだ。だからこそ、慈愛に満ちた微笑みをする言われる天使が、こうして不敵に笑う意味もわかっていた。


「やっぱ、お前か」

「なーにが?」

「石投げた事だ」


 ふぅと息を吐きながら首を振る。

 何と無くだが、気配とあの大きさの石で察していたシアン。掌の大きさとなると人の力では投げられまい。魔法を使えるのならまだしも、あの場では選手以外の魔法使いは魔法を禁じられていた。それなら、石を投げる事ができるのは純粋で強力な腕力を持った者だけ。あの時振り返って見たものの、軌道上から逆計算して割り出した場所には、ひ弱そうな者達ばかりであった。丁度、シアンのような細腕ばかりの。

 そこから考えられる事は、人外の仕業。人ならざる者達は、ひ弱そうに見えても大地を破る力を持つ者もいる。だから、そう考えたのだが……まさか、投げた本人が知り合いだと思ってはいなかった。最初見た時は驚いたが、後々此奴ならやりかねないとシアンは思ったらしい。

 その石を投げた本人であるイエローは、嬉しそうに顔を歪ませた後バッと両手を広げた。ついでに飛べれるのか怪しい細い翼も広げられていた。


「正解大正かーーい!!」


 パタパタと両手と翼を動かしていたイエローは、はたと漸く気づいたかのように動かすのをやめて、首を傾げた。


「しかし、よーくわかったな? シアンくん?」

「お前以外に誰がいるんだよ」

「こりゃ手厳しい。ボク、わからないようにしたつもりなんだけどなー?」

「逆だ。わからないから、わかったんだよ」


 頓知のような言い回しに、コテリと反対方向に首を傾げたイエローは暫く考えた後、なーるほどと両手をポンと打ち付けた。意味がわかったらしい。


「くひひ、流石シアンくん! 相変わらず頭脳明晰だなー? 脳筋なボクとは出来が違う!」


 本当に嬉しそうに笑うイエローは一見無邪気な子供に見えるが、その本質は悪魔そのもの。何故、彼が未だ天使として存在できているのかが謎だ。普通ならば、堕天していても可笑しくは無いというのに。


「お前の場合、脳筋なのは一部だけだろうに」


 イエローは趣味の内容が脳筋のそれであるだけで、その他は寧ろ頭脳明晰である。シアンと同等、いやそれ以上。ずる賢さにかけては、シアンより少しだけ上手である。年季が違うと言えば、それだけだが。

ただその頭脳を趣味に費やす為に、周りからは脳筋だと思われやすい。もっと他の事に使えば良いのに。


「おう! ボクは大好きな事に対しては努力を惜しまないタイプだからなー」

「人の心読むな」


 ケラケラ笑うイエローに、眉間を歪ませたシアンはやってられないとばかりに本の続きを読む事にした。はて、どこまで読んだだろうか。


「読んでねぇよ、そんな魔法持ってねぇからな。君は見掛けより顔に出やすいタイプだから、わかりやすいんだよ」


 まぁ、人間がわかりやす過ぎるだけなんだがなー。

 バサリと翼を広げて嗤うイエローは楽しそうだ。その楽しみを分かち合おうとは思わないが、人間がわかりやすいのはシアンも同意できた。

 わかりやすい例えと言えば、尊厳や恐怖等だろうか。

 尊厳は自尊心。誰もが驕りやすく、わかりやすい。自尊心があるだけならば良い。自分の行いに誇りを持ち、常に気高いのならば天使も気にいる人物になるだろうが、自尊心が高すぎ、傲慢という典型的なタイプは駄目だ。憐れ、手の施しようの無い馬鹿。

 恐怖は畏れ。圧倒的な力の前に、得体の知れないものに震える事。恐怖の方がわかりやすいだろうか。最も、人の化けの皮が剥がれやすい事だ。

 まぁ心を持ってさえいれば、人間に限らず全生物に当てはまる事なのだが。

 ペラリと本のページを捲ると、選手控え室に設けられたスピーカーから音が鳴った。それはこれから司会者がこの選手権に関わる皆に伝える為の合図。シアンも本を読むのを止めて、司会者の言葉に耳を傾けた。


「〝たった第一回戦が全て終了致しました。これより第二回戦の説明を行いたいと思います〟」


 一回戦が終わったらしい。

 シアンがこの部屋に来てから随分経った様な気もするが、本当は十分も経ってはいない。

 結構早く終わったな、というイエローの呟きにシアンは頷きはしなかった。勝負が決まるのもそれぐらいだろうと、予想していたのでさして驚きはしなかったのだ。寧ろ予想通りの結果に満足する。


「〝第二回戦からはトーナメント式となります。四人ずつで戦ってもらいまして、その中の二人が無事に第三回戦へ進出できます〟」


 成る程、小規模なバトルロイヤルと言ったところだろうか。しかしそれでは、二人余ってしまう。

 もしや、他の二人は落選という事になるのだろうか。上げては落とす何て事は、この世界でも何処でも有り得る可能性だ。主催者がそういう意地の悪い人物でなければ、この可能性はなくなるが。さて、どうなる?

 シアンは疑問に思いながらも、続きを大人しく聞く事にした。


「〝第二回戦に参加しないあとの二人にはシード権を贈呈します。勿論与えられるのは、第一回戦を最速で突破したシアン・アシード選手と、二番手に突破したダリア・フランボワーズ選手! おめでとうございます!〟」

「くひっ、良かったな。シード権だってよ」


 パチパチと嘲笑うかの様な笑みを浮かべて拍手するイエローを横目に、ダリアという人物は誰だっただろうか? と首を傾げる。何処かで聞いたような名前なのだが、どうにもシアンには思い出せなかった。

 しかし無事に三回戦進出は決定した。第二回戦をしなくて良いという事にシアンは喜びを感じた。面倒な事はあまり好きではないのだ。


「〝さて、これから第二回戦と参りたいのですが、それでは選手の皆様が疲弊してしまいます。万全の状態で挑んで頂きたい為、これより十分間の小休憩を挟みたいと思います〟」


 会場全体からどっと疲れた様な空気が漂った。

 小休憩は有難いのだろう。疲れ切った体を癒すのに十分では足りない気もするが、それはそれだ。寧ろ、選手より観客第一の方針にも思える。


「〝お手洗い等はこの時間に済ませてください。売店は会場から出てすぐ側にあります、是非ご活用くださいませ〟」


 この大会で一儲けしようというのか。

 確かに、勇者のパーティの一人が決まる大事な大会だ。観客も魔法学園の生徒以外も大勢いる。プラム王国は一、二位を争う大国だ。それなりに人口が多いので、こういう催し物は大事なのかも知れない。

 ついでの様に行われているそれだが、この事も頭に入っていたのなら、プラム国王は中々食えない人物なのかも知れない。そもそも、魔導師と言うだけで色々ヤバそうなのに。

 できれば、会いたくないな。そう思いながら、シアンは本のページを更に捲った。



実は強かったりするダリアさん。

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