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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第二章 見習い勇者の旅
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予感



 冒険者ギルドへの依頼料や達成報酬はある程度基準がある。

 新人冒険者が多い最低ランクであるEランクは大体報酬が千〜一万。その次のランクであるDランクは、一万〜十万。Cは十万〜三十万。Bは三十万〜百万。現在在籍している冒険者の最高ランクであるAランクは百万〜一千万と言われている。

 あくまで基準な為に条件や依頼内容、そして依頼者によってその値段は変わり、金銭の代わりに物が報酬だったりする。しかし基準は基準。大抵はその通りの報酬が多い。


「だからこそ可笑しすぎる。Cランク任務にしてはAランクの報酬だ。いや龍相手のクエストなのだから当たり前かも知れないが……」

「問題はその依頼ランク。内容もA、報酬金額もA。ならAにしたって良いはずなのに」

「これを通したギルドも変だな」


 シアンとカクタスの言葉におろおろと狼狽えだした英二は、もしかしてやばいクエスト持ってきてしまったのでは? と危惧する。

 難しい顔をして紙を見る二人はやがて顔を上げて頷きあう。どうやら考えが纏まったらしく、狼狽えていた英二の腕をカクタスが掴んでシアン先頭でカウンターの方へと向かいだした。


「えっ!? クエスト受けるのか!?」

「受けねぇよ。ただ確かめるだけだが……もし英二でも大丈夫だと判断したら、受けるつもりだ」

「まっそういうこと。頑張ってね、勇者君」


 ウインクと同時にそう言ったカクタスに英二は目を丸くした。今の言葉の意味がカクタスは戦わないという様に聞こえたからだ。流石に自分一人で龍の相手は無理だと理解している英二は慌ててそのことを確認しようとするが、その前に口を開いたシアンによって遮られる。


「そういや英二には話してなかったが、これは英二がこれから勇者としてやっていけるかの試験も含めてある」

「実践できなきゃ意味ないからね」


 いや試験早ない!? ギルドでのクエスト今日が初めて!! と心の中で叫ぶ英二だが、あまりの衝撃によってそれが言葉として出ることはない。

 引き摺られたまま口を開けて絶句する彼を他所に、魔法の先生と剣術の師匠はいつも世話になっている受付嬢の下へと歩いて行った。

 受付付近で何か作業をしていた受付嬢が此方に気づくと同時にカクタスは走り出し、カウンターへと飛びついた。肘をついてニコニコ笑う彼はどう見ても子供にしか見えない。


「おはよう! イリスちゃん!」

「おはようございます、カクタスさん。今日はどんなご依頼を?」

「いや、僕じゃなくて彼が」


 彼? と首を傾げたイリスという名前の受付嬢はカウンターを区切る板の影から出てきたシアンに目を見開く。深い藍色の髪をした魔法使いはよく見知った相手だ。というのも受付嬢に靡かない鉄仮面の冒険者と彼女の中で噂の彼。絶対に落とすと決めた相手だ。

 思わず口角が引きつりながらも、チャンスだと意気込む。仕事が受付嬢な為、ここ以外で会う機会がないのだ。依頼一辺倒な彼は受付嬢のアピールにも気付かず、受付嬢も休日に誘うことがない。そもそも受付嬢と冒険者という関係から脱却していなかったりするのだが、イリスはそのことに気づいていない。


「あっシアンさんじゃないですか。カクタスさんとクエストに?」

「ん? 知り合い?」

「えぇ。良くご利用くださっています」

「へぇ……?」


 カクタスの隣に追いついた試案は引きずっていた英二を離し、会話に加わろうとする。シアンが乱暴に離した所為で床とおはようのキスをしてしまったことには誰も気づいていない。

 良く利用するというイリスの言葉にシアンは首を傾げ、イリスの顔と体型をまじまじと見つめた。ジッと見れる事に慣れていないイリスは頬を人差し指で困ったように掻き、どうしたのか問う。けれど返ってくるのは頷きだけ。どこか納得したような顔だ。


「そういえば、見覚えある顔だな」

「気づいてなかったの?」

「あぁ。カウンターが一番空いてるのがここだから使ってただけで、それ以外は別に」

「覚えてない、と……?」

「そうだが?」


 イリスは崩れ落ちそうになった。今までアプローチしてきたのは何だったのだろうか。そういえばたまにしか目線を合わせてくれなかった気がする。どういう事だ、まさか男色家なのか。

 そのアプローチがあからさまではなく、さりげないものだったからこそ気づいていなかったのだと、イリスは気づく事はない。今まで見目麗しい容姿で落としてきた彼女は、そのさりげない動作だけで今までなんとかなってきたのだ。自分自身に原因があると分からないままでは一生、彼を落とすことはきっとないだろう。

 因みにシアンは男色家ではない。


「何放心してる。これについて質問がある」

「うわ、シアンって容赦ないんだね」

「何が?」

「何もー?」


 崩れ落ちる事はなかったが、それなりに頑張ってたイリスにとっての衝撃の言葉が重かったらしく、口から魂が出るほど放心していた。呆然とする彼女にシアンは首を傾げながらも、本来の目的である依頼書を取り出した。

 流石に仕事まで私情を持ち込む事はないイリスはハッ! として立ち直り、出された依頼書を受け取り読み進める。目が段々と下へ移動して行くごとに、彼女の顔が青くなっていった。


「な、なんですか、これ!」

「いや、知らん」

「いち冒険者である僕らにわかるはずもないよね。受付嬢である君も知らなかったんだ」


 カクタスの言葉にイリスは頷いた。

 受付嬢はギルドの看板とも言える職業だが、それでも下っ端である。接客であるからある程度の事はおしえられるが、流石に依頼の事情など知るはずもない。

 ただこれが可笑しいという事はわかる。


「受付係は基本的に依頼の内容を知りません。仕事は接客、事務仕事ですから。依頼を貼り出す際にもランク分けされたのを適当に貼るだけですし……」

「事務仕事するのに依頼の確認はしないんだ」

「えぇ。依頼を受けてそれのランクや報酬が合っているかどうか確認するのはそれ相応の部署がありますので」

「ふーん……」


 あちらのカウンターがその部署です。

 そう言われて振り返る。冒険者がよく利用する受付カウンターより少し奥、明らかに冒険者ではない老人が何かを紙に書いていた。頼りない腕で震えながら書き終わった恐らく依頼書であろう紙を、受付の少年へと渡していた。シアンや英二と同じぐらいの年頃の少年は老人と楽しそうに談笑している。


「あそこか」

「えぇ。受付の子はお手伝いの様なものでマニュアルに沿って仕事をしています。あぁでと五年ほどは働いているので、ベテランですね。そのまま正社員にならないかと言われてるほどです。だから、こんな明らかなミスするわけがないはずなんですが……」


 少し、確認してきます。

 そう言ってパタパタと奥へ駆けていくイリスを見送ったシアンは先程の少年を見る。その少年は老人から依頼料を受け取り帰って行く老人に手を振っていた。そしてふと此方に気づくと、首を傾げながらも仕事へ戻って行く。

 どう見ても単なる少年だ。慣れているのか手先にも迷いがなかった。先程の話が本当ならば、そこらの受付嬢よりは仕事ができるだろう。イリスの言葉通りきっとミスは少ないはずだ。


「どうしたのさ、シアン。そんなにあの子が気になるのか?」


 イリスを笑顔で送っていたカクタスがシアンへと歩み寄る。同じように少年を覗き、そしてシアンの顔を見た。

 カクタスの言葉にシアンは頷く。


「あぁ。どうしてもな」

「えっ、先生ってあぁいうの好みなんぅごっ!?」

「違う」


 なんとなしに気になるだけで好みでもなんでもない。会話に割り込んできた英二の頭に出現させた魔杖を叩きつけてもう一度床とご対面させてあげる。

 ゴン! という鈍い音が響いたがそれを気にする素振りもなく、ただあの少年が音に驚いて此方を見た事を利用してシアンはイリスに見せていた依頼書をピラリと見えるように突きつけた。少し距離があるせいなのか少年は首を傾げて目を細めた。しかしその瞬間、みるみると顔が青くなっていく。その様は見ていて分かりやすい程だった。


「(やっぱりな……)」


 この依頼にはあの少年が関係している。

 ただの直感であったが合っていたようだ。少し面倒な事になりそうだとシアンはため息を吐いた。


「お待たせしました! ギルド長がお待ちです、此方へどうぞ」


 ……いや、本当に面倒なことになりそうだ。











「お待たせしまい申し訳ない」


 そう言って応接間に入って来たのはこの冒険者ギルド出張所モスモ支部のギルド支部長だ。冒険者や人々からはギルド長と呼ばれる、このギルド支部で一番地位の高い人物である。

 ガタイが良く渋い髭を生やしたその男性はギルド長になる前は冒険者であったと聴いている。そもそもギルド長とは有力な冒険者がなることが多い。荒くれ者が多い冒険者を黙らせるには実力がいるからである。

 ちらりと見えた掌にある剣ダコや無数の切り傷から、現役時代彼が剣士であった事を窺わせる。


「私が冒険者ギルド出張所モスモ支部のギルド長を務めさせてもらっている、モモリと申します」

「これはご丁寧に。僕はカクタス。Bランク冒険者の称号を授かってる」

「オレはシアン。Dランクだ」

「英二です! Eランクです!」


 勇者として名を馳せていない英二ではなく、上級冒険者であるカクタスを筆頭に名乗る。

 そもそも英二は冒険者登録をしただけでクエストなどを受けていない全くの無名。そんなEランクがCランククエストについて文句があるとなると、新米が何を口を出して来ていると相手のプライドを傷つける場合がある。

 因みに姓を名乗らなかったのはわざとだ。


「それでクエストに重大な不備があったと聞いていますが……」


 丁寧な口調ではあるが、圧が凄い。あまり重要なものではなければ突っ返される勢いだ。しかしシアン達が持って来たのはギルド長が出てくる程のもの。

 自信を持ってカクタスは書類を前に出した。


「このクエストについての君の考えを聞かせていただきたい。僕は有り得ない内容だと思うよ」

「これは……」


 手に取り内容の中身を読んでいくモモリ。段々と青くなっていく顔に、先程クエスト内容を読んで青ざめていったイリスの顔が思い浮かぶ。やはりこれは有り得ない事らしい。

 ギルド長は叩きつけるように依頼書を机に置いた。その顔は怒り心頭と言うようだ。


「耀竜の幼子の捕獲……子育てでピリピリしている母竜から幼子を強奪、さらには竜だ。討伐だけならBランクだが、この内容じゃAランクでも遜色ない。それをCランク……正直頭が可笑しいな」

「ランククリアしてる僕だって受けたくない内容だよ。幼竜なんてリスクが高すぎる。しかも唯一神教が定める神聖な生物だ、彼らに目を付けられてはひとたまりもない。このクエストは即刻取り下げるべきだと、僕は思うね」


 シアンとカクタスの言葉にギルド長は興奮が収まったのか長い息を吐き、ソファに座りなおした。


「私もそう思いますが……一つ懸念事項があります」


 腕を組み、唸るように静かに呟く彼の表情は厳しいものであった。懸念事項とやらがギルド長にとって重要な案件なのだろう。シアンとカクタス、話についていけてない英二を含め全員が固唾を飲んでギルド長が話し出すのを見守った。

 重苦しい空気の中、やがてギルド長モモリは口を開いた。


「この依頼の依頼人は……ここ、冒険者ギルド出張所モスモ支部を懇意にしてくださっている貴族なんですよ」


 あぁ、とシアンは思う。

 これは確実に面倒ごとだ、と。



ギルマスは体格が良いイケオジ。

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