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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第二章 見習い勇者の旅
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記憶



「なぁ、進路先なんて書いた?」

「まだ書いてない。てか、まだ一年だぜ?」

「だよなぁー」

「お前はなんて書いたんだ?」

「漫画家」

「うっわ。テキトーかよ! ぜってぇ怒られるやつ!」


 はははと笑う。苦笑いしか浮かべられなかった。

 平凡の凡を行く俺は座学の点数も平凡、体育も運動神経だって平凡。だから普通の男子高校生のように漫画やゲームにのめり込んだ。絵を描くのに才能はいらない。ゲームをするのに才能はいらない。上手い下手さはあるけれど、努力すればする程上達する。そもそも楽しい。好きな事をするのは楽しくて、いつのまにかのめり込んで、他の人達よりは上手いと自負している。

 別にテキトーではない。いや少しあるかもしれないけれど、俺はなりたかった。何かを生み出す側に。でも、共感されないのが常。クラスメイトのカラカラとした笑顔に俺は拳を力強く握った。


「なれるわけないでしょ、漫画家なんて。他のにしなさい、他のに。漫画家は売れなきゃ食っていけないんだから、安定した収入を選ぶべきよ」


 先生にも。


「あはは! わかるー、俺も漫画家になりてー」


 友人にも。


「漫画家!? やめてよね! 漫画学校に通うとか言うの! ちゃんとした大学に入ってよ」


 親にも。


「(やっぱり、漫画家って無謀なんだろうか)」


 自分自身にも。

 誰にも相手されない。平凡な俺はやっぱり大人になっても平凡になるのだろうか。しがないサラリーマンをして、生活して、結婚して、家族ができて、それで死んで行く。

 平凡が幸せな事、それはわかってる。けれどこの内に秘める欲を、願望を物語として紡ぎたい。

 そう思うほど、苦しくなる。理解してもらいたい。共感してもらいたい。肯定してもらいたい。俺の夢を一蹴しないで欲しい。


「良いんじゃないか」


 へ?


「夢、なんだろ?」


 高校からの帰り道。河原の土手。何となく景色が良く涼しいここは俺のお気に入りの場所だった。

 人があまり通らないその場所で、ずっと独り言のように俺の夢を否定した彼らへ言葉を吐き続けて、返事なんてもらえない筈なのに、何故か声が聞こえた。

 振り返る。暗い紺色の髪、海のような青い目。染めているのだろうか、コンタクトをしているのだろうか。顔立ちは日本人なその人は、俺の隣に座ってこちらを向いた。


「努力してるんだろ?」


 …………うん。


「頑張ってるんだろ?」


 ……うん。


「本気なんだろ?」


 うんッ!


「なら目指せ。諦めるな。途中で挫けて、それでやめてしまえば周りが正しくなる。なら例え挫折したって否定されたって続けろ。そしたら、その夢は目標に、結果に、経験に変わる」


 太陽に照らせれて、顔は見えない。何故だろう視界がゆらゆらと揺れていてブレている。目から水が流れて頬を伝い俺の手に落ちた。


「見返してやれ」

「……ぐすっ、うっ、あぁ!!」







 あり日の記憶だ。







「---! -い、エ--!」


 声が聞こえる。

 微睡みの中、聞こえるけれど何を言っているのかわからない声が耳を通り抜けて行く。

 まだ寝ていたい、まだ眠い、まだ身体を起こすのには早い。


「英ー! お--!」


 まだ寝させてくれ。

 肩に乗せられた手を跳ね除けて、ほぼ無意識に布団を手繰り寄せる。包まれた暖かなそれに安堵してまた海の底に沈んで行く。

 だけど、それは急に止められる。


「てっめ! いい加減にしろッ!」


 ゴツンッ!!


「いっっっっっってぇ!!!!」


 後頭部に衝撃が走って思わず飛び起きる。たんこぶでもできたのではないだろうか。後頭部に手をやるとピリッと痛みが走り、生理的な涙が出る。

 周りを見渡すとため息を吐いたシアンがいた。右手には巨大な魔杖がある。どうやらそれで殴られたらしい。


「それやめてくれっていつも言ってるよな! 先生!」


 鈍器だから! それ! と英二が叫ぶと、シアンはふいっと横を向いた。


「お前が起きねぇから」


 子供じみたその仕草に今度は英二がため息を吐く番であった。

 シアンが持っている魔杖は特殊な材質を使っているだけあって、その強度は鉄並み。加えてシアンの背丈ほどもある長さがある。重さはその木が特殊で軽い素材な為にあまりないが、それでも勢い良く振れば鈍器になり得る。頭を叩けでもすれば致命傷になりかねない。

 その事をこの魔法使いが理解していないはずがないのだ。それでもしてしまうのは偏に癖か、わざとか。

 絶対後者だな、と英二は半目になりながら痛む後頭部を無視して叫んだ。


「ちったぁ! 反省してくれ!」


 ゴツン!


「いっっったい!!」

「誰にもの言ってんだ? 先生だぞ?」


 二個目のたんこぶをさすりながら、理不尽だと英二は呟いた。ただ気持ちよく寝ていただけなのに、何故こんな仕打ちを受けなきゃならないんだ。お陰で夢に出てきた奴の顔を忘れた。

 自身を肯定してくれた名前も知らない人。今となってはどこか既視感がある人だった。どこでだろうか? と悩むと、英二の隣に座ったシアンが此方を向いた。一瞬だけ夢の内容と重なる。


「(……い、やいやいや。流石にあり得ないだろ……)」


 何せ世界が違うのだ。同一人物なわけがなかった。そもそもシアン・アシードはここ三年間はプラム王国立魔法学園に通っていたのだ。この地に呼ばれる少し前の出来事であるのだから、時間軸が可笑しい。考えを一蹴する為にふるふると頭を振った。

 そんな挙動不審な英二にシアンは首を傾げ、暫くしてからまぁいいかと放置する。それよりも重要な話があるからだ。


「最近、魔物が活発化してきているのは知っているか?」

「えっ、あっうん。昨日だったっけかな。カクタスと一緒にギルドに行った時に聞いた」


 ギルドの受付嬢が言うには、討伐依頼がここ近年で最多だという。お陰でインフレを起こして、元々高額な難易度の高い討伐依頼が更に高額になってきているだとか。

 受付嬢のぐったりとした姿を思い浮かべて、英二はシアンの問いにそう返した。ただあの受付嬢は仕事ではなくて他の事に関してぐったりとしているような表情であったが。


「依頼が多いということはそれだけ人に関わってきているということだ。けど、力があるとはいえ動物並みの思考しか持たない魔物達がここ最近になって人間に関わるなんて可笑しいと思わないか?」


 シアンの言葉にハッとする。

 確かにそうだ。彼らは魔物でも元は動物。本能に生き、本能に死ぬ。つまりは刺激を与えたり、縄張りに入って来なければ何もしてこないのだ。なのに何故、最近になって人に関わってくるようになったのか。

 顎に手をやり考え、そして一つの可能性に辿り着く。


「まさか」

「そのまさかだ。先導者がいる」


 ゴクリと唾を飲み込んだ。


「頭の悪い魔物達に指向性を持たせ、人間を襲わせる。こういう奴、勇者として放っておけるはずないよな?」


 勇者は人間の希望。悪事を働く魔王を倒すために派遣された、人類の中で選ばれた存在だ。その存在が例え異世界の者でも、人々は縋らないとやっていけない。

 何かイベント来た! と英二は少し浮かれながら、表情は真剣に取り繕い頷いた。


「(……浮かれてやがんな。無理もないか)まぁ、今のお前ならそこらの魔物には負けないだろう。まだ本格的に事は起こされていない。それまでに討伐依頼を受けて実力を上げろ」

「あぁ! 頑張る!」


 やる気充分な返事を受けて、シアンは苦笑した。ここまでやってやるぞという気持ちがあるならば、大丈夫だろう。

 まだまだ実力派足りないが、予測した魔王と名乗る何者かの魔物を仲間にするペースと、英二の成長速度はほぼ互角。魔族は基本的に鍛錬などしないので、数ヶ月もあれば多分追いつける。相手の魔力量は魔術師以上、魔導師以下だ。

 だがまぁしかし。


「本格的な実践をするにはカクタスの許可が必要だけどな」

「えっ」

「まだ討伐依頼に行ってなかったはずだが……違うか?」

「そうだけど……先生が実力上げろ! って今言ったじゃん!」

「オレは魔法担当だ。剣、もとい実技担当のカクタスに言わないと」

「先生の独断かよ!」


 ううっと項垂れる英二にシアンは苦笑いを浮かべながら、昼食を作りに英二の部屋から出たのであった。






「(びっっっっっっくり、した……!)」


 思わず無表情で胸を押さえるシアン。どくどくと動脈が動いているのがはっきりとわかった。

 何故そんなに驚いているのか、実は挙動不審だった英二に干渉魔法“心眼”を使ったからである。この“心眼”は相手の脳に干渉して、ここ数時間で考えていたありとあらゆる事を覗き見ることができる魔法。“深層心理”で覗いても良いが、あの魔法は心の奥深くまで解錠してしまう。あくまで上辺だけ、相手を止める事なく覗くのなら“心眼”の方が最適だ。

 そんなわけで使ったのだ。“心眼”を英二に。


「(まさかあの時の奴とは……時系列バラバラすぎて気づかなかった……)」


 先程英二が夢の人物とシアンを重ねてしまったが間違いではない、本人である。

 魔法学校に入学する前にシアンは一度、結城英二の故郷である日本に行っていたことがあった。何度目かわからない魔王の失踪で魔王捜索を自身の使い魔としていた時だ。何となく河原に座り込む英二が気になって声をかけたのだ。


「(何で今まで忘れてたんだよ)」


 そして何故今思い出したのだろうか。知らないままなら知らないで突き通せたというのに。面倒だ、凄く面倒だ。ただでさえ使い魔の父親の魔王に目をつけられてる勇者に実は昔に会っていたなんて、ものすごくからかわれそうなネタだ。

 けれど思い出したのは仕方ない。もう一度心の中に仕舞い込んで、知らないフリをしよう。というより今まで通りに過ごそうではないか。

 そうしよう、そうしよう。動揺を直向きに無表情の中に隠して、シアンは階段を降りて行く。


「おわっ!?」


 そして足を滑らした。


「だ、大丈夫か!? 先生!」

「ははっ……大丈夫……」


 思ったよりとても動揺してたらしい。音に反応して出てきた心配する英二に苦笑いを返して、“収納箱”から取り出したとんがり帽子を被る。

 今ものすごく、穴があったら入りたかった。




ドジっ子属性が追加されそうなシアン先生。

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