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勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第一章 勇者召喚
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閑話 送別会



「これから、第一回シアン・アシード送別パーティ! の! 準備を始めまーーす!!」

「「いぇーい!」」

「(第二回もすんのか? これ)」


 王都にあるとある宿屋の中、金に物を言わせて宿屋を一つ貸し切った貴族の子供達は、数日後には別れる事となる友人の為に所謂お別れ会の準備を始めようとしていた。

 そのテンションは準備ではなく本番を始めるかのようで、楽しんでいる取り巻き二人とクラスメイトであるバルト・ピーコックをジト目で見ながら、ダリア・フランボワーズはハァとため息を吐いた。このテンションで行けば、間違いなく疲れると思いながら。


「それじゃ、各担当を決めていくよ。僕は総監督、指示出しだけど、この食堂の飾り付け。ダリアとその取り巻き二人、ヨットとチョークは買い出し。買う物は後でメモに書いて渡すから。それと……」


 茶色い紙に書いてある、やる事一覧から目を離し、壁際に立っているここにいる誰よりも年上であり、強者の女性へと目を向けた。

 彼女はタン・カーキー。バルトの友人であるシアンと決勝で戦った女性だ。

 彼女は、この宿を借りるという事をしてくれたのだが、彼女にだけ仕事を出さないのも不公平だろう。 バルトは少し思案してから、口を開いた。


「タン先輩は、僕のサポートを。料理はできます?」

「……それなりには」

「良かった。では、ダリア達の買い出しが終わったら料理を、それまではここの飾り付けをお願いします」

「わかった」


 タンが料理できるという事を知って安堵するバルトだが、タンの受け答えに内心首を傾げた。

 彼女は、こんなにも素っ気なかっただろうか?

 そう疑問に思うも、試合では良く喋っていたタンは普段は口数が少ないタイプなのかも知れないと考えるのをやめた。それよりも今は、この送別会の準備である。

 パーティを始めるのは夜。日が沈み、王都中から光が溢れる時。一つの区画を除いては全ての店が閉まる時間帯でもあるからか、準備の終了時間でもあるこの時までには準備をしなくては。

 少しの焦りを感じながらも、作業に移りかかった。まだ、昼過ぎだと言うのに。

 何と無く、嫌な予感は当たるものだ。






 それは突然だった。

 とある誰かからの念話で、必死な声が聞こえた。


〝ぜぇ、ぜぇふっ。おいバルト!〟

「……ダリア? どうしたんだい? そんな切羽詰まった様な」


 横で座りながら一緒に準備していたタンはバルトの様子にふっと顔を上げて、首を傾げる。バルトは腕を振って、作業には問題ない事をタンに伝えて立ち上がり、壁際に寄った。

 仕草が少し、裏の組織の様にも思える。


〝いやちょっと、昔の恋人に間違われて追いかけられてるだけだ。それよりも、メモにあった最後の材料、売り切れてるってよ。ヨットもチョークとも手分けしてあらゆる店で探したんだが〟


 前者がとても気になる案件ではあるが、今はパーティの準備が先決。何だそんな事か、と胸を撫で下ろした。お金が足りなくなったという事を想定していたバルトは安心し、顎に手を置く。

 そんな事、と先程は思ったが、思ったより重要な事だった。何せその材料はメイン料理。派手にドーンと大きい物をと思っていたのだが、どうやら季節外れで何処も入荷してないだとか。わかってはいたが。


「どうしようか、一応メイン料理だしね。インパクトが無くなるのはなぁ…………そうだ!」

〝どうした? なんか良い案が---「いたぁあああ!!!」---げぇっ!?〟

「どうせ無いなら、取ってこようかと思ってね。現地調達って奴。ってダリア?」


 プツリ。皮膚を針で刺した様な音がする。念話が切れた証拠だ。


「…………切れてる」


 はぁ、と溜息を吐く。

 どうやら予想外のイベントが起こっているようだ。焦っているからか、自称コミュ障であるダリアが普通に話せていた事には嬉しく思うが、ちゃんと材料を持って帰ってくれるのかが気がかりである。しかし、待つしかないだろう。今どこにいるのかは知らないのだし。

 取り敢えず、材料を取ってこようか。フーリとなら出来ない事はないし、タンにこの場を任せられる。


「タン先輩、そのまま作業を続けてもらえますか。少し用事ができました」

「何処か行くの?」

「材料を取りに。どうやら店には出てないらしく、現地調達をと」

「わかった」


 許可は取った。自分の身分を証明する、魔法学園の制服であるマントを羽織りながら宿を出る。左右を見渡し、王都から出る門がある方向へと歩き出した。

 目指すは、王都より一時間ほど歩いた場所にある暗い森。そこに住む魔物が目的だ。

 鳥と豚と牛と、三種の味がその身に集まっている奇妙な魔物。元々、偶々その三種が濃い魔力が湧き出る付近に集まり、魔物化と同時に融合したのではないかと言われている魔物だが、これが絶妙に美味しい肉なのだ。

 主に王国の建国記念日や、王の御即位記念、誕生祭など、王国の祝い事に使われるこの肉だが、これらの記念日が冬に集まっており、今は春なため季節外れなわけだ。祝い事が無いのに、入荷する店もないだろう。

 その魔物自体は年がら年中活動しているため、狩りに行くのは容易い。あまり強くない魔物なので、駆け出し冒険者でも狩れる程、既に中級以上の実力を持つバルトにとっては雑魚である。

 時折走り、予定より早く着いた暗い森の中に入って行く。この森は強い肉食の魔物はおらず、草食である魔物しかいない。初心者に優しい場所である。

 しかしだからと言って、油断していい場所でもない。彼らは草食だ。普段から食べられる側である彼らが、何の警戒もなしに、のうのうと生きているわけではない。返り討ちに遭えば、弱い部類に入る生き物である人種が負ける可能性の方が高い。

 バルトはフーリを呼び寄せ、辺りを警戒しながら捜索にあたった。






「あっけなかった……」


 バルトの目の前には豚の頭を持ち、牛の体を持ち、鶏の尾を持った魔物が、命を刈り取られ横たわっていた。警戒も油断もしていないと思っていたのだが、流石に季節外れであるからか、人間は襲ってこないと思っていたようだ。思ったよりアッサリと仕留めてしまった。いや、これはこれで良いのだが。

 頭は豚なのに関わらず、コケーと鶏の様に鳴くそれは、バルトの精霊魔法によって操られている蔓によって持ち上げられる。ここで血抜きをしても良いが、それでは何かを呼び寄せるかもしれない。安全に、迅速に、これを持って帰らなくては。

 しかし、蔓でバケツリレー式に運ぶという方法ができるのは森を出るまで。そこからは自力で運ばなくてはいけないのだが、この魔物、肉が詰まっているからか子豚サイズなのに牛の様に重い。バルトの細腕では運べそうにない。ダリアでも呼ぶべきだったか、と後悔した。


「はぁ……」

『バルー? おつかれー?』

「いや、大丈夫さ。心配してくれてありがとう、フーリ」

『えへへー』


 自身の相棒であるフーリの頬を指で撫でながら、微笑む。癒しだ。

 森の外へ出る道中、襲ってくる魔物や動物達を精霊魔法で追っ払いながら歩く。ここらの魔物達は弱いからか、精霊魔法を見ただけで逃げて行く。バルトもバルトで、無闇な殺生はしないタイプだ。深追いせず見逃しながらも、順調に肉を運んだ。


「(やっぱり、連絡をした方が良いかな)……タン先輩?」


 念話を発動させ、宿にいるであろうタン・カーキーへと話しかける。バルトの魔力なら、徒歩一時間ぐらいの距離ならば余裕で繋がる。この魔法は先に発動した方が魔力を消費するので、例え片方が魔力が少なくても、もう片方が多ければ長く使えるという利点がある。そもそも、遠距離の会話ができる時点で利点だらけなのだが。


〝何かあった?〟

「特に緊急とかじゃないんだけどね。ダリア達は帰っているかい?」

〝とっくに〟

「そうかい……じゃぁ彼らに、暗い森に来てくれるよう言ってくれると助かるよ。思ってたより重くてね」

『ねー!』


 何が面白いのかクスクスと笑いながら、フーリはバルトの周りを飛ぶ。既に役目は終わったというのに帰らない辺り、要請というものは自由人である。


〝わかった〟


 プツリと念話が切れる。用は済んだとばかりに切れたそれに、バルトはため息を吐く。

 相手から切ってくれるのは有難いが、面と話すのには少し辛い。作業中も終始無言で、話題を出そうにも相手は一言で返してくる。酷い時は「そう」だけである。

 タンは接しにくい印象があると感じた。試合の時は気が強く、それでいて心配性でもありそうに見えていたのに、勘違いかも知れない。やはり、自身には慧眼は無いらしい。節穴の目であったか。


『バルー? 元気ないー?』


 自身の葛藤も知らない幼い妖精は、こてんと首を傾げながらバルトの頬を撫でる。


「いいや、とっても元気さ」

『そっかー!』


 その小さな手と、己の言葉に花を咲かせたように笑う彼女に癒されながら、約一時間程ダリア達を待ち続けた。






 シアンは騒がしいところが苦手だ。

 休日は友達と遊びに行くのではなく、家でゆっくりと寛ぎたいタイプの彼にとって予想していた事だが、自分自身が主役のパーティは疲れるの一言である。

 そもそもこういう祝い事を見るのは楽しいが、祝われるのはあまり好きではない。嫌な気分ではないが、面倒なのだ。

 特に、変に高まったテンションの友人などは。


「それでは、祝! 勇者の仲間入り送別会を始めたいと思いまーーす!!」

「「イェーイ!」」

「(デジャヴ……)」

「(何だこのテンション……)」


 主役なのに非常に冷めた目で友人を見るシアンを、何故かいるイエローが笑い、そのイエローを遠巻きにしてバイブレーションの様に震えるタン、そして主役を置いて盛り上がっている三人組。


 実にカオスとも言える。


「さて! 主役のシアン・アシード! さぁ! 存分に料理を食べてくれたまえ! 僕と、タン先輩の手作りだ」


 笑顔で近づいてきたバルトの頬は火照っていて、興奮しているのがわかる。そんなにもパーティが楽しみだったのか、とシアンは思った。

 しかし、やはりというかこのテンションは疲れるな。はぁとため息を吐き、こっちこっちと腕を引っ張る友人を冷めた目で見る。シアンの視線に気づいたのか、バルトは笑顔のまま振り返った。けれど、その笑顔は少しだけ違和感がある。はて? と首を傾げた。


「どうした、シアン。僕が一から考えたんだ。もっと楽しんでくれなくては困る」


 そう言って笑う。成る程、そういうことか。

 バルトはシアンの為にこうしてパーティを催した。主役が楽しまなければ意味がない。困った様な笑みなのだ、あれは。


「愛されてんねー」


 くひひっと笑う黄色いサラサラヘアーを睨みつけながら、シアンはバルトの説明に耳を傾ける。しかし、料理に興味のないシアンにとって、バルトのレシピ説明は聞いていても良く分からない。右耳から入り、左耳からすり抜けて行くばかりである。


「見ろ! シアン! 良い盛り付けだとは思わないか? あれはタン先輩がしたんだ。料理もできて、センスもある。良い嫁になるだろうね」


 そもそも貴族は料理しません、とも言えずにシアンは流されるがまま。いつになれば料理を食べて良いのか分からず、もしかして全ての料理の説明が終わるまでなのだろうか。だとすれば、それは酷い事だ。


「(腹減った……)」


 昼ご飯は抜いてこいというバルトの言葉を聞くんじゃなかった。そう後悔しながらも、彼の笑顔を見るとどうでも良くなる。

 けれど、目の前で先に料理を食べている他の連中は許さない。見せつける様に食べている天使は特にだ。

 しかし、シアンにはその姿が見えているが他には見えないことはわかっているのだろうか。イエローが食器を片手に移動すると、他が離れて行くのを気づいているのか。


「(変な所で天然だな……)」

「シアン、聞いているかい?」

「あー、はいはい。聞いてる聞いてる」

「反応が雑い!?」


 キャラ変わった? こいつ。なんて思いながらも、シアンは数日後にはここを離れるんだな、と思い出に耽る。少しの、たった二年程しか過ごしていない王都だが、まぁ良いところだったと思う。国王は嫌いだが。

 最後にはこうしてパーティを開いてくれたのだから、学校も良いものだ。


「(また、通いたいな)」


 他の生徒はあまり好きではないが、此奴らがいるのならば通う価値はあるだろう。多大な金はかかる事は省いて。

 しかし、いつになったら食べさせてくれるのだろう。もう三分の二は他の人の胃の中に収納されているんだが。


「(まさか、最後まで?)」


 そんな、まさかな。

 シアンの懸念が当たるのは、もう少し先の話である。



第一章の後日談的な閑話があと一、二話続けば第二章に入ります。

つまり三か月後だ!

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