一休み?時々サボり?
最近、仕事の都合上筆が遅くて申し訳ありません。
やっと、主要メンバーが揃いました。
ガラッドに男の看病を頼みフィーはその後直ぐに寝てしまった。
今、部屋には読書に勤しむガラッドと高熱にうなされる男のみとなった。
体を拭いたときに特に外傷は見当たらなかった。
体調が悪いのに抗争に参加したローレンスの構成員とも思えない。何故ならばガラッドはこの男の顔に見覚えがないからだ。
女が好みそうな白い肌に整った鼻筋、さらさらな金色の髪は適度な長さで整えられており『どこぞこお坊っちゃま』と言われれば納得してしまうほどだ。
だが、抗争の数時間後にその現場に倒れている男など信用できるはずもない。
今は訳あって神父も不在な様だ。
―――さて、どうしたもんかねぇ。
ガラッドは取り合えず本のページを捲るのだった。
午後少し前にハンスが欠伸をしながらガラッドのいる救済室の扉を叩いた。
「開いてるぜ」
本から視線を離さずガラッドが答えるとハンスは扉を明け部屋の中へ入る。
ベッドの人物に気付き顔を覗き込むがハンスの表情は暗いままだ。
「やっぱり、お前も知らねぇか」
「うん。ガラッド、誰?このハンサム」
「教会の前で倒れてたんだとよ。熱が高い、明日まで下がらないなら医者だな」
「ふーん。出来すぎてるね。フィーは?」
「貧血で青白い顔してたから寝かせた」
「そっか。じゃぁ、俺が飯作るよ。材料、ガラッドでしょ?有難う。」
「いや、たいしたことねぇよ。次いでにイリアも起こしていてくれ。」
「わかった。」
そう言って部屋を出よう歩き出したハンスの背中にガラッドは声をかける。
「昼にはニコラスが帰ってくる。いい加減、慣れろよ」
その言葉にハンスは立ち止まるが決してガラッドを見ようとはしなかった。頑なに正面を向いたままハンスは声を出す。
「何でガラッドは平気なの?」
「あいつのは仕事だ。俺らに実害はねぇよ。」
「わかってる。けど…子供と遊んでる時と変わらない笑顔で拷問をこなしてる。猫を撫でるのも人間の皮を剥ぐのもニコラスにとっては変わりない。アイツは狂ってるよ」
「それでもニコは仲間だろうが。最近ハンスがよそよそしいってべそかいてたぞ。ニコラスは頭のネジ飛んでっけど悪い奴じゃねぇよ」
「ニコラスが大切なのはシルフィーナだけでしょ」
そう言ってハンスは走り出した。後ろ姿を見送った後にガラッドはため息をつく。
―――やっぱりハンスにゃマフィアは向かねぇよなぁ
本人は否定しているがガラッドの見解ではハンスの正義感は強すぎる。
マフィアの仕事は娼館の運営に麻薬と拳銃の売買。地上げに政府の黒い部分のお手伝いなどが主な仕事だ。
その反面、自分の縄張りの自警や孤児院と労働者なのど援助。一般街への麻薬や拳銃の流出防止などの表面から見たら慈善活動のまがい事をしている。
ハンスはその表面の仕事をしている。別にそれが悪いことではない。
だが、要るのだ。
そんな誇りを持てる役回りをしてる奴等の中に自分達が元来、人を食い物にしないと生きていけない職種だと忘れる奴が。
―――マフィアなんて全うなもんじゃない。
別にガラッドはハンスがその部類とまでは思っていない。
ただ、仕事の内容の反動なのかハンスは拷問や死体処理を専門にしているニコラスの仕事に嫌悪を抱いていた。
そして、それを何の葛藤も罪悪感もなくやってのけるニコラス自身にも。
ガラッドは再び大きなため息を吐いた。
イリアが起きれば孤児院は子供達が帰って来たのではないかと思えるほどに騒がしくなった。
ガラッドはハンスにイリアを起こすよう指示したことを後悔しながらベッドでうなされている男に目をやる。
「…っ…っっ。……や、やめっ…」
完全に悪夢に浸っている。
ガラッドは起こしてやるべきか悩んでいるとフィーが救済室に入ってきた。
「ガラッド、有難う。お陰ですっきりしたわ。今更で申し訳ないんだけどお仕事大丈夫だった?」
「問題ないさ。ソレに俺の部屋はエミリーとロイに占領されてたしな」
「あら?ロイも?」
「ああ。振られたんだとよ。」
そう告げると苦笑を浮かべるフィーにガラッドは本題を告げる。
「神父は?」
「まだ、帰って来てないの」
「そうか。」
嫌なことは重なるものだ。次から次へと舞い込むハプニングにガラッドは本日何度目になるか解らないため息を吐いた。
不安要素に不平を洩らしていても仕方がない。ガラッドは頭を切り替えて横でうなされている男を目で合図する。
「さっきからうなされている。熱は相変わらずだが、こりゃ精神的なもんだな。」
「そう。」
フィーはそう言って男の隣に膝立ちになる。
「…っ。…た、たす…けぇ…」
毛布から男の片手を出して自分の両手で包み込むように握り込むと優しい声色で話始めた。
「大丈夫。ここは教会です。貴方を脅かすものは有りません。どうか、ゆっくり休んでください。」
男は相変わらず呻いて要るが何度かフィーの言葉を聞くと安らかに寝息を立て始めた。
「たいしたもんだ。」
こんなことは漫画の中でしか通じない手だとガラッドは思っていたが案外、馬鹿に出来ないものだ。
ガラッドは素直に感心してフィーに称賛を述べる。
「神父様直伝の暗示法」
ソレにフィーも照れつつネタバラシとばかりに舌を出して笑顔を返した。
男が落ち着いたのを確認してからフィーはガラッドの手を借りて男の上半身を起こして薬を飲ませる。
その後、男の服を着替えさせているとイリアが救済室に入ってきた。
「飯ぃ~出来たってぇよぉ」
何時もの間延びした声に返事だけ返す。イリアは男の顔をじっと真剣に見つめた後に"ハンサムだねぇ"とだけコメントを出して食堂へ向かった。
何時もは冷やかしたりちゃかりたりするイリアの反応に違和感を覚える二人だが、時計を見ればフィーはそろそろ出かける時間だ。
フィーは昼食を取ること諦め支度を始める。
その後、ガラッドとハンスに教会を任せ、イリアの違和感を確認する間もなくフィーは子供達を迎えに出掛けた。
**********
フィーが出ていった食堂にはハンスとイリア、そしてガラッドが昼食を取っている。
別に探ることでもないとガラッドは先程の違和感を触接イリアにぶつけた。
「で、貧乳。あの金髪に心当たりあるのか?」
「知らなぁい。知っててもぉ人のことを貧乳ってぇ馬鹿にするデリカシーない男には絶っっ対にぃ教えない」
吐き捨てるように答えるイリアにハンスが仲介に入る。
「まぁまぁ。けど、本当にどうしたの?フィーにすごく優しいし。イリアって偽善者嫌いなのに」
「アイツのは偽善って自覚あるし、偽善だから相手の否定はしないでしょ。私が嫌いなのは自分が正しいって言って価値観押し付けて来る奴」
「強要するか、しないかってこと?」
「自己陶酔に殺意沸くってこと」
ガラッドが降った会話であるに関わらず最後はハンスとイリアの会話に耳を傾けながらガラッドは考える。
イリアは便利屋なんて職種と持ち前の社交性のお陰で顔が広い。
救済室で寝ている男と交流があっても可笑しくはない。
それならガラッドを通して後ろのローレンスに情報を流せばイリアのファミリーに対する印象付けにもなる。
それをしない理由、黙っていた方がイリアにとって都合がいい理由。
それはイリアがローレンスではなく別の何か側に付いている可能性。
―――本当に厄介事ばかり重なる。
ガラッドがフォークでサラダをつついてため息を洩らすと玄関が開く音がした。
「ただいまぁ」
その声にハンスの表情を曇らせ、イリアは残りの昼食を急いで口の中に入れた。
足音は食堂に一直線に向かってくる。しばらくてニコラスが食堂の扉を開けた。
「皆でお昼?僕の分有る?」
「フィーの分でよければぁあるよぉ?」
自分の分を平らげたイリアは椅子に座ったまま体だけニコラスに向けてニヤニヤ笑っていた。
「フィーの分?じゃぁ僕要らないや。後、これ!ハンスにお土産」
そう言ってニコラスはハンスの前に掌に収まるくらいのビンを置いた。中には琥珀色の液体が入っている。
「アリガト。何?これ。」
「蜂蜜だよ。昨日、頑張ってたって聞いたから、疲れてるかなって思って」
そう言ってハンスにニコリと笑いかけるニコラスだが対してハンスは微妙な顔をしている。
「ニコ、私にゃないの?」
「イーちゃん、昨日フィーに怪我させたからあげない」
イリアの軽口だったがニコラスは口を膨らませてそっぽを剥いてしまった。
「ありゃ?ニコ怒ってる?」
「…怒ってる」
イリアの問いかけにむくれたまま答えるニコラスはガラッドが見ても子供がいじけて頬を膨らませているだに見える。
それはイリアも同じだろう。イリアはニコラスに近づくと肩を抱き甘えた声を出す。
「悪かたってぇ。私なりに頑張ってフィーちゃん守ったんだよぉ?だ・か・らぁ給料とお土産ぇ貰えるかなぁ?」
「あげない!ソレにイーちゃん昨日、フィーのお手伝いしないで遊んでたでしょ!減給ものだもん」
イリアの腕を抜け出してなお、むくれるニコラスにイリアの態度が一変する。
「なんだとぉ?どこにそんな証拠が有りやがる?」
わざとらしく、胸の前で拳を作り関節をならすと、ニコラスは一瞬びびったもののイリアに体を向けて抗議を始めた。
「昨日、構成員とフィーがやり合ったって聞いたのにイーちゃん助けてくれなかった!流しに昨日の食器の二人分がそのまま残ってる!御飯、フィーに作らせたでしょ」
図星だったようで"しまった"と顔に出すイリアにニコラスの抗議は止まらない。
「何で朝御飯もフィーの分が残ってるの?フィーは子供達、迎えに行ってるかなんかでしょ?フィーの靴がないもん!」
まるで子猫が毛を逆立てて威嚇している様に全身に力を入れてイリアを責めるニコラスだが端から見ているガラッドでさえ、全く怖くない。
「でもぉ、私も頑張ったんだよぉ?昨日は子供達と野球したしぃ、フィーを担いで協会まで行ったしぃ?」
対して、図星を指されたイリアは下手に出て猫の撫で声でアピールを再開する。
「減給!!」
今更で遅いごますりも虚しくニコラスの一言が発せられるとイリアは一瞬固まった。
「ご飯代も引くから!!」
イリアの状態も察せずトドメとばかりにニコラスが宣言するとやっとイリアが動き出した。
「ニコラス?ソレに本気で言ってる?」
「ほ、本気だもん」
イリアが笑顔でニコラスに問いかけてやっとニコラスも状況がわかったのか数歩下がりながらも応戦する。
「ニコ。お前の言い分はよぉおく、わかった。」
笑顔に黒いものを含ませながらイリアは一歩、また一歩とニコラスに近づく。ニコラスもイリアが一歩近づくと同時に一歩ずつ下がる。
「ニコの癖に生意気なんだよ!!!」
五歩ぐらいそれを繰り返した所でイリアがニコラスに向かってジャンプして一気に距離を積めるとヘッドロックを決めた。
「…っ痛い!!!痛いから!!イーちゃんひどいぃ!!」
綺麗にイリアの脇に首が収まった状態で圧迫されているニコラスは叫び声をあげ始めた。
ガラッドは経験上、ニコラスが泣いているのは顔を見なくてもわかった。余りイリアをふざけさせても危ないので適当な所でガラッドが声を出す。
「やめてやれ、イリア。」
それを聞いてイリアはガラッドに視線を向けるがガラッドは首を横に降り、否定する。
それを見るとイリアは手を離す。
ニコラスは首しめから逃れると鼻を鳴らしながらガラッドが座って要る椅子の後ろに急いで隠れる。
「イーちゃん酷い!!いじめっこ!!」
ガラッドの背中から顔だけ出してイリアに抗議するニコラスはガラッドの想像通り泣いていた。
「減給どころか!食事代とるとか有り得ないの!!」
「そういえばイリア、フィーが掃除した風呂にも入ってたよね。昨日は一番に寝たし」
口で対抗するイリアだがハンスが思い出した様に呟いた一言でその場の流れが変わる。
食堂にいる全員の視線が呆れを含んだものとなった。
「イリア。諦めろ」
ガラッドが判決を下すとイリアはわざとらしくその場に崩れ落ちた。
「ハンスは私の味方じゃなかったのかぁ!!」
「別に誰の味方じゃないし」
「裏切り者ぉ!!」
「裏切るどころか同盟も組んでない」
臭い芝居を冷ややかな目で見下ろしながらガラッドは自分の背後にいるニコラスに目を向ける。
「ニコ。飯代は負けてやれ。」
「ガッチャンが言うなら…わかった」
鼻を鳴らしながら答えるニコラスにガラッドは空気を変えるためにも素朴な基本を投げ掛けた。
「そういえば、蜂蜜なんてどうしたんだ?」
「??仕事の余り。ちょっと多く買いすぎちゃったんだ」
「…仕事?」
「うん。ほら、昨日捕まえたギャングに塗ったの」
「……蜂蜜塗ってぇどうったの?」
「???手足縛って下水道に置いてきたよ?」
ニコラス意外の三人に沈黙が走る。
当のニコラスは三人の微妙な空気に首をかしげるだけだった。
「……ニコラス、これって未開封か?」
明らかに質問を間違えた。ガラッドは後悔しながら自身にフォローを入れる。
「うん。人にあげるものだから未開封だよ?」
疑問系が気になるがそれなら大丈夫だろう。
下水道にはネズミの他にも得体の知れない虫が大量に発生している。
それこそキッチンに居る黒光りする奴等や蛆虫にムカデ等のホラー映画の常連がだ。
そいつらはこぞって糖分に群がりそれを舐めとる。時にはかじられたりする。
ガラッドはそこまで考えて思考を止めた。
"全身にムラなく"蜂蜜を塗られ体の自由を奪われる。男としてもこれはキツい拷問だ。
「…ニコがフィーよりハンスを優先するなんて珍しいな」
自分の考えを振り払うように言葉を繋げるとニコラスはニッコリ笑って答えを返す。
「だってハンスは頑張ってくれたんでしょ?」
そう言ってハンスに"ありがとう"と笑いかける。
ハンスはその顔に困ったように笑うだけだった。
有難うございました。
最近、面白いとは何か考える様になりました。
面白い作品をかけるよう、自分が執筆を頑張れるよう、誤字脱字を無くせるよう精進して参ります